国立感染症研究所の2024年第25週(6/17-23)IDWR速報データによると、今年の梅毒の累積患者報告数は、6482人となっています。前週からは、165人増加していますが、2023年の第25週の7124人と比較するとやや下回っています。しかし、極端にペースが落ちている訳ではないため、今後の動向に注意が必要です。
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梅毒とは
梅毒は、性的な接触(他人の粘膜や皮膚と直接接触すること)などによってうつる感染症です。原因は梅毒トレポネーマという病原菌で、病名は症状にみられる赤い発疹が楊梅(ヤマモモ)に似ていることに由来します。感染すると全身に様々な症状が出ます。早期の薬物治療で完治が可能です。検査や治療が遅れたり、治療せずに放置したりすると、長期間の経過で脳や心臓に重大な合併症を起こすことがあります。時に無症状になりながら進行するため、治ったことを確認しないで途中で治療をやめてしまわないようにすることが重要です。また完治しても、感染を繰り返すことがあり、再感染の予防が必要です。
梅毒 24歳 福島県
会陰が突然切れ、トイレのたびしみたりして苦痛なので病院へ…最初はただの傷との診断で、塗り薬をもらいました。その2日後くらい?に鼠径部のリンパが腫れていることに気づきました。両サイドにチョコボールくらいのがぽこっと。押したら痛いし変な病気だったら不安で、どの病院に行くか迷いましたが婦人科に行ったばかりだったので同じ病院でまたみてもらいました。ヘルペスかも?と言われ、ヘルペスの飲み薬と塗り薬をもらいました。また一週間後経過観察で病院に行きましたが、全くなおっておらずむしろ悪化。可能性があるとしたら梅毒なので血液検査しましょう。また1週間後きてください。とのこと。「へー…梅毒って血液検査でしかわからないんだー。」みたいな気持ちでいましたが、3日後病院から電話が。なるべく早く来てください!との事で行くと、梅毒です。と… 。薬を1ヶ月〜2ヶ月のめば治るそうで、一安心。私の場合、感染経路が本当に不明です。2年ほど付き合っている彼氏がいますが、私に思い当たる節もなし。彼氏も思い当たる節なし。と(問い詰めました笑)そういうタイプでもないので彼氏からじゃないのかな…?と思っていますが私にも本当に思い当たる節がなく、どこからもらったんだ状態です。しかも梅毒は初期症状とのことで、いつかかったかもわからない…。湿疹もでてないし、本当に何も症状がなくてしいていうなら会陰が切れただけ。切れたのも一度だけかゆくてかいたので、強くかきすぎた…?と思っていました。治療開始して薬を飲み始めましたが、副作用で熱が出るかも、でも効いている証拠だから大丈夫といわれ、「そんなことあるんだー」と思っていたら服用後発熱。22時くらいに飲んで0時頃には寒気が出てきて、そのあと39.5まで熱が上がりました。寝たらなんなりで下がったと思ったら、次の日の昼に飲んだ薬でまた発熱。梅毒の症状より薬の副作用の方が辛い状況です。無症状で思い当たる節がなくてもどこからかもらってくるみたいです。
感染症に詳しい医師は…
感染症に詳しい大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長の安井良則医師は「勇気を出して、経験談をお寄せ頂き、ありがとうございました。今回のケースも、直接診断した訳ではないので不明な点もありますが、梅毒が疑われる場合は、皮膚科に行くことで的確な治療が期待できます。ご本人が、検査を行ったとのことですが、治療の必要性を見極めるために、必須となります。もちろん、パートナーの方も、感染の可能性があるため血液検査を受けてください。本人だけ治療を行っても、相手も感染していれば、互いに感染させ合うピンポン感染の状態になりかねません。今回、薬での治療を選択されたとのことですが、1日3回の内服を長期間続けなければならない抗菌薬治療だけでなく、一度の接種で終わる注射薬もあります。服薬・注射と方法はありますが、毎日服薬するのが負担に感じる方は、注射を選択してもいいでしょう。但し、注射を打ったから、安心という訳ではありません。