問1 重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome: SFTS)とはどのような病気ですか?
答 2011年に中国において新しい感染症として流行していることが報告された病気です。病原体は、SFTSウイルスであることが確認されました。主な初期症状は発熱、全身倦怠感、消化器症状で、重症化し、死亡することもあります。
問2 重症熱性血小板減少症候群は、世界のどこで発生していますか?
答 2011年以降、日本、中国、韓国、台湾及びベトナムで患者発生が確認されています。アジアの広い地域で流行している可能性があります。
問3 日本でSFTS患者はどのくらい発生していますか?
答 2013年1月、SFTSの患者(2012年秋に死亡)が国内で初めて確認されて以降、毎年60~100名程度の患者が報告されています。
(問11参照)
問4 どうして日本で感染したと分かったのですか?
答 海外渡航歴のない日本在住の患者から分離されたウイルスがSFTSウイルスと同定されました。このウイルスの遺伝子のタイプは、中国の流行地域で見つかっているSFTSウイルスのタイプとは異なっていました。つまり、日本のSFTSウイルスは、中国から入ってきたものではなく、以前から日本国内に存在していたと考えられます。その事実から患者は日本国内でSFTSウイルスに感染したと言えます。
問5 SFTSウイルスにはどのようにして感染するのですか?
答 ウイルスを有するマダニに咬まれることにより感染します。多くの場合、マダニに咬まれてSFTSウイルスに感染すると考えられますが、マダニに咬まれた痕が見当たらない患者もいます。
最近の研究では、SFTSウイルスに感染し、発症している野生動物やネコ・イヌなどの動物の血液からSFTSウイルスが検出されています。特にSFTSウイルスに感染し、発熱、消化器症状(食欲不振等)を呈しているネコやイヌに咬まれたり、血液などの体液に直接触れたりすることで、SFTSウイルスに感染する可能性は否定できないと考えられます。
問6 ネコやイヌからSFTSウイルスに感染する危険性があると言うことですか?
答 ネコやイヌがSFTSウイルスに感染するとヒトで認められる症状
(問36参照)を呈することがあります。SFTSウイルスに感染し、発症している動物の血液などの体液に直接触れた場合、SFTSウイルスに感染する可能性があります。実際に、ネコに咬まれたことが原因でSFTSウイルスに感染した事例が報告されています。ただし、健康なネコやイヌ、屋内のみで飼育されているネコやイヌからヒトがSFTSウイルスに感染した事例はこれまでに報告がありません。
問7 ネコなどの動物からSFTSウイルスに感染しないようにするためには、どのように予防すればよいですか?
答 動物由来感染症に対する予防の観点からも、
・動物を飼育している場合、過剰な触れ合い(口移しでエサを与えたり、動物を布団に入れて寝たりすることなど)は控えてください。また、動物に触ったら必ず手を洗いましょう。また、動物に付着したマダニは適切に駆除しましょう
(問20参照)。飼育している動物の健康状態の変化に注意し、動物が体調不良の際には、咬まれたり舐められたりしないように細心の注意を払いながら、動物病院で診てもらって下さい。ペットがマダニに咬まれないようダニ駆除剤も有効です。獣医師に相談しましょう。
・野生動物は、どのような病原体を保有しているか分かりません。野生動物との接触は避けてください。また、動物の死体等に接触することは控えましょう。
・体に不調を感じたら、早めに医療機関を受診してください。受診する際は、ペットの飼育状況やペットの健康状態、また動物との接触状況についても医師に伝えてください。
問8 マダニは、屋内で普通に見られるダニとは違うのですか?
答 マダニと食品等に発生するコナダニや衣類や寝具に発生するヒョウヒダニなど、家庭内に生息するダニとでは種類が異なります。また、植物の害虫であるハダニ類とも異なります。
マダニ類は、固い外皮に覆われた比較的大型(種類にもよりますが、成ダニでは、吸血前で3~8mm、吸血後は10~20mm程度)のダニで、主に森林や草地に生息していますが、市郊外、市街地でも生息しています。
問9 どのような種類のマダニがSFTSウイルスを保有しているのですか?
