2024年4月に注意してほしい感染症について、大阪府済生会中津病院の安井良則医師に予測を伺いました。流行の傾向と感染対策を見ていきましょう。
【2024年】4月に注意してほしい感染症!RSウイルス感染症徐々に増加 麻しん(はしか)流行に注意 医師「春休み明けもインフルエンザ下がり切らない懸念」
【No.1】RSウイルス感染症
RSウイルス感染症が年明けから、徐々に増え始めています。大きな流行ではありませんが、気がかりな動きです。RSウイルス感染症は、流行期間に地域差があるため、何とも言えないのですが、4月中には、全国的に増加してくるのではないかと予測しています。これまでの傾向としては、関西地方での流行は、比較的早く、その後、時間をかけて、ゆっくりと東日本へ流行の中心が移っていきます。2024年の流行がどのようになるか、その規模などの予測は困難ですが、注意してほしい感染症です。RSウイルス感染症は、病原体であるRSウイルスによっておこる呼吸器感染症です。潜伏期間は2~8日、一般的には4~6日で発症します。特徴的な症状である熱や咳は、新型コロナウイルス感染症と似ており、見分けがつきにくいです。多くの場合は軽い症状ですみますが、重い場合には咳がひどくなり、呼吸が苦しくなるなどの症状が出ることがあります。RSウイルス感染症は、乳幼児に注意してほしい感染症で、特に1歳未満の乳児が感染すると重症化しやすいです。お子さんに発熱や呼吸器症状がみられる場合は、かかりつけ医に相談してください。感染経路は、飛沫感染や接触感染です。お子さん向けのワクチンはまだ実用化されていないため、手洗い、うがい、マスクの着用を徹底しましょう。家族以外にも保育士など、乳幼児と接する機会がある人は特に注意が必要です。
【No.2】A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症) は、学校・幼稚園・保育園などでの流行が多くみられます。幼稚園・保育園・小学校など集団生活の場で、流行することなどから、注意が必要です。患者報告数も、2024年第6週(2/5-2/11)時点で、高い水準を維持しており、春休みに入る前まで、一定程度の報告数は出てくるものと予測しています。特に、小学校低学年のお子さんや幼稚園・保育園のお子さんは、注意が必要でしょう。溶連菌感染症は、例年、冬季および春から初夏にかけての2つの報告数のピークが認められています。保育所や幼稚園の年長を含め、学童を中心に広がるので、学校などでの集団生活や、きょうだい間での接触を通じて感染が広がるので、注意しましょう。感染すると、2~5日の潜伏期間の後に発症し、突然38度以上の発熱、全身の倦怠感、喉の痛みなどが現れ、しばしば嘔吐を伴います。また、舌にイチゴのようなぶつぶつができる「イチゴ舌」の症状が現れます。まれに重症化し、全身に赤い発疹が広がる「猩紅熱(しょうこうねつ)」になることがあります。発熱や咽頭痛など、新型コロナの症状と似ており区別がつきにくいため、症状が疑われる場合は速やかにかかりつけ医を受診しましょう。主な感染経路は、咳やくしゃみなどによる飛沫感染と、細菌が付着した手で口や鼻に触れることによる接触感染です。感染の予防には手洗い、咳エチケットなどが有効です。
【No.3】新型コロナウイルス感染症
新型コロナ患者報告数は2024年第11週(3/11-17)時点で、6週連続で減少しています。全国的な流行は、間もなく、落ち着いてくると予測しています。国内の主流株であったEG.5とその派生株からなるXBB系統は、BA.2系統の派生株であるBA.2.86系統へ置き換わっています。BA.2.86系統は、スパイクタンパク質に従来のBA.2系統とは30箇所以上、現在主流であるXBB系統とは35箇所以上のアミノ酸配列の変異を有しており、抗原性が大きく異なることより、ワクチンや既感染からの免疫逃避に優れている可能性が高いことが指摘されています。米国CDCではBA.2.86からの派生株であるJN.1が国内で増加しつつあることをHP上で報告しており、日本国内においても、BA.2.86系統へ置き換わっています。流行は、今後、落ち着きをみせると思われますが、水準的には、減り切っていないため、2024年4月以降も、しばらく、患者発生動向には注意していく必要があると考えています。また、4月から、新型コロナウイルス感染症に関する特例措置が終わり、通常の医療提供体制へ完全に移行します。これにより、新型コロナワクチンの特例臨時接種(無料)も3月末で終了し、4月からは自費での接種となります。また、治療薬の薬剤費や入院医療費についても公費の負担が3月末で終了し、他の疾病と同様に医療費の自己負担割合に応じた通常の窓口負担になります。
【No.4】麻しん(はしか)
