国立感染症研究所の第49週(12/4-12/10)速報データによると、咽頭結膜熱の全国の定点あたりの報告数は3.48。前週の3.72から微減となりましたが、それでも警報レベルを維持しています。都道府県別では、福井が8.76で最多となっており、その他北海道7.59、富山6.59、福岡県6.09となっています。今回ご紹介するのは、『感染症・予防接種ナビ』に寄せられた、家庭内で感染したとみられる35歳の方の咽頭結膜熱の経験談です。
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35歳島根県
12月5日 娘が発熱し、受診。おそらくアデノだろうと言われる。熱は1日で収まる。
12月11日 目の充血と喉の腫れ。「また風邪引いたかな?」くらいにしか考えてなくて、疲れ目かな?程度。
12月12日 前日と同様。職場の人から目の充血すごいよと言われる。昼過ぎ頃から身体がだるくなり早退。夕方37.5℃の発熱。
12月13日 受診、アデノ陽性。38度台の熱と悪寒が続き身体がだるく、何もやる気にならない。解熱剤で何とか抑え込んでいる感じ。
12月14日 前日と同じ。充血も良くならず、ずっと寝ているわけにもいかないので出来る家事育児だけをしていた。
12月15日 一向に良くならない。それどころか咳も出始め鼻詰まりも辛い。
12月16日 もうこのまま倒れるのでは無いかと覚悟を決める。
12月17日 解熱剤も底をついてきた。現在12月18日の朝ですが、解熱剤を処方してもらうために、また病院行こうと思います。こんなに長引くとは思わなかった。
感染症に詳しい医師は…
大阪府済生会中津病院院長補佐で感染管理室長の安井良則医師は「咽頭結膜熱の原因となるアデノウイルスの潜伏期間は、5-7日ほどと言われています。期間的に、お子さんから感染した可能性があります。直接、診断した訳ではないので、分からないこともありますが、咽頭結膜熱の発熱期間は、およそ4日ほどです。今回の方は、少し、長引いたようですが、ゆっくり休んで頂くしかありません。また、目の充血がひどい時は、眼科を受診することをすすめますが、体調的にしんどかったのでしょう。お大事にしてください」としています。
咽頭結膜熱とは?
咽頭結膜熱とは、アデノウイルスが原因の感染症です。症状としては、38~39℃の発熱、ノドの痛み、結膜炎があります。5〜7日の潜伏期間の後に発症。まず発熱があり、頭痛、食欲不振、全体倦怠感とともに、咽頭炎による咽頭痛、結膜炎に伴う結膜充血、眼痛などがあり、3〜5日程度持続します。特に治療法はなく、対症療法が中心となります。子どもに多い感染症で、罹患年齢は5歳以下が約6割を占めているというデータもあります。生後14日以内の新生児に感染した場合は、全身性感染を起こしやすく、重症化する場合があることが報告されています。
咽頭結膜熱の予防法は?
咽頭結膜熱の予防としては、感染者との密接な接触を避けること、流行時にうがいや手指の消毒を励行することなどがあります。消毒法に関しては、手指に対しては流水と石けんによる手洗い、及び90%エタノール、器具に対しては煮沸、次亜塩素酸ソーダを用います。消毒用エタノール(80%程度)の消毒効果は弱いとされています。感染力が強いためにタオルなどの共有は厳禁です。多くの人がさわるドアノブ、スイッチから感染することもあるので、流行時には消毒をする必要があります。保育所などではおもちゃの消毒も有効です。また幼児の感染が多い咽頭結膜熱ですが、治癒後も長時間、便のなかにウイルスが排出されることがわかっています。排便後、またはおむつを取り替えたあとの手洗いは石鹸を用いて流水で丁寧に行うことが重要です。
結膜炎など眼に症状がある場合は、眼科を受診
咽頭結膜熱の主な症状は、発熱、ノドの痛み、結膜炎です。安井医師は、「咽頭結膜熱の症状は、まず発熱があり、続いてノドの痛み、結膜炎を発症するとありますが、どの症状が強く出るのかは人それぞれです。特に眼の症状は小児科や耳鼻咽喉科では診られませんし、アデノウイルスの流行時期には別の血清型のウイルスが原因の『流行性角結膜炎』の場合もあるので、早めに眼科を受診する必要があります」としています。流行性角結膜炎で角膜に炎症が及ぶと透明度が低下し、混濁が数年に及ぶことがあります。また新生児や乳幼児では偽膜性結膜炎を起こし、細菌の混合感染で角膜穿孔を起こすことがあるので注意する必要があります。異変を感じたり、気になる症状があるときは、迷わず医療機関を受診しましょう。
引用
国立感染症研究所:「IDWR速報データ2023年第49週」「咽頭結膜熱とは」「アデノウイルスの種類と病気」「流行性角結膜炎とは」
厚生労働省:咽頭結膜熱について
取材
大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長 安井良則氏