答 中国では、フタトゲチマダニやオウシマダニといったマダニ類からSFTSウイルスが見つかっています。また、韓国でもフタトゲチマダニがSFTSウイルスを保有しているとの報告があります。日本には、命名されているものだけで47種のマダニが生息するとされていますが、これまでに実施された調査の結果、複数のマダニ種(フタトゲチマダニ、ヒゲナガチマダニ、オオトゲチマダニ、キチマダニ、タカサゴキララマダニ)からSFTSウイルスの遺伝子が検出されています。日本ではフタトゲチマダニとタカサゴキララマダニがヒトへの感染に関与しています。
フタトゲチマダニ
タカサゴキララマダニ
(国立感染症研究所昆虫医科学部提供)
問10 全てのマダニがSFTSウイルスを保有しているのですか?
答 全てのマダニがSFTSウイルスを保有しているわけではありません。中国の調査では、患者が発生している地域で生息しているフタトゲチマダニの数%からSFTSウイルスの遺伝子が見つかったと報告されています。日本国内では、これまでに複数のマダニ種(フタトゲチマダニ、ヒゲナガチマダニ、オオトゲチマダニ、キチマダニ、タカサゴキララマダニ)からSFTSウイルスの遺伝子が検出されています。ウイルス保有率は地域や季節によりますが、0~数%です。
問11 マダニに咬まれたことにより感染する病気は国内に他にありますか?
答 日本紅斑熱、ライム病など多くの感染症がマダニによって媒介されることが知られています。北海道ではマダニによって媒介されるダニ媒介脳炎の患者が発生しています。また、ダニの一種であるツツガムシによって媒介される、つつが虫病もあります。SFTS、日本紅斑熱、ライム病、つつが虫病及びダニ媒介性脳炎の日本国内での年間報告数(2014年~2018年)は下表のようになっております。
|
重症熱性血小板減少症候群* |
日本紅斑熱 |
ライム病 |
つつがむし病 |
ダニ媒介性脳炎 |
2014年 |
61 |
241 |
17 |
320 |
0 |
2015年 |
60 |
215 |
9 |
423 |
0 |
2016年 |
60 |
277 |
8 |
505 |
1 |
2017年 |
90 |
337 |
19 |
447 |
2 |
2018年 |
77 |
305 |
13 |
456 |
1 |
*重症熱性血小板減少症候群(病原体がフレボウイルス属SFTSウイルスであるものに限る。)
・日本紅斑熱、ライム病、つつが虫病は基本的には抗菌薬で治療されます。しかし、現時点ではSFTSとダニ媒介脳炎には、有効な抗ウイルス薬はなく、患者の症状にあわせた治療がなされます。
問12 マダニからSFTSウイルスに感染しないようにするためには、どのように予防すればよいですか?
答 マダニに咬まれないように気をつけることが重要です。これは、SFTSだけではなく、国内で毎年多くの報告例がある、つつが虫病や日本紅斑熱など、ダニが媒介する他の疾患の予防のためにも有効です。特にマダニの活動が盛んな春から秋にかけては、マダニに咬まれる危険性が高まります。草むらや藪など、マダニが多く生息する場所に入る場合には、長袖・長ズボン(シャツの裾はズボンの中に、ズボンの裾は靴下や長靴の中に入れる、または登山用スパッツを着用する)、足を完全に覆う靴(サンダル等は避ける)、帽子、手袋を着用し、首にタオルを巻く等、肌の露出を少なくすることが大事です。服は、明るい色のもの(マダニを目視で確認しやすい)がお薦めです。DEET(ディート)やイカリジンという成分を含む虫除け剤の中には服の上から用いるタイプがあり、補助的な効果があると言われています。また、屋外活動後は入浴し、マダニに刺されていないか確認して下さい。特に、首、耳、わきの下、足の付け根、手首、膝の裏などがポイントです。マダニに吸血された場合には、皮膚科などを受診してマダニを除去してもらって下さい
(問14参照)。
問13 国内で患者が報告された地域以外でも注意が必要ですか?
答 これまでのところ、SFTSの患者は、西日本を中心に発生していますが、徐々に患者発生が確認された地域が広がっています。これまでに患者が報告された地域以外でもSFTSウイルスを保有するマダニや感染した動物が見つかっていますので、SFTS患者の発生が確認されていない地域においても注意が必要です。
問14 マダニに咬まれたら、どうすればよいですか?
