国立感染症研究所の2024年第17週(4/22-28)速報データによると、この週の「マイコプラズマ肺炎」の報告数は77人、定点あたり報告数は0.16。患者数は4月に入り緩やかに増加傾向にあります。中国では昨年から患者の増加が報道されていますが、日本でもこの先マイコプラズマ肺炎の流行は起こるのでしょうか?
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マイコプラズマ肺炎とは?
マイコプラズマ肺炎は、「肺炎マイコプラズマ」という細菌に感染することによって起こる呼吸器感染症です。小児や若い人の肺炎の原因としては比較的多いものの一つです。例年患者として報告されるもののうち約80%は14歳以下ですが、成人の報告も見られます。マイコプラズマ肺炎は1年を通じてみられ、冬にやや増加する傾向があります。
症状は?
発熱や全身けん怠感(だるさ)、頭痛、たんを伴わない咳などの症状がみられます。せきは少し遅れて始まることもあります。咳は熱が下がったあとも長期にわたって(3〜4週間)続くのが特徴です。多くの人はマイコプラズマに感染しても気管支炎ですみ、軽い症状が続きますが、一部の人は肺炎となり、重症化することもあります。一般に、小児の方が軽くすむといわれています。
感染経路は?
感染は飛沫感染が多く、患者のせきの飛沫を吸いこんだり、患者と身近で接触したりすることにより感染すると言われています。家庭のほか、学校などの施設内でも感染の伝播がみられます。感染してから発症するまでの潜伏期間は長く、2〜3週間くらいとされています。
感染症に詳しい医師は…
感染症に詳しい大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長の安井良則医師は「マイコプラズマ肺炎は日本では4年周期、オリンピックの年に流行すると言われてきました。その法則でいくと2020年に大きな流行があるはずでしたが、新型コロナの影響でほとんど患者が出ることはなく、その後も患者数はきわめて少数でした。しかし今年に入り、まだ流行には程遠いものの、マイコプラズマ肺炎の発症者が出始めています。4年周期の法則でいうと、今年は流行の年にあたります。2023年に、海外での流行が報道されました。国内でも、夏以降に患者数が増加するということもあるかもしれません」と語っています。
重症化や合併症のおそれも
マイコプラズマ肺炎は時には重症化することもあり、喘息用気管支炎を呈することは比較的多く、急性期には40%で喘鳴が認められ、また3年後に肺機能を評価したところ、有意に低下していたという報告もあります。昔から「異型肺炎」として、肺炎にしては元気で一般状態も悪くないことが特徴であるとされていましたが、重症肺炎になることもあり、胸水貯留は珍しいものではないとされています。他に合併症としては、中耳炎、無菌性髄膜炎、脳炎、肝炎、膵炎、溶血性貧血、心筋炎、関節炎、ギラン・バレー症候群、スティーブンス・ジョンソン症候群などがあります。
安井医師は「マイコプラズマ肺炎では、重症化し入院に至る例も少なからずあります。実際に、診察したケースでは、長引く咳で体に力が入らず、血中の酸素濃度が低下し、挿管が必要なケースでした。子どもの間でも、流行する感染症ですが、高齢者の方も発症・重症化の可能性があります。長らく流行がなかった感染症なので感受性者が多く、一度流行が始まると大きな流行となる可能性もあります。咳を中心に、呼吸器系の症状があるため、初期症状では、新型コロナと見分けがつきにくいケースもあるかも知れません。医療関係者の方も、知っておいて頂きたいです」としています。
治療・予防
治療は抗菌薬(抗生物質)が有効ですが、マイコプラズマ肺炎に効果があるものは一部に限られています。近年は抗菌薬の効かない「耐性菌」が増えてきているとされていますが、耐性菌に感染した場合は、他の抗菌薬で治療するなどします。予防法はインフルエンザや新型コロナと同じく、手洗いや咳エチケット、マスクなどを心がけてください。特にせきが出る場合は、他の人にうつさないように気をつけましょう。そして、長引く咳などの症状があるときは、医療機関で診察を受けるようにしましょう。
引用
国立感染症研究所:IDWR速報データ令和6年第17週(4/22-28)、マイコプラズマ肺炎とは
厚生労働省:マイコプラズマ肺炎に関するQ&A(平成23年12月作成、平成24年10月改訂)
取材
大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長 安井良則氏