国立感染症研究所の令和6年第3週(1/15-21)速報データによると、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)の全国の定点あたりの報告数は4.28。前週(第2週)と比較すると約1.5倍と急増しています。全国的に患者が発生していますが、富山9.59、鳥取9.37、山形9.04、福岡8.08、宮崎6.72、新潟6.47、佐賀6.35、北海道6.27が多くなっています。
【2月に注意してほしい感染症!】新型コロナ増加に勢い新たな流行株JN.1への置き換わり一因か… インフルエンザ動向に注意
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は、レンサ球菌という細菌を病原体とする感染症です。略して「溶連菌感染症」ということもあります。主に感染している人の口から出る飛沫(しぶき)などを浴びることによって感染する「飛沫(ひまつ)感染」や、おもちゃやドアノブなどに付着している病原体に触れた手で口や眼などから感染する「接触感染」、そして食品を介して「経口感染」する場合もあります。
溶連菌感染症の症状は?
主な症状としては、扁桃炎(へんとうえん)、伝染性膿痂疹(のうかしん)、中耳炎、肺炎、化膿性関節炎、骨髄炎、髄膜炎など、さまざまな症状を呈します。潜伏期間は2〜5日。突然の発熱と全身倦怠感、ノドの痛みなどが起こり、しばしば嘔吐を伴うことがあります。その後、舌がいちご状に赤く腫れ(苺舌)、全身に鮮紅色の発しんが出る「猩紅熱(しょうこうねつ)」になることがあります。また、発しんがおさまった後、指の皮がむけることがあります。伝染性膿痂疹は「とびひ」とも呼ばれています。発症初期には水疱(水ぶくれ)がみられ、化膿したり、かさぶたを作ったりします。
感染症に詳しい医師は…
感染症に詳しい大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長の安井良則医師は「年末から年始にかけて減少していた溶連菌感染症ですが、この時期としては過去に例のないくらい患者数が増加しています。やはり新型コロナウイルス感染症の影響で過去3年間大きな流行がなかったことで、感受性者(感染症にかかりやすい状態にある人)が多いことが、流行を大きくしている要因の一つだと思います」としています。
合併症の可能性も
また、合併症として、リウマチ熱や急性糸球体腎炎を起こすことがあります。
安井医師は、「溶連菌感染症は様々な合併症を併発する可能性があるので、早期治療が重要です。抗菌薬で治療が可能なので、発熱やノドの痛みなど、気になる症状がある時は、早めに医療機関を受診していただければと思います。治療が遅れると、それだけ症状が長引くおそれがありますし、合併症の予防という点においても早期治療が重要です」としています。
予防法・治療法は?
溶連菌感染症の予防としては、患者との濃厚接触をさけることが最も重要であり、うがい、手洗いなどの一般的な予防法も有効です。治療にはペニシリン系薬剤が第1選択薬ですが、アレルギーがある場合にはエリスロマイシンが適応となり、また第1世代のセフェムも使用可能です。いずれの薬剤も少なくとも10日間は確実に投与することが必要です。除菌が思わしくない例では、クリンダマイシン、アモキシシリン/クラブラン酸、あるいは第2世代以降のセフェム剤が使用される場合があります。症状がおさまっても、医師の指示に従い内服を続けないと、再発や合併症を招くおそれがあります。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症
また、A群溶血性レンサ球菌は「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」の原因菌でもあります。別名「人食いバクテリア」とも呼ばれることがあり、日本では毎年100〜200人の患者が確認されており、このうちの約30%が亡くなっています。発病から病状の進行が非常に急激かつ劇的で、発病後数十時間以内には軟部組織壊死、急性腎不全、成人型呼吸窮迫症候群(ARDS)、播種性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全(MOF)を引き起こし、ショック状態から死に至ることも多いとされています。また近年、妊産婦の症例も報告されています。
引用
国立感染症研究所:IDWR速報データ令和6年第3週(1/15-21)、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは、劇症型溶血性レンサ球菌感染症とは
取材
大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長 安井良則氏