国立感染症研究所の2024年第16週(4/15-21)速報データによると、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)の全国の定点あたりの報告数は4.08。前週(4/8-14)の3.32から23%近く増加。多少の増減はあるものの、2023年の秋頃から例年より高い水準の流行が続いています。都道府県別の定点報告では、北海道(7.52)・山形県(9.64)・茨城県(6.28)・新潟県(6.55)・福岡県(6.02)が高い値を示しています。
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A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は、レンサ球菌という細菌を病原体とする感染症です。略して「溶連菌感染症」ということもあります。主に感染している人の口から出る飛沫(しぶき)などを浴びることによって感染する「飛沫(ひまつ)感染」や、おもちゃやドアノブなどに付着している病原体に触れた手で口や眼などから感染する「接触感染」、そして食品を介して「経口感染」する場合もあります。主な症状としては、扁桃炎(へんとうえん)、伝染性膿痂疹(のうかしん)、中耳炎、肺炎、化膿性関節炎、骨髄炎、髄膜炎など、さまざまな症状を呈します。いずれの年齢でもかかりますが、学童期の子どもが最も多く、学校などでの集団感染、また家庭内できょうだいの間で感染することも多いとされています。
感染症に詳しい医師は…
感染症に詳しい大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長の安井良則医師は「溶連菌感染症の流行が高止まりしたまま、なかなか減り切りません。いつ落ち着くのか、非常に気がかりです。今後の予測を立てるのは、難しいのですが、GW期間中は、医療機関の休診でいったん減少したようにみえるものの、今後、夏に向かって増加しそうな気配があります。現在の定点報告数の水準であれば、幼稚園・保育園・小学校低学年などで、流行していることが予想されます。小さなお子さんがいらっしゃるご家庭では、注意が必要です。また、お子さんだけでなく、溶連菌感染症の高い流行水準に伴って、劇症型も増えるので大人の方も要注意です」としています。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症報告増加
さらに気がかりなのが、同じ溶連菌が引き起こす「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」です。かつては年間に100〜200人程度の報告数でしたが、去年は941人。2024年第16週(4/15-21)時点で、730人の累積報告がありました。「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」は「人食いバクテリア」とも呼ばれる感染症で、主に溶連菌感染症と同じA群溶血性レンサ球菌に引き起こされ、免疫不全などの重篤な基礎疾患をほとんど持っていないにもかかわらず突然発病する例があります。初期症状としては四肢の疼痛、腫脹、発熱、血圧低下などで、発病から病状の進行が非常に急激で、発病後数十時間以内には軟部組織壊死、急性腎不全、成人型呼吸逼迫症候群(ARDS)、播種性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全(MOF)を引き起こし、ショック状態から死に至ることも多いとされています。近年では妊産婦の症例も報告されています。
溶連菌感染症の流行が、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の増加につながる
安井医師は「劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、皮膚などから菌が体内に入り込んで起こる感染症です。溶連菌感染症が流行すると、レンサ球菌に接する機会が増え、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の患者が増えると考えられていますが、今がその状況です。これからも溶連菌感染症が流行し続けると、劇症型も比例して増え続ける可能性があります。ちょっとした傷から感染するなど防ぐことが難しく、溶連菌感染症の流行が落ち着くまで、この傾向は続くのではないかと思います」と話しています。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症の治療法は抗菌薬の投与で、ペニシリン系薬が第一選択薬とされています。急激に症状が悪化することから、早期に医療機関を受診し、適切な治療を受けることが重要です。
引用
国立感染症研究所:IDWR速報データ令和6年第9週(2/26-3/3)、溶血性連鎖球菌感染症2012年〜2015年6月、劇症型溶血性レンサ球菌感染症とは
取材
大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長 安井良則氏