2024年5月に注意してほしい感染症について、大阪府済生会中津病院の安井良則医師に予測を伺いました。流行の傾向と感染対策を見ていきましょう。
【2024年】5月に注意してほしい感染症!RSウイルス感染症全国的に本格的増加 麻しん(はしか)流行に注意 医師「GW明けに注意」
【No.1】RSウイルス感染症
RSウイルス感染症が年明けから、徐々に増え始めています。大きな流行ではありませんが、気がかりな動きです。RSウイルス感染症は、流行期間に地域差があるため、何とも言えないのですが、4月中には、全国的に増加してくるのではないかと予測しています。これまでの傾向としては、関西地方での流行は、比較的早く、その後、時間をかけて、ゆっくりと東日本へ流行の中心が移っていきます。2024年4月時点の流行ですが、関西地方、特に大阪府は急激に増加しており奈良県など周辺地域への波及も始まっています。大阪府は、間もなくピークを迎えると予測されますが、全国的にはこれからです。北関東・山口県・宮崎県など、定点報告数が多い地域から、周辺に波及していく可能性は高いです。乳幼児には、インパクトの強い感染症なので、注意してください。RSウイルス感染症は、病原体であるRSウイルスによっておこる呼吸器感染症です。潜伏期間は2~8日、一般的には4~6日で発症します。特徴的な症状である熱や咳は、新型コロナウイルス感染症と似ており、見分けがつきにくいです。多くの場合は軽い症状ですみますが、重い場合には咳がひどくなり、呼吸が苦しくなるなどの症状が出ることがあります。RSウイルス感染症は、乳幼児に注意してほしい感染症で、特に1歳未満の乳児が感染すると重症化しやすいです。お子さんに発熱や呼吸器症状がみられる場合は、かかりつけ医に相談してください。感染経路は、飛沫感染や接触感染です。お子さん向けのワクチンはまだ実用化されていないため、手洗い、うがい、マスクの着用を徹底しましょう。家族以外にも保育士など、乳幼児と接する機会がある人は特に注意が必要です。
【No.2】A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症) は、学校・幼稚園・保育園などでの流行が多くみられます。幼稚園・保育園・小学校など集団生活の場で、流行することなどから、注意が必要です。患者報告数も、2024年4月時点で、高い水準を維持しています。GWには学校・幼稚園等や医療機関がお休みに入るため、一時的に報告数が減少する可能性もありますが、明けには、再び一定程度の報告数が出てくるものと予測しています。溶連菌感染症は、例年、冬季および春から初夏にかけての2つの報告数のピークが認められています。保育所や幼稚園の年長を含め、学童を中心に広がるので、学校などでの集団生活や、きょうだい間での接触を通じて感染が広がるので、注意しましょう。感染すると、2~5日の潜伏期間の後に発症し、突然38度以上の発熱、全身の倦怠感、喉の痛みなどが現れ、しばしば嘔吐を伴います。また、舌にイチゴのようなぶつぶつができる「イチゴ舌」の症状が現れます。まれに重症化し、全身に赤い発疹が広がる「猩紅熱(しょうこうねつ)」になることがあります。発熱や咽頭痛など、新型コロナの症状と似ており区別がつきにくいため、症状が疑われる場合は速やかにかかりつけ医を受診しましょう。主な感染経路は、咳やくしゃみなどによる飛沫感染と、細菌が付着した手で口や鼻に触れることによる接触感染です。感染の予防には手洗い、咳エチケットなどが有効です。また、溶連菌の高い流行水準に伴い、『劇症型』の報告も増えています。注意が必要でしょう。
【No.3】咽頭結膜熱(アデノウイルス感染症)
咽頭結膜熱の患者報告数は、2023年12月に、過去最高の流行をみせました。感染症の動向を、長年に渡り調査・分析していますが、このような動きは、今までありませんでした。4月時点では、流行は落ち着きをみせていますが、この感染症は、夏の感染症であり、本来であれば、これから増加することが予測されます。注意が必要です。咽頭結膜熱は、アデノウイルスを原因とする感染症です。症状は風邪とよく似ていますが、発熱、咽頭痛、結膜炎です。発熱は5日間ほど続くことがあります。眼の症状は一般的に片方から始まり、その後、他方に症状があらわれます。高熱が続くことから、新型コロナウイルス感染症とも間違えやすい症状です。