手足口病とは
2020年12月10日更新
 
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概要

 手足口病(hand, foot and mouth disease:HFMD)は、口腔粘膜および手や足などに現れる水疱性の発疹を主症状とした急性のウイルス性感染症であり、乳幼児を中心に主に夏季に流行します。この感染症の原因となるウイルスはエンテロウイルス属と呼ばれているウイルスの仲間でありその中でもコクサッキーA16(CA16)、エンテロウイルス71(EV71)が主に手足口病を引き起こすウイルスとしてよく知られていますが、他にCA9やCA10なども原因ウイルスとなります。加えて、以前は主にヘルパンギーナの原因ウイルスとして認識されていたCA6による手足口病が近年は目立つようになってきており、日本では2009年に最初の報告例があり、その後しばしば大きな流行を起こすようになっています。基本的に予後は良好な疾患ですが、急性髄膜炎の合併が時に見られ、稀ではありますが急性脳炎を生ずることもあり、なかでもEV71は中枢神経系合併症の発生率が他のウイルスより高いことが知られています。

病原体

 CA16、EV71、CA6さらにCA6などのエンテロウイルス(A群エンテロウイルス,Enterovirus A)が病因となります。ヒト-ヒト伝播は、主として咽頭から排泄されるウイルスによる飛沫感染でおこりますが、便中に排泄されたウイルスによる経口感染、水疱内容物からの感染などがありえます。便中へのウイルスの排泄は長期間にわたり、症状が消失した患者も2~4週間にわたり感染源になりえます。腸管で増殖したウイルスがウイルス血症後中枢神経系(特にEV71)に到達すると、中枢神経症状を起こす可能性があります。いちど手足口病を発病すると、その病因ウイルスに対しての免疫は成立しますが、他のウイルスによる手足口病を起こすことはあります。

疫学

 手足口病は主に夏季に流行する感染症であり、例年7月頃に流行のピークを迎えています。年齢別にみると5歳以下が流行の中心であり、感染症発生動向調査の小児科定点医療機関からの報告によると、2歳以下からの報告数が全体の約半数を占めています。2000年以降では、EV71が「2000年、2003年、2006年、2010年に流行し、CA16は2002年、2008年、2011年に流行しました。一方、2011年と2013年にはCA6による手足口病の流行が全国に拡大し、大規模な流行となり、成人での発症例も少なからずみられました(図)。

症状

 従来のCA16およびEV71による手足口では、3~5日間の潜伏期間の後に、口腔粘膜、手掌、足底や足背などの四肢末端に2~3mmの水疱性発疹が出現してきます。発熱は約3分の1に認められますが軽度であり、高熱が続くことは通常はありません。通常は3~7日の経過で軽快し、水疱の跡が痂皮(かさぶた)となることもありません。このように手足口病は基本的には数日間の内に治癒する予後良好の疾患ですが、まれではあるものの髄膜炎を合併することがあり、非常に少ない例ですが、他に小脳失調症、脳炎などの中枢神経系の合併症などのほか、心筋炎、急性弛緩性麻痺などの多彩な臨床症状を呈することもあります。特にEV71に感染した場合は、中枢神経系の合併症を引き起こす割合が高いことが明らかとなってきていますので注意が必要です。

 一方、近年みられるようになったCA6による手足口病では、水疱が5mm程度と大きく、四肢末端に限局せずに前腕部から上腕部、大腿部から殿部と広範囲に認められ、発熱も39℃を上回ることも珍しくなく、水痘との鑑別が困難な例もあります。また、手足口病を発症して治癒した後に、数週間を経て上下肢の爪が脱落する爪甲脱落症を来す場合があり、CA6を原因とする手足口病の特徴となっています。

治療

 特異的な治療法はなく、抗菌薬の投与は意味がありません。発疹に痒み(そう痒感)などを伴うことは稀であり、抗ヒスタミン薬の塗布を行うことはありますが、通常は外用薬としての副腎皮質ステロイド剤は用いられません。口腔内病変を伴いますので、乳幼児の場合は刺激にならないように柔らかめで薄味の食べ物が奨められますが、水分が不足しないように、経口補液などで水分を少量頻回に与えることのほうがより重要です。時には脱水を防ぐために経静脈補液が必要となる場合もあります。発熱に対しては、通常は解熱剤なしで経過観察が可能です。しかし、元気がない(ぐったりしている)、頭痛、嘔吐、高熱、2日以上続く発熱などの場合には髄膜炎、脳炎など中枢神経系の病変の合併に注意する必要があります。ステロイド剤の多用が症状を悪化させることが示唆されています。

感染経路

 手足口病の感染経路としては飛沫感染、接触感染、糞口感染があげられます。保育園や幼稚園などの乳幼児施設においての流行時の感染予防は手洗いの励行と排泄物の適正な処理が基本となります。しかし、本疾患は主要症状が回復した後も比較的長期間に渡って児の便などからウイルスが排泄されることがあり、加えて流行時には無症状病原体保有者も相当数存在していると考えられるため、発症者のみを隔離したとしても、効果的な感染拡大防止策となるとは考え難いです。基本的には軽症疾患であることを踏まえ、回復した児に対して長期間の欠席を求めることも得策ではありません。

参考資料として
・手足口病とは.国立感染症研究所ホームページ
http://www.nih.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/441-hfmd.html
・Control of Communicable Diseases Manual 19th Edition. An official report of the American Public Health Association: 2008
監修:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏
更新:2015/5

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