麻しんは「はしか」とも呼ばれ、パラミクソウイルス科に属する麻しんウイルスの感染によって起こる急性熱性発疹性の感染症です。麻しんウイルスは人のみに感染するウイルスであり、感染発症した人から人へと感染していきます。感染力は極めて強く、麻しんに対して免疫がない人が麻しんウイルスに感染すると、90%以上が発病し、不顕性感染は殆どないことも特徴の1つです。現在ではビタミンAが不足すると麻しんの重症化を招きやすいことが知られており、発展途上国ではその死亡率が10~30%に達する場合があると言われています。我が国においても麻しんは最近まで度々大きな流行を繰り返していましたが、ワクチンの接種率の向上や多くの関係者の努力により、国内の麻しんの発症者数は大きく減少しました。そして2015年3月27日、WHO西太平洋事務局(WPRO)は過去3年間にわたって日本国内には土着の麻しんウイルスは存在していないとして我が国が「麻しんの排除状態にある」ことを認定しました。 麻しんは麻しんウイルスが人から人へ感染していく感染症です。他の生物は媒介しません。人から人への感染経路としては空気(飛沫核)感染の他に、飛沫感染、接触感染もあります。麻しんは空気感染によって拡がる代表的な感染症であり、その感染力は強く、1人の発症者から12~14人に感染させるといわれています。麻しん発症者が周囲の人に感染させることが可能な期間(感染可能期間)は、発熱等の症状が出現する1日前から発疹出現後4~5日目くらいまでです。学校保健安全法施行規則では、麻しんに罹患した場合は解熱後3日間を経過するまで出席停止とされています。麻しんは空気(飛沫核)感染する感染症です。麻しんウイルスの直径は100~250nmであり、飛沫核の状態で空中を浮遊し、それを吸い込むことで感染しますので、マスクを装着しても感染を防ぐことは困難です。麻しんの感染発症を防ぐ唯一の予防手段は、予めワクチンを接種して麻しんに対する免疫を獲得しておくことです。
【要注意】インフルエンザ
2024年第11週(3/11-17)時点で、いったん落ち着くかに思われたインフルエンザは、2週連続増加に転じています。これまでの流行状況について、多少の増減はあるものの、国内のインフルエンザの患者発生数は、2023年9月以降現在に至るまで増加傾向が続いており、引き続き注意が必要と考えています。過去の例をみると、前年の12月までに、それほど流行していなかった地域が、年明けに患者発生数が急増する場合が多いです。しかし、今シーズンは、B型も流行するなど、例年と異なる状況が続いています。春休み期間には、いったん落ち着くと考えられますが、春休み明けから、再度、増加する可能性も否定できません。注意してください。インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症で、毎年世界中で流行がみられています。日本でのインフルエンザの流行は、例年11月下旬から12月上旬にかけて始まり、1月下旬から2月上旬にピークを迎え3月頃まで続きます。しかし、今季はシーズン入り前から、一定程度の患者報告数があり、例年の同時期に比べると高い水準でのシーズン入りとなりました。一方で、地域差や増加の幅など流行の動向がつかみにくいため、注意が必要です。主な感染経路は、くしゃみ、咳、会話等で口から発する飛沫による飛沫感染で、他に接触感染もあるといわれています。飛沫感染対策として、咳エチケットや接触感染対策としての手洗いの徹底が重要であると考えられますが、たとえインフルエンザウイルスに感染しても、全く無症状の不顕性感染例や臨床的にはインフルエンザとは診断し難い軽症例が存在します。これらのことから、特にヒト-ヒト間の距離が短く、濃厚な接触機会の多い学校、幼稚園、保育園等の小児の集団生活施設では、インフルエンザの集団発生をコントロールすることは、困難であると思われます。引き続き、注意が必要でしょう。
■感染症に詳しい医師は…
大阪府済生会中津病院の安井良則医師は「4月に最も注意してほしい感染症は、RSウイルス感染症を挙げました。大阪府では、患者報告数は少ないものの、大きく伸びをみせています。どの程度まで流行するかは予測が困難ですが、今後、緩やかに全国へ波及していくものと考えられます。乳幼児の罹患には、特に注意が必要でしょう。また、麻しん(はしか)の患者報告が、関西を中心に報告されています。海外から帰国する、航空機内で感染が広がったとみられますが、今後も、このようなケースは、増えていくとみられます。麻しんは、ワクチンしか防ぐ手立てはありませんが、第一優先は、お子さんの定期接種です。既に、免疫を獲得している大人が駆け込みで接種を行うと、ワクチンが不足する可能性があります。免疫があるか気がかりな方は、検査も可能です。大人の場合は、骨髄移植を行った場合や免疫抑制剤を使用されている方を除き、免疫のある方や既に、自然罹患された方は、まずワクチンを駆け込みで打つ必要はありません」としています。
取材
大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長 安井良則氏