吐き気、強い頭痛、せきが激しい時は早めに医療機関に相談してください。最近では、アデノウイルスの検査キットが普及したことも手伝い、発熱・咽頭痛・結膜炎の3つの症状が一度に出ない場合は、咽頭結膜熱ではなく、「アデノウイルス感染症」と診断されることもあります。感染経路は、主に接触感染と飛沫感染です。原因となるアデノウイルスの感染力は強力で、直接接触だけではなくタオル、ドアの取っ手、階段やエスカレーターの手すり、エレベーターのボタン等の不特定多数の人が触る物品を介した間接的な接触でも、感染が広がります。特異的な治療方法はなく、対症療法が中心となります。眼の症状が強い時には、眼科的治療が必要となることもあります。予防方法は、流水・石鹸による手洗いとマスクの着用です。物品を介した間接的な接触でも感染するため、しっかりと手を洗うことを心がけてください。
【No.4】手足口病
手足口病は、エンテロウイルスなどを病原体とする感染症で、流行は夏に集中しています。現在は、大きな流行はみせていませんが、徐々に増えつつあり、気がかりな感染症の1つです。症状の経過については、3日から5日の潜伏期間の後に発症し、口の粘膜・手のひら・足の甲や裏などに、2~3ミリの水疱性の発疹が現れます。手足口病の感染経路としては飛沫感染、接触感染、糞口感染があげられます。保育園や幼稚園などの乳幼児施設における流行時の感染予防は、手洗いの励行と排泄物の適正な処理が基本となります。
喉からウイルスが排出されるため、咳をしたときのしぶきにより感染します。感染者との密接な接触を避けることや、流行時にうがいや流水石けんでの手指衛生を励行することが大切です。
【要観察】インフルエンザ
2024年4月に入り、流行は落ち着きをみせてきました。一方で、インフルエンザは、GW明けに再度増加する可能性も否定できません。今シーズンは、B型も流行するなど、例年と異なる状況で、予測は困難です。インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症で、毎年世界中で流行がみられています。日本でのインフルエンザの流行は、例年11月下旬から12月上旬にかけて始まり、1月下旬から2月上旬にピークを迎え3月頃まで続きます。しかし、今季はシーズン入り前から、一定程度の患者報告数があり、例年の同時期に比べると高い水準でのシーズン入りとなりました。一方で、地域差や増加の幅など流行の動向がつかみにくいため、注意が必要です。主な感染経路は、くしゃみ、咳、会話等で口から発する飛沫による飛沫感染で、他に接触感染もあるといわれています。飛沫感染対策として、咳エチケットや接触感染対策としての手洗いの徹底が重要であると考えられますが、たとえインフルエンザウイルスに感染しても、全く無症状の不顕性感染例や臨床的にはインフルエンザとは診断し難い軽症例が存在します。これらのことから、特にヒト-ヒト間の距離が短く、濃厚な接触機会の多い学校、幼稚園、保育園等の小児の集団生活施設では、インフルエンザの集団発生をコントロールすることは、困難であると思われます。引き続き、注意が必要でしょう。
■感染症に詳しい医師は…
大阪府済生会中津病院の安井良則医師は「5月に最も注意してほしい感染症は、RSウイルス感染症を挙げました。大阪府の患者報告数は、第16週も増えており、昨年のピークを超えています。大阪府では、いったんピークを迎えると考えられますが、全国的な流行は、これからです。今後、緩やかに全国へ波及していくと考えられるので、乳幼児の罹患には、特に注意が必要でしょう。また、GW明けに、麻しん(はしか)が、海外から持ち込まれるのでは無いかと危惧しています。麻しんは、ワクチンしか防ぐ手立てはありませんが、第一優先は、1歳を迎えたお子さんの定期接種です。既に、免疫を獲得している大人が駆け込みで接種を行うと、ワクチンが不足する可能性があります。自身に免疫があるか気がかりな方は、検査も可能です。大人の場合は、骨髄移植を行った場合や免疫抑制剤を使用されている方を除き、免疫のある方や既に、自然罹患された方は、ワクチンを駆け込みで打つ必要は、まずありません」としています。
監修・取材
大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長 安井良則氏