国立感染症研究所の感染症発生動向調査週報2023年42週(10/16〜22) 速報データによると、この1週間の梅毒の患者報告数は全国172人。今年の累積報告数は1万2165人となりました。去年のこの時期(2022年38週)の累積報告数と比較すると、約1.2倍に増加しており、流行の拡大傾向は続いています。
【2023年】11月に注意してほしい感染症!専門医「インフルエンザ流行規模は予測不能 溶連菌感染症の動向気がかり 季節外れの流行のアデノウイルス感染症も…」 要注意は梅毒
梅毒とはどのような感染症?
梅毒とは、梅毒トレポネーマという病原体により引き起こされる感染症で、主にセックスなどの性的接触により、口や性器などの粘膜や皮膚から感染します。オーラルセックス(口腔性交)やアナルセックス(肛門性交)などでも感染します。また、一度治っても再び感染することがあります。梅毒に感染すると、性器や口の中に小豆や指先くらいのしこりができたり、痛み、かゆみのないほっ疹が手のひらや体中に広がることがあります。また、これらの症状が消えても感染力が残っているのが特徴です。治療しないまま放置していると、数年から数十年の間に心臓や血管、脳などの複数の臓器に病変が生じ、特には死にいたることもあります。
大都市を中心に、全国で患者が発生
都道府県別では、東京都2980人、大阪府1628人、福岡県753人、愛知県701人、北海道560人、神奈川県548人と大都市圏が多い一方、すべての都道府県で患者が発生しています。男性では20〜50代が多く、女性では20代が多くなっています。2022年のデータでは、報告数の約3割が女性です。
若い女性の感染が、子どもに影響!
若い女性の感染が問題となるのは、本人の病状もさることながら、妊娠した場合母子感染が起こるということです。妊娠した女性が梅毒に感染すると、胎盤を介しておなかの赤ちゃんにも梅毒がうつります。母子感染により、流産、死産の可能性が高まります。さらには生まれたとしても「先天梅毒」といって、出生時は無症状なものの、その後様々な症状が現れることがあります。
先天梅毒の症状
早期先天梅毒では、生後数か月以内に水疱性発疹、斑状発疹、丘疹状の皮膚症状に加え、全身性リンパ節腫脹、肝脾腫、骨軟骨炎、鼻閉などを呈することがあります。
後期先天梅毒では、生後2年以降には実質性角膜炎、内耳性難聴、ハッチンソン歯などを呈することがあります。
感染症に詳しい医師は…
感染症に詳しい大阪府済生会中津病院の安井良則医師は、「ここ10年来、梅毒の患者は増加の一途をたどっています。今年もこのまま行くと11月末には昨年の累積報告数1万2966人を超えるのではないかと思います。梅毒は抗菌薬で治るので、感染の心配がある方はまず検査をして、陽性であればきちんと治療していただければと思います。そして、何よりも重要なのは、梅毒にかからない、感染しないことです」と話しています。
梅毒の予防法は?
梅毒を予防するためには、梅毒に感染している人との性的接触(性交渉、オーラルセックス、アナルセックス、キスを含む)をしないことです。不特定多数の人との性的接触は、感染リスクを高めます。パートナーとは、粘膜や皮膚が梅毒の病変などと直接接触しないようすることも重要です。コンドームを適切に使用することで感染のリスクを下げることはできますが、覆わない部分から感染する可能性があるため、完全に予防することはできません。梅毒は性的接触で感染するので、自分もパートナーも感染していないことが重要です。感染の心配が少しでもあるのであれば検査を受け、自分もパートナーを守ってください。
「梅毒」を知ってもらうことが重要
梅毒の感染拡大には、性風俗産業も大きく関わっています。ある調査によると、報告された患者のうち、男性の性風俗産業の利用歴(直近6か月以内)は42%、女性の性風俗産業従事歴(直近6か月以内)は39%となっています。不明や回答なしを加えると、男性も女性も約7割が性風俗産業に何らかの関わりがあるのではないかみられています。
安井医師は「梅毒の感染拡大を受け、検査の強化している各自治体が多くあります。もちろんそれも良いことなのですが、梅毒の感染を防ぐために、梅毒のことを知らない、特に若い人たちへの教育が重要だと思います。梅毒は気をつけていれば、防ぐことができる感染症です。そして感染したとしても、治療方法があります。広く社会に梅毒のことを伝えることが、感染拡大につながると考えます」としています。
引用
国立感染症研究所 感染症発生動向調査週報 2023年42週(10/16〜22)、感染症動向調査で届けられた梅毒の概要(2023年10月4日現在)、IDWR2022年第42号〈注意すべき感染症〉梅毒、妊娠梅毒の治療、
厚生労働省HP:梅毒、梅毒に関するQ&A
取材
大阪府済生会中津病院院長補佐 感染管理室室長 安井良則氏