夏を迎え、気温の高い日も、多くなりました。気温の上昇に伴い増加すると言われているのが、食中毒の発生です。一般に、細菌性食中毒の発生は、気温と湿度が高くなる夏場に多いとされます。一方で、カンピロバクター感染症は、年間を通して、発生が報告されており、注意が必要な感染症です。厚生労働省によると、日本における細菌性食中毒の中で近年、もっとも多く報告されているのが、カンピロバクターによる食中毒です。カンピロバクター食中毒の主な原因と推定される食品、または感染源として、生の状態や加熱不足の鶏肉、調理中の取り扱い不備による二次汚染などがあげられています。症状は、下痢、腹痛、発熱、悪心、嘔気、嘔吐、頭痛、悪寒、倦怠感などで、多くの患者は1週間ほどで治癒します。
今回、「感染症・予防接種ナビ」に寄せられたのは、詳しい原因は特定できていませんが、自家調理をした食材が思わぬ感染症の引き金となった疑いがあるケースをご紹介します。
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22歳 東京都(カンピロバクター感染症疑い)
5/22 鶏肉を調理し生焼けの部分があったような気もしたのですがそのまま食べてしまいました。
5/25 早朝に下痢で目を覚ましました。身体中、関節と皮膚が痛くてインフルみたいな感じ。38.6の発熱で水のような下痢を何回もした。嘔吐は2回。
5/26 大事な試験がある日だったので、整腸剤とカロナールと市販の下痢止めを用量の2倍分服用して夕方まで乗り切りました。その間、下痢は止まったもののとてつもない腹痛で冷や汗が止まらず、1度失神しました。帰宅後また下痢が始まり下痢4回 発熱 37.4。夜になるにつれて腹痛がどんどん酷くなり、夜中にまた発熱39.3。
5/27 整腸剤とカロナールだけ飲む 嘔吐1回 下痢6回 熱は37.8とかうろうろ
5/28 朝は37.4 日中色々やってたらまた38.4に整腸剤とカロナール服用
朝からまた水下痢10回 くらい
夜中 もう出るものがあんまりなくなって、水みたいな下痢+なんか白っぽい膜みたいなものが出るようになった
5/29 泥っぽい感じになって少し良くなった。熱はカロナールを飲まなくても37.5あたりをウロウロしていて、体もだいぶ楽になった。やはり26日に下痢止めを大量に服用したのが不味かったようです。とにかく脱水にならないようにポカリだけは飲むようにしてましたがほんとにきつかった…。絶対に外せない用事なのでもしまた同じことがあっても恐らく下痢止めを飲みますが、皆様はちゃんと出し切って早く治してください泣
感染症に詳しい医師は…
感染症に詳しい大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長の安井良則医師は「今回、お寄せ頂いた内容は、医療機関の検査で、診断が確定されていないので、何とも言いかねますが、諸症状と、生焼けの鶏肉を食べたとのことから、カンピロバクターへの感染が疑われる事例です。カンピロバクター感染症のほか、ノロウイルス感染症など感染性胃腸炎や腸管出血性大腸菌感染症の場合、下痢症状を伴う事があります。下痢は、腸管内の病原微生物などを、体外に排出しようとする、人間の生理的な運動であるため、下痢止めの服用は、控えたほうがいいでしょう。腸内に、病原微生物がとどまることで、後々、症状が悪化する場合もあります。一方、下痢症状の場合は、体内の水分が減るため、適切な水分補給が大切です。また、細菌やウイルスに感染した場合の発熱症状も、体の防御反応のひとつです。高熱が出た場合は、体力の消耗を防ぐため、解熱剤を服用することは問題無いですが、『熱が出そう』だからとの理由で、事前に服用することは、すすめられません。しかし、大事な試験があったとの事情もあり、仕方ない部分もあるので、何とも言えません。仮にカンピロバクター感染症であった場合、症状が回復した後、しばらくして『ギラン・バレー症候群』を発症することもあります。ギラン・バレー症候群にかかると、手足のしびれや麻痺が起こります。ある日、脚からしびれ、突然、立てなくなるケースがあります。
今回の方は、試験中に、失神されたとのことですが、迷走神経反射で、血圧が下がり、脳血流が保てなくなった可能性があります。大変だったと思いますが、お大事にしてください」としています。
