2024年10月に注意してほしい感染症について、大阪府済生会中津病院の安井良則医師に予測を伺いました。流行の傾向と感染対策を見ていきましょう。
【2024年】10月に注意してほしい感染症!マイコプラズマ肺炎本格流行時期に… 劇症型含む溶連菌感染症の動向に注意 医師「梅毒の急激な増加、気がかり」
【No.1】マイコプラズマ肺炎
最も注意して頂きたい感染症に、マイコプラズマ肺炎を挙げました。家庭・学校などで、広がる恐れがあります。学校再開後は、特に注意が必要です。別名、オリンピック病と呼ばれ、4年に一度、オリンピックの年に流行すると言われています。しかし、前回の東京オリンピック開催予定年であった2020年は、コロナ禍で流行することはありませんでした。2024年に入り、徐々に患者数の報告が増えており、今年は流行すると予測しています。8年間ほど流行していなかったため、流行すると入院される方も増加します。2024年8月中旬時点のデータをみると、年初から、大きく増加。秋口あたりから、本格的な流行に移行する恐れもあり、注意が必要です。マイコプラズマ肺炎とは、肺炎マイコプラズマを病原体とする呼吸器感染症です。飛沫感染による経気道感染や接触感染によって伝播すると言われています。感染には濃厚接触が必要と考えられており、保育施設、幼稚園、学校などの閉鎖施設内や家庭などでの感染伝播はみられますが、短時間の曝露による感染拡大の可能性はそれほど高くはありません。潜伏期間は、2~3週間とインフルエンザやRSウイルス感染症等の他の小児を中心に大きく流行する呼吸器疾患と比べて長いです。初期症状として、発熱、全身倦怠、頭痛などが現れた後、特徴的な症状である咳が出現します。初発症状発現後3~5日から始まることが多く、乾いた咳が経過に従って徐々に増強し、解熱後も長期にわたって(3~4週間)持続します。抗菌薬投与による原因療法が基本ですが、「肺炎マイコプラズマ」は細胞壁を持たないために、β-ラクタム系抗菌薬であるペニシリン系やセファロスポリン系の抗生物質には感受性はありません。蛋白合成阻害薬であるマクロライド系(エリスロマイシン、クラリスロマイシン等)が第1選択薬とされてきましたが、以前よりマクロライド系抗菌薬に耐性を有する耐性株が存在することが明らかとなっています。近年その耐性株の割合が増加しつつあるとの指摘もあります。最初に処方された薬を服用しても症状に改善がみられない場合は、もう一度医療機関を受診していただくことをお勧めします。
【No.2】A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症) は、学校・幼稚園・保育園などでの流行が多くみられます。幼稚園・保育園・小学校など集団生活の場で、流行することなどから、注意が必要です。患者報告数も、2024年4月時点で、高い水準を維持しています。9月は、学校・幼稚園等の夏休みが明けるため、再び一定程度の報告数が出てくるものと予測しています。溶連菌感染症は、例年、冬季および春から初夏にかけての2つの報告数のピークが認められています。保育所や幼稚園の年長を含め、学童を中心に広がるので、学校などでの集団生活や、きょうだい間での接触を通じて感染が広がるので、注意しましょう。感染すると、2~5日の潜伏期間の後に発症し、突然38度以上の発熱、全身の倦怠感、喉の痛みなどが現れ、しばしば嘔吐を伴います。また、舌にイチゴのようなぶつぶつができる「イチゴ舌」の症状が現れます。まれに重症化し、全身に赤い発疹が広がる「猩紅熱(しょうこうねつ)」になることがあります。発熱や咽頭痛など、新型コロナの症状と似ており区別がつきにくいため、症状が疑われる場合は速やかにかかりつけ医を受診しましょう。主な感染経路は、咳やくしゃみなどによる飛沫感染と、細菌が付着した手で口や鼻に触れることによる接触感染です。感染の予防には手洗い、咳エチケットなどが有効です。また、劇症型溶連菌感染症は、2024年の累積報告数は、第37週(9/9-15)時点で、1,492人となっており、感染症法に基づく届出がはじまってから、過去最高を更新し続けています。溶連菌感染症が流行すれば、劇症型の割合も増加すると考えられます。じゅうぶんな注意が必要でしょう。
【No.3】手足口病
