国立感染症研究所の2023年第43週(10/23-29)速報データによると、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)の全国の定点あたりの報告数は3.05。前週(42週)と比較し、1.14倍の増加となりました。全国的に患者は発生していますが、東京都(4.27)・埼玉県(4.96)・千葉県(4.48)など、首都圏で報告数が多くなっています。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は、レンサ球菌という細菌を病原体とする感染症です。略して「溶連菌感染症」ということもあります。主に感染している人の口から出る飛沫(しぶき)などを浴びることによって感染する「飛沫(ひまつ)感染」や、おもちゃやドアノブなどに付着している病原体に触れた手で口や眼などから感染する「接触感染」、そして食品を介して「経口感染」する場合もあります。今回、『感染症・予防接種ナビ』に寄せられたのは、静岡県の37歳の方の経験談です。
37歳・静岡県
10/2の仕事中に体に力が入らず全身が痛く体調が悪いので帰宅。深夜熱を測ると39℃。喉の痛みはなし。
10/3午後に耳鼻科に行って検査すると溶連菌感染症。7日分抗生物質を出された。薬を飲んでも熱が下がらず、全身の関節、筋肉痛と首のリンパがパンパンに腫れている。目眩するほどの頭痛。ロキソニン飲んでも体の痛みが全く取れず。投薬開始後3日目に耳鼻科に連絡をして熱が下がらない辛いと電話しても様子みての一点張りなので4日目にほかの内科で点滴をしてもらいました。この間まで日中は、微熱。深夜は悪寒後に高熱。酷い頭痛と関節痛、リンパも腫れていました。点滴を打ってもらって、だいぶ頭痛と関節痛は楽になりました。人によって薬の効き目の速さは違うと思うのですが、正直コロナやインフルエンザよりきついです。(コロナは2ヶ月前に43℃の熱が出て救急車呼びましたが熱はすぐ下がりました)いつ治るか分からない不安と痛みに耐えるのは結構しんどいです。
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感染症の専門医は…
感染症の専門医で、大阪府済生会中津病院の安井良則医師は「溶連菌感染症は、様々な合併症を併発する可能性があるので、早期治療が重要です。発熱やノドの痛みなど、初期に起こる症状がある場合は、早めに医療機関を受診していただければと思います。溶連菌感染症は抗菌薬で治りますが、治療が遅れると、それだけ症状が長引くおそれがあります。溶連菌は、薬に対する耐性菌も存在し、効果が薄い薬もあります。また、途中で服用を止めてしまうと、症状が、ぶり返す場合もあります。しっかり治療することが必要です。今回のケース、直接診断した訳ではないので、何とも言えませんが、どんな抗菌薬が処方されたのかが、気になる所です。私が診察したケースでは、元の治療薬の効果が芳しくない場合に、別の薬に切り替え、5日間の追加投与をしたところ、効果がみられた場合もありました。溶連菌感染症は、糸球体腎炎を発症することもあり、しっかりとした治療が必要です。今後の溶連菌感染症の患者報告数の動向ですが、過去3年間の感受性者の蓄積もあるため、全国的に12月に向けて過去最高になる恐れもあります。大阪府では、翌44週は、減少していますが、流行地域の周辺は、まだまだ注意が必要でしょう」としています。
溶連菌感染症の症状は?
主な症状としては、扁桃炎(へんとうえん)、伝染性膿痂疹(のうかしん)、中耳炎、肺炎、化膿性関節炎、骨髄炎、髄膜炎など、さまざまな症状を呈します。潜伏期間は2〜5日。突然の発熱と全身倦怠感、ノドの痛みなどが起こり、しばしば嘔吐を伴うことがあります。その後、舌がいちご状に赤く腫れ(苺舌)、全身に鮮紅色の発しんが出る「猩紅熱(しょうこうねつ)」になることがあります。また、発しんがおさまった後、指の皮がむけることがあります。伝染性膿痂疹は「とびひ」とも呼ばれています。発症初期には水疱(水ぶくれ)がみられ、化膿したり、かさぶたを作ったりします。また、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎にかかると、合併症を引き起こす懸念があります。肺炎、髄膜炎、敗血症などの化膿性疾患。あるいはリウマチ熱、急性糸球体腎炎などの非化膿性疾患を生ずることが知られています。
治療法は?
治療にはペニシリン系薬剤が第1選択薬ですが、アレルギーがある場合にはエリスロマイシンが適応となり、また第1世代のセフェムも使用可能です。いずれの薬剤も少なくとも10日間は確実に投与することが必要です。除菌が思わしくない例では、クリンダマイシン、アモキシシリン/クラブラン酸、あるいは第2世代以降のセフェム剤が使用される場合があります。
引用
国立感染症研究所:IDWR速報データ第43週(10/23-29)群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは
取材
大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長 安井良則氏