感染経路
食中毒集団発生で原因食品が判明した事例では、肉類が最も多く、大半は鶏肉およびその内臓肉です。一方、牛レバーの生食による例も見られます。しかし実際の食中毒事例では、少数菌でも感染が成立すること、潜伏期間が比較的長いこと、通常大気中では死滅しやすいことなどの理由から感染源の特定は極めて困難です。その他に、ペットからや、乳幼児収容施設での流行など、ヒト‐ヒト感染、井戸水、湧水および簡易水道水を感染源とした水系感染事例もあります。海外での旅行者下痢症の原因ともなります。
症状
主な症状は胃腸炎で、潜伏期間が2~5日間と他の胃腸炎よりやや長いことが特徴です。汚染食品中ではあまり菌が増殖せず、かつ少量の菌数でも発症するため、潜伏期間が長くなるのは摂取菌数の差によると考えられています。症状は下痢、腹痛、発熱、悪心、嘔吐、頭痛、悪寒、倦怠感などであり、他の感染型細菌性食中毒と酷似していますが、カンピロバクターは1日最高便回数が多く、血便を伴う比率も高いことが特徴です。発熱を伴うことが多く、改善病日でみるとカンピロバクターはサルモネラと比較して早く回復します。胃腸炎の局所合併症として胆嚢炎、膵炎腹膜炎などがあります。まれですが腸管外感染として菌血症、髄膜炎などがあります。
予後
一般的な予後は、一部の免疫不全患者を除いて死亡例も無く、良好な経過をとります。しかし、近年感染後1~3週間(中位数:10日間)を経てギラン・バレー症候群(GBS)を発症する事例が知られてきました。GBSの罹患率は諸外国でのデータでは、人口10万人当たり1~2人とされています。日本での発生状況については報告システムがなく実数は不明ですが、年間2,000人前後の患者発生があるものと推定されています。カンピロバクター感染症に後発するGBSはこれまで散発例として確認されてきましたが、1999年12月東京都において、カンピロバクター集団食中毒患者19名中、1名のGBS患者の発生が確認されました。
治療
一部の免疫不全者を除き予後は良好で、軽症例では抗菌薬治療なしでも自然に軽快することも多くあります。急性腹症、他の原因による急性胃腸炎、食中毒などと見分けながら食事療法、脱水の予防・治療などを行います。整腸剤は投与しますが、腸管蠕動(ぜんどう)を抑制するような薬剤は使用しないのが原則です。感染性は下痢急性期に高く、2~3週間排菌が持続しますが、有効な抗菌薬が投与されると排菌期間が短縮され、2~3日で感染性が失われます。
予防
カンピロバクターは、低温環境下で、より長時間生存できるため、冷蔵庫を過信してはいけません。加熱には弱いので、食品の正しい加熱調理に努めるとともに、調理などの過程で他の生鮮食品や調理器具の汚染に注意しましょう。鶏肉などを取り扱う場合は調理する人の手洗い、まな板などの調理器具を清潔に保ちましょう。特に乳幼児には鶏刺し、砂ずり刺し、牛レバー刺しなどの生食はさせないようにすることが重要です。食中毒が疑われる場合には、24時間以内に最寄りの保健所に届け出ましょう。
まとめ
カンピロバクターは牛や豚、鶏、猫や犬などの腸の中にいる細菌で、この細菌が付着した肉を生で食べたり、加熱不十分の状態で食べることによって、食中毒を発症します。家庭で調理する時はもちろん、飲食店で提供されるからといって安心してはいけません。特に鶏肉の生焼けや生食は避け、じゅうぶんに加熱されたものを食べましょう。市販の鶏肉からも、カンピロバクターが高い割合(厚生労働省によると20~100%)で検出されることがわかっています。家庭で調理する際は、中心部を75℃で1分以上加熱することを目安に、表面だけでなく、中心まで完全に白くなっていることを確認してから食べるようにしましょう。一部分でも赤みが残っている場合は、必ず再加熱し、そのまま食べるようなことは決してしないでください。また、調理前は必ず手を洗い、サラダなど生で食べる食材とは別に調理するなど、二次汚染を防止しましょう。
引用
国立感染症研究所「カンピロバクター感染症とは」
取材
大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長 安井良則氏