例年、手足口病の流行は7月下旬にピークを迎えます。2024年夏には、大きな流行をみせ、流行は落ち着きをみせると考えていましたが、2024年第37週(9/9-15)時点でも、東日本を中心に、流行をみせています。首都圏・北陸などは注意が必要です。手足口病はエンテロウイルスなどを病原体とする感染症で、流行は夏季に集中しています。3日~5日の潜伏期間の後に発症し、口の粘膜・手のひら・足の甲や裏などに、2~3ミリの水疱性の発疹が現れます。手足口病の感染経路としては飛沫感染、接触感染、糞口感染があげられます。保育所や幼稚園などの集団生活では、感染予防として流水・石けんを用いた手洗いの励行と、排泄物は適切に処理をしましょう。また、子どもがウイルス感染し、その後に看病にあたった大人が手足口病に感染し発症する例もみられます。職場では感染対策としてマスクを着用し、こまめに石けんを用いて手洗いを行うようにしてください。
【No.4】インフルエンザ
流行は落ち着きをみせていますが、なかなか減り切らず、ダラダラと患者報告数があがり続けています。2023年同様、例年と異なる状況で、予測は困難ですが注意が必要です。2024年第37週(9/9-15)の全国定点報告数でも0.51となっています。流行が0.4を超えると流行開始とされる1.0までの到達は、早いとされています。10月も注意が必要です。インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症で、毎年、世界中で流行がみられています。日本でのインフルエンザの流行は、例年11月下旬から12月上旬にかけて始まり、1月下旬から2月上旬にピークを迎え3月頃まで続きます。しかし、今季はシーズン入り前から、一定程度の患者報告数があり、例年の同時期に比べると高い水準でのシーズン入りとなりました。一方で、地域差や増加の幅など流行の動向がつかみにくいため、注意が必要です。主な感染経路は、くしゃみ、咳、会話等で口から発する飛沫による飛沫感染で、他に接触感染もあるといわれています。飛沫感染対策として、咳エチケットや接触感染対策としての手洗いの徹底が重要であると考えられますが、たとえインフルエンザウイルスに感染しても、全く無症状の不顕性感染例や臨床的にはインフルエンザとは診断し難い軽症例が存在します。これらのことから、特にヒト-ヒト間の距離が短く、濃厚な接触機会の多い学校、幼稚園、保育園等の小児の集団生活施設では、インフルエンザの集団発生をコントロールすることは、困難であると思われます。
【要注意】梅毒
梅毒は、性的な接触(他人の粘膜や皮膚と直接接触すること)などによってうつる感染症です。原因は梅毒トレポネーマという病原菌で、病名は症状にみられる赤い発疹が楊梅(ヤマモモ)に似ていることに由来します。感染すると全身に様々な症状が出ます。2024年の累積患者数は、第37週(9/9-15)で1万人を超えました。このまま増加が続けば、昨年をやや下回るは14,000例ほどになることが予測されます。性別関係なく、患者報告数が増えており、特に女性では、梅毒に感染したと気づかないまま妊娠して、先天梅毒の赤ちゃんが生まれる可能性があるので注意が必要です。妊娠中でも治療は可能です。ほとんどの産婦人科では、妊婦健診の際に血液検査してもらえます。妊娠したら必ず梅毒の検査を受けましょう。早期の投薬治療などで完治が可能です。検査や治療が遅れたり、治療せずに放置したりすると、長期間の経過で脳や心臓に重大な合併症を起こすことがあります。時に無症状になりながら進行するため、治ったことを確認しないで途中で治療をやめてしまわないようにすることが重要です。また患者本人が完治しても、パートナーも治療を行うなど、適切な予防策を取らなければ、感染を繰り返すことがあるため、注意が必要です。
感染症に詳しい医師は…
大阪府済生会中津病院の安井良則医師は「10月に最も注意してほしい感染症は、マイコプラズマ肺炎を挙げました。以前大きな流行があった2012年、2016年と同程度の高い水準となっています。いずれの年も夏以降さらに患者数は増え、秋ごろにピークを迎えました。今年も秋に向けて流行が拡大するおそれがあります。マイコプラズマ肺炎は、入院が必要になるケースもありますし、現在、流行しているものに薬剤耐性がどこまであるのか不明な部分もあります。注意が必要です。また現在、低調ではありますが、インフルエンザの定点報告数の動向も気がかりです。溶連菌感染症なども10月以降、どのように推移するか注視が必要でしょう」としています。
監修・取材
大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長 安井良則氏