ジフテリアとは
2020年12月23日更新
  
 
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概要

 ジフテリアはジフテリア菌の感染によって生じる上気道粘膜疾患ですが、眼臉結膜・中耳・陰部・皮膚などがおかされることもあります。感染、増殖した菌から産生された毒素により昏睡や心筋炎などの全身症状が起こると死亡する危険が高くなりますが、致命率は平均5~10%とされています。現在日本ではトキソイドワクチンの接種により患者は激減し、年間数例が散発的に報告されるだけとなりましたが、1990年代前半からの旧ソビエト連邦での大流行は、欧州各地を巻き込んだ国際的な問題となりました。ジフテリアは国際的に予防対策が必要かつ可能な疾患として扱われ、WHOではExpanded Program on Immunization(EPI:拡大予防接種事業)の対象疾患の1つとしてワクチン接種を奨励しています。

 日本におけるジフテリア患者の届け出数は、1945年には約8万6千人(その約10%が死亡)でしたが、最近10年間(1991~2000年)では21人(死亡2人)と著しく減少しました。ジフテリアを含む三種混合ワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風:DPT)は世界各国で実施されており、その普及とともに各国においてジフテリアの発生数は激減しています。

 旧ソ連圏では、かつてはDPTの普及によってジフテリア患者数は極めて少数となっていましたが、政権崩壊のあおりを受けてワクチンの供給不足、あるいは安定性の低下によって住民の免疫レベルは低下し、その結果旧ソ連圏一帯でジフテリアが再び流行しました。1990~1995年で125,000人の患者が発生し、4,000人以上の死亡が確認されました。国際協力によるワクチンの接種強化により、旧ソ連でのジフテリアは再び減少しました。このようにワクチン接種率が低下すると、ジフテリアは再び流行する危険性があることが示唆されています。欧米諸国や発展途上国でも散発例が見られており、海外渡航者の感染発症事例もあります。

症状

 2~5日間程度の潜伏期を経て、発熱・咽頭痛・嚥下痛などで始まります。鼻ジフテリアでは血液を帯びた鼻汁、鼻孔・上唇のびらんがみられます。扁桃・咽頭ジフテリアでは扁桃・咽頭周辺に白~灰白色の偽膜(正常の構造をもたない膜。繊維素と壊死組織からなる滲出物が固まってできる)が形成されます。ジフテリアの偽膜は厚く、その境界は鋭利で剥れにくく、剥がすと出血しやすいです。頸部リンパ節炎が特徴的であり、高度に腫張すると牛頚(bull neck)状となります。喉頭ジフテリアは咽頭ジフテリアから発展する場合が多く、嗄声(しわがれ声)・犬吠性咳嗽(犬の吠える声に似た乾いた咳)が特徴的です(真性クループ)。気道にも偽膜が形成されるため、呼吸困難が生じます。膜形成が声門、気管支まで進展すると、気道閉塞をきたし死に至ることもあります。

 合併症としては早期(1~2病週)および回復期(4~6病週)にあらわれる心筋炎がもっとも予後不良で、この間は突然死に対する厳重な警戒が必要です。したがって、主症状が改善した後も慎重な観察が必要となります。末梢神経炎による神経麻痺は合併症の頻度として高いものの、予後は比較的良好です。

治療

 治療開始の遅れは予後に著しい影響を与えるので、臨床的に本症が疑わしければ確定診断を待たずに治療を進める必要があります。
治療には動物(ウマ)由来の血清療法が行われるので、アナフィラキシーに対して十分な配慮をする必要があります。治療により、予測不能なショック症状およびショック死の可能性もあり得ます。抗菌薬としてはペニシリン、エリスロマイシンなどに感受性がありますが、予防に勝る治療法はありません。

予防

 予防としては、世界各国ともEPI:予防接種拡大プログラムワクチンの一つとして、DPTワクチンの普及を強力に進めています。日本では1948年にジフテリア単独ワクチン、1958 年にジフテリア・破傷風混合ワクチン、1968年以降にDPTワクチンとなり、さらに1981 年から現行のDPTワクチン(百日咳ワクチンは無細胞ワクチン)となっています。予防接種の普及により、日本では現在年間1名程度の発症が報告されているにすぎませんが、今後ワクチン接種者が減少した場合や、海外からの持ち込みにより流行の可能性が懸念されます。

ワクチン

 平成26(2014)年8月現在、ジフテリアの定期接種として使用できるワクチンは、DPT-IPV(4種混合)、DPT(3種混合)、DT(2種混合)の3種類です。

 DPT-IPV(4種混合)ワクチンは平成24(2012)年7月27日に承認され、平成24(2012)年11月1日から定期接種に導入されました。2種類のDPT-sIPV(4種混合ワクチン)の臨床試験において、製造販売承認時までに得られた主な副反応は、接種部位の副反応として注射部位紅斑、注射部位硬結、注射部位腫脹等、注射部位以外の副反応として発熱、気分変化、下痢、鼻漏、咳、発疹、食欲減退、咽頭発赤、嘔吐等が見られました。国内のDPT-cIPV(4種混合ワクチン)の臨床試験において、製造販売承認時までに得られた主な副反応は、接種部位の副反応として注射部位紅斑、注射部位硬結、注射部位腫脹、注射部位疼痛等、注射部位以外の副反応として発熱、易刺激性(不機嫌)、泣き、傾眠、鼻漏、咳、発疹、食欲減退、下痢、嘔吐等がみられました。また、DPT-sIPV、DPT-cIPVともに、重大な副反応として、極めてまれにショック、アナフィラキシー、血小板減少性紫斑病、脳症、けいれん等が見られることがあります。 令和元(2019)年11月1日~令和2(2020)年2月29日までの副反応報告頻度は、医療機関からの報告が0.0011%、製造販売業者からの報告が0.00084%でした。

 3種混合ワクチン(DPT)は、2018年1月29日から再び使用可能となりました。

参考資料として
・国立感染症研究所ホームページ「ジフテリアとは」
http://www.nih.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/411-diphteria-intro.html
・「予防接種に関するQ&A集・百日咳・ジフテリア・破傷風・ポリオ」-一般社団法人日本ワクチン産業協会(岡部信彦 川崎市健康安全研究所所長、多屋馨子国立感染症研究所感染症疫学センター第三室(予防接種室)室長 )
・国立感染症研究所「日本の定期/任意予防接種スケジュール」(2020年10月1日現在)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/schedule.html
監修:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏

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