答 マダニ類の多くは、ヒトや動物に取り付くと、皮膚にしっかりと口器を突き刺し、長時間(数日から、長いものは10日間以上)吸血しますが、咬まれたことに気がつかない場合も多いと言われています。吸血中のマダニに気が付いた際、無理に引き抜こうとするとマダニの一部が皮膚内に残って化膿したり、マダニの体液を逆流させて病原体が体内に入りやすくしてしまう恐れがあるので、医療機関(皮膚科など)で処置(マダニの除去、洗浄など)をしてもらってください。また、マダニに咬まれた後、数週間程度は体調の変化に注意をし、発熱等の症状が認められた場合はすみやかに医療機関で診察を受けて下さい。その際、マダニに咬まれたことを医師に説明して下さい。
問15 ヒト以外の動物もマダニに咬まれてSFTSにかかるのですか?
答 国内ではSFTSウイルスに感染し、発症したネコ、イヌ及びチーターが報告されています。現在のところ、西日本を中心に感染した動物が報告されてきており、ヒトでの患者発生地域と重なります。一般的に動物がSFTSウイルスに感染した場合、多くは症状を示さない不顕性感染すると考えられていますが、ネコでは発熱・元気消失・嘔吐・黄疸などの症状を示し、重症化して約6割が死亡しています。また、国内において、シカ、イノシシ等の野生動物や猟犬の血液を検査したところ、SFTSウイルスに対する抗体を持っている(=過去にSFTSウイルスを保有するマダニに吸血されて、SFTSウイルスに感染したことのある)動物がいることが分かっています。
問16 SFTSウイルスに感染した動物を食べてもSFTSにかかったりしませんか?
答 動物由来食品(肉や乳など)を食べたことによって、ヒトがSFTSウイルスに感染したという事例の報告はありません。また、ある動物がSFTSウイルスに対する抗体を持っているということは、その動物が、過去にSFTSウイルスに感染し、SFTSウイルスを体内から排除する免疫を獲得していることを意味します。抗体自体に病原性はないので、SFTSウイルスに対する抗体を持っている動物を食べても問題ありません。ただし、一般的な注意事項として、野生動物を食用にする場合(ジビエなど)は、動物由来感染症や食中毒を防ぐ観点から、捕獲・処理・加工する際の衛生的な処理や十分な加熱調理等、適切な取扱いを行うことが重要です。
参考:食品安全委員会 「
ジビエを介した人獣共通感染症」
問17 SFTSにかかりやすい、または、重症化しやすい年齢はありますか?
答 中国では、SFTSの患者の年齢層は30~80歳代で、全患者の75%が50歳以上との報告があります。ただし、患者の年齢構成については、生物学的・医学的要因だけではなく、社会的な要因(発生地域の人口構成、職業構成、医療体制など)の影響も受けると考えられます。日本でこれまでに確認されたSFTS患者の年齢層は、5歳~90歳代で、全患者の約90%が60歳以上となっています。亡くなった患者の多くは50歳以上なので、高齢者は重症化しやすいと考えられます。
問18 SFTSの致命率はどのくらいですか?
答 中国では、致命率は6-30%とされています。国立感染症研究所の最新の研究によると、日本のSFTS患者の致命率は約30%です。
(参考:致命率(case fatality rate)とは、ある特定の病気にかかったと診断され、報告された患者のうち、一定の期間内に死亡した患者の割合を示したものです。)
問19 マダニ以外の他の吸血昆虫を介してSFTSにかかることはないのですか?
答 ありません。
(参考:一般的に、蚊やマダニなどの節足動物が媒介する感染症は、その病原体ごとに媒介する節足動物がおおよそ決まっています(例えば、日本脳炎は蚊、日本紅斑熱はマダニ、発疹チフスはシラミが媒介します)。中国のSFTSの流行地域では、マダニからはSFTSウイルスが見つかっていますが、蚊からは見つかっていません。SFTSにおいては、マダニが人への感染に関わっています。)
問20 ペットにマダニが付いていたのですが、そのマダニを介してヒトがSFTSにかかることはありますか?
答 ペットに付いているマダニに触れたからといって感染することはありません。しかし、マダニに咬まれれば、その危険性はあります。マダニ類はイヌやネコ等、動物に対する感染症の病原体を持っている場合もありますので、ペットの健康を守るためにも、ペットがマダニに咬まれないようにしましょう。また、付いているマダニは適切に駆除しましょう。ペット用のダニ駆除剤等がありますので、かかりつけの獣医師に相談してください。散歩後にはペットの体表をチェックして下さい。目の細かい櫛をかけることも効果的です。マダニが咬着している(しっかり食い込んでいる)場合は、無理に取らず、獣医師に除去してもらうのがよいでしょう。