医師の指示通り、一定期間経過後に、必ず抗体検査を行ってください。また、感染経路が不明とのことですが、以前、女性の妊娠初期の検査で梅毒に感染していなかったのに、出産後に、お子さんの先天梅毒が判明したケースもありました。後で、調査したところ、夫が、性サービスを利用したことが分かりました。今回の件は、分かりませんが、胎児が感染し、先天梅毒にかかって出生した場合、低出生体重や骨軟骨病変などのリスクが伴います。お寄せ頂いた方は、感染初期の状況で、判明したとのことですが、特に妊娠を望むカップルは、梅毒について知っておいて頂きたいです。何らかの不安を感じている方は、まず、検査することが肝要です」としています。
先天梅毒の症状
先天梅毒は、梅毒に感染している母体から、胎盤を通じて胎児に伝播される多臓器感染症です。早期先天梅毒の発症年齢は、生まれた時~生後3か月であり、出生時は無症状で、身体所見は正常な子どもが約3分の2います。生後まもなく水疱性発疹、斑状発疹、丘疹状の皮膚病変に加え、鼻閉、全身性リンパ節腫脹、肝脾腫、骨軟骨炎などの症状が認められます。晩期先天梅毒では、乳幼児期は症状を示さずに経過し、学童期以後にハッチンソン3徴候と呼ばれる、実質性角膜炎、内耳性難聴、ハッチンソン歯(歯の形成異常)などの症状がみられます。
母子感染は早期発見と適切な治療で防げます
梅毒は妊娠中に治療をおこなうことが可能ですが、選択できる治療薬が限られるなど、母体と胎児への影響を考えながらおこないます。妊娠中の治療により、胎盤を通して胎児も治療可能ですが、治癒できない場合には、新生児は出産後に改めて治療をします。症状の進行状況により、選択できる薬や、治療の期間も変わります。赤ちゃんに梅毒を感染させないためにも、妊娠したら早めに妊婦健診を受け、必要な場合にはパートナーも含めて、治療をおこないましょう。
梅毒に感染すると?
梅毒に感染すると数週間後に、主に口の中や肛門、性器などにしこりや潰瘍ができることがあります。これらの症状は痛みが伴わないことが多く、治療しなくても自然に治ります。しかし、その間にも病気が進行する場合があります。感染から3か月程度すると、今度は手のひら、足の裏、体幹部などに淡い赤色の発しんがでます。小さなバラの花に似ていることから「バラ疹(しん)」とも呼ばれますが、この時にはすでに梅毒の原因である梅毒トレポネーマが全身に広がっています。しかしこの症状も数週間以内に自然に消えますが、治ったわけではありません。他にも肝臓や腎臓など、全身の臓器にさまざまな症状を呈することがあります。そして、感染後数年後には、ゴム腫と呼ばれるゴムのような腫瘤が皮膚や、筋肉、骨などに出現し、周囲の組織を破壊してしまうことがあります。また、大動脈瘤などが生じる心血管梅毒や、精神症状・認知機能の低下などを伴う進行麻痺、歩行障害などを伴う脊髄癆(せきずいろう)がみられることもあります。
早期発見、早期治療。梅毒は治る感染症
梅毒は適切な治療を受ければ治る感染症です。内服薬での治療が一般的ですが、注射薬での治療もあり、早期の場合は1回の注射で済みます。安井医師は「梅毒は症状がない期間が長く、知らないうちに進行していきます。梅毒の症状が疑われた場合は、すぐに保健所などで検査をして治療をしてください。特に、これからお母さんになる10代・20代の方には、梅毒に関する知識を身につけて頂ければと思います。感染した部位に腫れがみられますが、その症状は、いったん消えます。しかし、そのまま体内に病原体は残っています。以前、梅毒の患者は、性産業従事者など、かなり限定的な方の間で確認されていましたが、患者数の増加に伴い、一般にも広がりをみせています。妊婦さんは健診の際に血液検査で梅毒について調べますので、必ず健診を受けていただければと思います」としています。
引用
国立感染症研究所 感染症発生動向調査週報2024年第25週、妊娠梅毒の治療「梅毒とは」
「日本の梅毒症例の動向について」 (2022年4月6日現在)
厚生労働省HP:梅毒、梅毒に関するQ&A
取材
大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長 安井良則氏