国立感染症研究所の2025年第3週(1/13-19)速報データによると、伝染性紅斑の全国の定点当たり報告数は0.95。全国的には、まだ低い数字ですが、首都圏や東北地方の一部で、患者報告が多くあがっています。都道府県別にみると、青森県(2.97)・福島県(2.43)・埼玉県(3.06)・千葉県(2.6)・東京都(2.32)・栃木県(2.04)で定点2を超えています。伝染性紅斑は、新型コロナウイルス感染症が流行した2020年以来、患者の発生はほとんどありませんでしたが、2024年から、各地で患者の発生が見られるようになりました。2025年も、注意が必要な感染症です。伝染性紅斑は、幼児・学童が多くかかる感染症とされますが、成人も発症するケースがあります。今回、ご紹介するのは「感染症・予防接種ナビ」に寄せられた、埼玉県の40歳の方からの経験談です。
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伝染性紅斑経験談 40歳 埼玉県
1/11(1日目)悪寒、発熱(風邪症状なし)
1/12(2日目)解熱、食欲不振→インフル・コロナ検査陰性
1/13(3日目)夕方から発熱、食欲不振
1/14(4日目)朝解熱し夕方から発熱、下痢
1/15(5日目)朝解熱、四肢体幹発疹、夕方から発熱
1/16(6日目)解熱、発赤継続、四肢の浮腫
→皮膚科、内科受診し溶連菌陰性、採血にて白血球・血小板軽度低下あり
1/17(7日目)発疹ほぼ消失、手指・膝の強張りと痛み頚部痛み
→内科受診し採血にてリウマチ因子上昇あり
1/18(8日目)関節の強張り消失、両腕の筋肉痛により腕の挙上困難
1/19(9日目)両腕筋肉痛軽減、手のひらの痛み
1/20(10日目)筋肉痛消失、手のひらの痛み
→採血結果にてパルボB19 IgM抗体上昇あり
1/21(11日目)全症状消失
採血結果がすぐに出なかったため、膠原病やリウマチも疑われたり、次々に出てくる症状に不安もありました。症状消失後でしたが幸いにも診断名が分かりとても安心しました。今後は、リウマチを否定するためにリウマチの検査も1ヶ月後に予定しています。改めて、伝染性紅斑は大人で感染すると大変だと実感しました。私の経験が少しでも他の方の参考になれば嬉しいです。
感染症に詳しい医師は…
感染症に詳しい大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長の安井良則医師は「詳細な経験談をお寄せ頂き、ありがとうございます。今回のケースも、直接、診察した訳では無いので分からない部分もありますが、症状やパルボウイルスの抗体が上昇していることから、伝染性紅斑(りんご病)の経過だと考えられます。伝染性紅斑は、お子さんを中心にみられる感染症で、両頬に、赤い発しん(紅斑)が現れ、続いて、体や手・足に網目状やレース状の発しんが広がります。お子さんの場合、比較的、症状は軽いことが多いです。一方で、成人、特に女性が罹患した場合、皮膚病変は、あまり耳にしませんが、関節痛・頭痛などの症状が出て、1-2日間、歩行困難な症例も珍しくありません。今回、お寄せ頂いたケースは、発熱から関節痛などと言った症状が少し長引いた上に、原因が分からないことで、不安な思いをされたと思います。しかし、症状が治まったことは、本当によかったです。辛い思いをされたと思いますが、お大事になさってください。現在、関東地方・東北地方の一部で、流行がみられます。いずれ、全国に広がっていくと考えられます。注意してください」としています。
別名「りんご病」とも呼ばれる、伝染性紅斑
伝染性紅斑はヒトパルボウイルスB19というウイルスが原因の感染症です。患者は5〜9歳が最も多く、ついで0〜4歳となっていますが、成人でも罹患することがあります。通常は飛沫また接触感染でうつります。10〜20日の潜伏期間のあと、この感染症の特徴である頬に赤い発しんが現れます。リンゴのように赤くなるので「リンゴ病」とも呼ばれることがあります。続いて手・足に網目状(レース状・環状)などと表現される発しんがみられ、胸・腹・背中にも現れることがあります。これらの発しんは1週間前後で消失しますが、中には長引いたり、一度消えた発しんが短期間のうちで再び出現することがあります。成人の場合は関節痛・頭痛などを訴え、関節炎症状により1〜2日歩行困難になることがありますが、ほとんど合併症を起こすことなく自然に回復します。
症状が出る頃には、ウイルスの排泄はほぼ終わっている
伝染性紅斑の特徴として、頬が赤くなるなどの症状がありますが、その発しんが出る7〜10日くらい前に微熱やかぜのような症状(前駆症状)が見られることが多いとされています。実はその時期にウイルス血症を起こしており、ウイルス排泄量が最も多くなっています。そして、発しんが現れた頃にはウイルス血症は収束しており、ウイルスの排泄はほとんどなく、感染力はほぼ消失しています。つまり、知らないうちに感染し、他の人にもうつしている可能性があるのです。
気がかりな胎児感染
伝染性紅斑はかかっても症状としては、さほど重くはありませんが、妊婦がかかると胎児に影響があるという問題があります。妊婦が感染すると胎児の異常(胎児水腫)および流産があります。妊娠前半期の感染がより危険で、胎児死亡は感染から4〜6週後に生ずることがあると報告されています。また、妊娠後半期にも胎児が感染することがあり、妊娠のどの時期においても安心することはできません。しかし、風しんほどの危険性はなく、妊婦が感染しても分娩の経過や発育が正常であることも多いとされています。
妊婦が感染しない、させない工夫を
安井医師「伝染性紅斑の流行で気がかりなのは、妊婦さんの感染です。きょうだいが通っている保育園などで伝染性紅斑の患者が出ている場合には、施設内への立ち入りを制限するなどの配慮が必要です。お迎えの時には園内までに入らない、行事の際にはしっかりとマスクを着用して、終わったらすぐに帰るなどの対応が必要です。大切なことは、伝染性紅斑の情報を園の職員と保護者全員がしっかりと共有すること。そして、感染した場合のリスクが高い妊婦さんを皆で協力しあって守ることが重要だと思います」
引用
国立感染症研究所:IDWR速報データ2025年第3週、伝染性紅斑とは、伝染性紅斑(ヒトパルボウイルスB19感染症)
厚生労働省:伝染性紅斑
取材
大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長 安井良則氏