国立感染症研究所の2024年第20週(5/13-19)速報データによると、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)の全国の定点当たり報告数は4.91。今年に入り最多の報告数で、去年のピーク5.04(2023年第50週、11/11-17)とほぼ同じ流行規模になっています。都道府県別では山形11.50、鳥取10.68、北海道8.25、福岡8.12、新潟7.40、宮崎7.31、茨城6.72、千葉6.62が多く、流行は全国的に広がっています。
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A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは?
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)は、レンサ球菌という細菌を病原体とする感染症です。主に感染している人の口から出る飛沫(しぶき)などを浴びることによって感染する「飛沫(ひまつ)感染」や、おもちゃやドアノブなどに付着している病原体に触れた手で口や眼などから感染する「接触感染」、そして食品を介して「経口感染」する場合もあります。よく見られる疾患としては、急性咽頭炎のほか、膿痂疹(のうかしん)、蜂巣織炎、あるいは特殊な病型として猩紅熱(しょうこうねつ)があります。また菌の直接の作用ではないのですが、合併症として肺炎、髄膜炎、敗血症、あるいはリウマチ熱や急性糸球体腎炎を起こすことがあります。いずれの年齢でもかかりますが、学童期の子どもが最も多く、学校などでの集団感染、また家庭内できょうだいの間で感染することも多いとされています。
感染症に詳しい医師は…
感染症に詳しい大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長の安井良則医師は「ゴールデンウイークが終わり、幼稚園・保育園や小学校が再開すると同時に、溶連菌感染症の患者数が再び急増しています。2020年に新型コロナウイルスの流行が始まって以来、約3年間溶連菌感染症の流行がなかったため、感受性者が多く、流行が継続しているのだと思います。溶連菌感染症は幼稚園・保育園や小学校の低学年の子どもたちの間で流行しやすいため、夏休みまでは患者数が多い状況が続くのではないかと予測しています」と語っています。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症の患者数は、去年の同時期の2.8倍に!
また、同じA群溶血性レンサ球菌が原因の感染症が、劇症型溶血性レンサ球菌感染症です。国立感染症研究所の2024年第20週(5/13-19)速報データによると、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の報告数は34。今年の累積報告数は891となりました。これは去年の同時期(2023年第20週、317)と比較すると約2.8倍になっています。「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」はA群溶血性レンサ球菌に引き起こされ、免疫不全などの重篤な基礎疾患をほとんど持っていないにもかかわらず突然発病する例があります。初期症状としては四肢の疼痛、腫脹、発熱、血圧低下などで、発病から病状の進行が非常に急激で、発病後数十時間以内には軟部組織壊死、急性腎不全、成人型呼吸逼迫症候群(ARDS)、播種性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全(MOF)を引き起こし、ショック状態から死に至ることも多いとされています。近年では妊産婦の症例も報告されています。
安井医師は、「劇症型溶血性レンサ球菌感染症と溶連菌感染症とは、同じ原因菌による感染症です。劇症型溶血性レンサ球菌感染症の患者増加は、溶連菌感染症の大きな流行が影響していると考えられます。劇症型溶血性レンサ球菌感染症は早期治療を行わないと命に関わる重大な感染症です。溶連菌感染症の流行が長引くと、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の患者がさらに増加する可能性もあり、警戒が必要です」としています。
予防と治療
溶連菌感染症に有効なワクチンはありません。予防には手洗いや咳エチケットなどが有効です。治療には抗菌薬が用いられます。10日間服用することになっていますが、症状がなくなっても合併症の予防のために飲み続ける必要があります。医師の指示に従って、完治することが重要です。
引用
国立感染症研究所:IDWR速報データ令和6年第20週(5/13-19)、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは、劇症型溶血性レンサ球菌感染症とは
子ども家庭庁:保育所における感染症対策ガイドライン(2018年改訂版)
取材
大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長 安井良則氏