国立感染症研究所の2024年第27週(7/1-7)速報データによると、ヘルパンギーナの定点あたり報告数は2.15。前週の1.58から、およそ36%増加しています。ヘルパンギーナは、発熱と口腔粘膜にあらわれる水疱性の発疹を特徴とした急性のウイルス性咽頭炎です。乳幼児を中心に夏季に流行する、いわゆる夏かぜの代表的疾患です。その大多数はエンテロウイルス属に属するウイルスに起因し、主にコクサッキーウイルスA群である場合が多いですが、コクサッキーウイルスB群やエコーウイルスで発症する場合もあります。現在、同属性ウイルスが引き起こす手足口病も、大きな流行を見せています。今回は、茨城県から寄せられた34歳の方の経験談をご紹介します。
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ヘルパンギーナ 34歳茨城県
【初日】日中は普通に過ごしたが、夕方頃から頭痛とだるさ、めまいに襲われた。この段階では37.6℃だったが、あれよあれよと熱が上がり夜には39.5℃に。熱の上昇に合わせて、強烈な寒気と関節痛もあった。
【二日目】熱は38.0℃に下がるも、めまいと頭痛と関節痛は変わらず。たまらず病院へ行く。この時点ではヘルパンギーナとは分からず。コロナ、インフルが陰性であったものの「症状が出てから検査するのが早すぎたかな。ホントはコロナなのかもしれないね」とのこと。
この段階で、めまいが酷すぎて直立歩行できないレベル。座っていることもままならない。痛み止めと解熱剤を貰い服用。この日の夜辺りから感じたことのない喉の痛みがやってくる。コロナにも掛かったことがあるけど、コロナの1.5倍くらいツラい痛みだった
【三日目】熱は完全に下がり、頭痛もめまいも関節痛も無くなった。一方のどの痛みは悪化。また、下の付け根の辺りの痛みや口内炎も増えてきた。
つばを飲み込むのも、もちろん水分を取ることも困難で、薬を飲むときはバンジージャンプやるときくらい覚悟を決めて飲みこむしかなかった。飲み込んだときの激痛で恥ずかしながら涙が出るほど痛かった。スポーツドリンク系は柑橘系の味が多く、余計に喉に染みた。まだお茶の方がマシだった。この段階で、今まで食らった病気の中で一番ツラいこと確定。
【四日目】のどの痛みは一向に回復せず、痛み止めも効いているんだか無いんだか分からず再び病院へ。そこで初めてヘルパンギーナの診断。とりあえず病名が確定しただけ安心した。この日の夜辺りから、痛み止めが効いているときはだいぶ楽に感じた。因みに初日からここまで、喉が痛すぎて全く食欲が湧かず何も食べていない。薬と飲み物のみで、この段階で3キロのダイエットに成功。
【五日目】※今
喉の痛みは相変わらず。もう唾を飲み込まなくて良いように出てきた唾液は準備したバケツに吐くことにした。水分も薬を飲むとき以外は取れず、食事も取れていないため頭は朦朧としてフラフラ。喉の痛みでまとまった睡眠を取ることも出来ず…。口内炎も更に増えてきた。
感染症に詳しい医師は…
感染症に詳しい大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長の安井良則医師は「かなり辛そうな症状だと思います。大変でしたね。直接診断した訳では無いので、不明な部分も多々あります。通常、ヘルパンギーナだけであれば、もっと早く快方に向かう傾向にありますが、今回、お寄せ頂いた内容は、ヘルパンギーナ単独の症状としては、少し重いように見え、何らかの細菌性の二次感染が疑われる事例と考えられます。口腔内の痛みで、食事が満足に摂れない、水分摂取ができないと言ったケースであれば、点滴をしてもらわなければ、脱水症状になる可能性があります。実は、咽頭炎などが原因で、水分摂取・食事が摂れないと言った場合に、入院が必要になる場合も少なくありません。特に、夏場ですので、大人からお子さんまで、脱水には、注意してください。ヘルパンギーナの場合、お子さんの場合は、小児科などを受診されると思います。しかし、今回のように症状が重いときは、耳鼻科や場合によっては、口腔外科を受診した方がいいケースもあります。一日も早い回復をお祈りしております。また、同属性のウイルスが原因の手足口病も大きな流行をみせています。」としています。
症状
2~4 日の潜伏期を経過し、突然の発熱に続いて咽頭痛が出現し、咽頭粘膜の発赤が顕著となり、口腔内、主として軟口蓋から口蓋弓にかけての部位に直径1~2mm 、場合により大きいものでは5mmほどの紅暈(こううん、皮膚が部分的に充血して赤く見えること)で囲まれた小水疱が出現します。小水疱はやがて破れ、浅い潰瘍を形成し、疼痛を伴います。発熱については2 ~4 日間程度で解熱し、それにやや遅れて粘膜疹も消失します。発熱時に熱性けいれんを伴うことや、口腔内の疼痛のため不機嫌、拒食、哺乳障害、それによる脱水症などを呈することがありますが、ほとんどは予後良好です。エンテロウイルス感染は、多彩な病状を示す疾患で、ヘルパンギーナの場合にもまれに無菌性髄膜炎、急性心筋炎などを合併することがあります。前者の場合には発熱以外に頭痛、嘔吐などに注意すべきですが、項部硬直は見られないことも多いです。後者に関しては、心不全徴候の出現に十分注意することが必要です。鑑別診断として、単純ヘルペスウイルス1型による歯肉口内炎(口腔病変は歯齦・舌に顕著)、手足口病(ヘルパンギーナの場合よりも口腔内前方に水疱疹が見られ、手や足にも水疱疹がある)、アフタ性口内炎(発熱を伴わず、口腔内所見は舌および頬部粘膜に多い)などがあげられます。
治療・予防
特異的な治療法はなく通常は対症療法のみです。発熱や頭痛などに対してはアセトアミノフェンなどを用いることもあります。時には脱水に対する治療が必要なこともあります。無菌性髄膜炎や心筋炎の合併例では入院治療が必要ですが、後者の場合には特に循環器の専門診療科による治療が望まれます。特異的な予防法はありませんが、感染者との密接な接触を避けること、流行時にうがいや手指の消毒を励行することなどがあります。
引用
国立感染症研究所ホームページ「ヘルパンギーナとは 」,IDWR速報データ2024年第27週
厚生労働省:手足口病に関するQ&A
取材
大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長 安井良則氏