国立感染症研究所の第40週(10/2-8)速報データによると、咽頭結膜熱の全国の定点あたりの報告数は1.87。前週から増加し微増し、過去10年で最多を2種連続で更新しました。
都道府県別に見ると、福岡県(5.83)・大阪府(3.82)・沖縄県(4.97)・佐賀県(3.39)・奈良県(3.5)・京都府(3.2)で、警報基準値である3.0を超えています。別名「プール熱」とも呼ばれており、春から夏にかけて流行する感染症です。主にアデノウイルス3型(他に1、2、4、5、6、7型等でもみられる)に感染することによる咽頭炎、結膜炎を主とする急性ウイルス性感染症です。なお、「プール熱」という名前の方が一般的に知られるようになり、プールに入ったら感染してしまうなどというイメージを持っている方もいらっしゃいますが、残留塩素濃度の基準を満たしているプールの水を介して感染することはほとんどありません。
今回、感染症・予防接種ナビに寄せられたのは、咽頭結膜熱に代表される「アデノウイルス感染症」が疑われる経験談です。娘さんから、保護者の方に家庭内感染したとみられますが、対策として必要なことを感染症の専門医に伺いました。
【2023年】10月に注意してほしい感染症!専門医が予測「インフルエンザ流行加速 コロナは減少するか見極め必要 季節外れの流行のアデノウイルス感染症も…」 要注意は梅毒
経験談36歳 三重県
8,9日娘が就寝時のみ咳き込んでいる。
10日朝から咳き込んでいたため保育園を休ませる。
11日朝から娘発熱39.0小児科へ。「アデノかヒトメタニューモ」との所見。対症療法の薬をもらって帰宅。帰宅後、私(保護者)自身、悪寒がし、37.8℃の発熱。午後の診療に行くときには38.5℃まで上昇。インフルコロナ陰性で、対症療法の薬をもらって帰宅。とにかく解熱剤を飲まないとひどい頭痛・高熱によるだるさが辛い。夜には39.0℃まで上昇。
12日娘は、解熱。私(保護者)が解熱剤を飲むと37℃代まで下がり楽になるが、薬が切れる頃には39℃まで上がるの繰返しで体力と気力を奪われる。下の子が4ヶ月で授乳中のため、授乳のタイミングだけ動いてあとはベッドで横たわる。夜間授乳で起きた際発汗しており、2回着替えて熱が36.5℃になっており喜ぶも明け方の授乳時には38度まで上がりぬか喜びにガッカリさせられる。
13日娘再度発熱。38→39→37℃と上下が激しい。私(保護者)は病院再受診するもコロナインフル陰性。ネット情報では3〜5日高熱が続くとあったため耐えるしか無いと覚悟を決めるも病院帰宅後悪寒がすごく倒れ込むようにベッドで眠る。相変わらず解熱剤なしではいられない。夜間に前日と同じく発汗し、平熱まで下がる。
14日朝8時時点(今ここ)で37.7℃。解熱剤がとっくに切れている頃に39℃まで上がらないのは初めてのため、ピークは超えたと期待したい。ここから37℃代が数日続くとのことなのでできるだけ休めて完治させ、2度とかかりたくない。対症療法しかなく、数日耐えることしかできないがゆっくり寝るのが一番と分かっていても寝られない時間も出てきて辛い。寝られないときは、ベッドに横たわっていたが思考もマイナスになりやすいため気分が晴れにくい。ワンオペ育児中や、一人暮らしの方など誰かのサポートを受けられない状況の方の辛さは想像を絶します。仕事を休んで子どもと私の看病、さらに授乳以外の下の子の世話までしてくれた主人には頭が上がりません。
感染症の専門医は…
感染症の専門医で、大阪府済生会中津病院の安井良則医師は「咽頭結膜熱の定点報告数が、過去最高を更新しました。咽頭結膜熱は、アデノウイルスによるものです。アデノウイルスには、数種の型があり、咽頭炎、扁桃炎、肺炎などの呼吸器疾患や消化器疾患、泌尿器疾患から、肝炎、膵炎から脳炎と言った様々な症状が出る場合があります。感染研のデータでは、アデノウイルスが原因の咽頭結膜熱と流行性角結膜炎の流行状況しか分かりませんが、アデノウイルスによる感染症の潜在的な患者も、多くいらっしゃる可能性があります。今回のケースについて、直接診断されていないのでアデノウイルス感染症と断定はできません。しかし、診断されたお医者さんも『アデノかな?』ではなく、アデノウイルス・溶連菌の検査をお医者さんに実施して頂きたかったです。お子さんの病因が分かれば、その後に、家庭内感染が起こっても、医療機関は、適切な対応を取りやすいと思います。アデノウイルス感染症は、幼稚園・保育園などでは、流行している所もあると耳にします。いつかは罹る感染症ですが、症状がキツイ場合もあります。じゅうぶん、注意してください」としています。
※安井医師は、「今回の経験談は、アデノウイルスが原因の感染症と確定診断された訳ではないが、アデノウイルス感染症の可能性が高いケースではないか」としています。念のため、咽頭結膜熱について下記に記載します。
咽頭結膜熱とは…
咽頭結膜熱とは、アデノウイルスが原因の感染症です。症状としては、38~39度の発熱、ノドの痛み、結膜炎があります。5〜7日の潜伏期間の後に発症。まず発熱があり、頭痛、食欲不振、全体倦怠感とともに、咽頭炎による咽頭痛、結膜炎に伴う結膜充血、眼痛などがあり、3〜5日程度持続します。特に治療法はなく、対症療法が中心となります。子どもに多い感染症で、罹患年齢は5歳以下が約6割を占めているというデータもあります。生後14日以内の新生児に感染した場合は、全身性感染を起こしやすく、重症化する場合があることが報告されています。
アデノウイルスの感染経路は?予防法は?
咽頭結膜熱などを起こすアデノウイルスは、飛沫感染、接触感染などでうつります。
・飛沫感染
感染している人や咳やくしゃみ、会話をした際に、病原体が含まれた小さな水滴(飛沫)が口から飛び、これを近くにいる人が吸い込むことで感染します。飛沫が飛び散る範囲は1〜2メートルです。子どもたちが遊ぶ時などは距離が近く、また感染したことがなく免疫がない子どもが多いため、集団感染が起こりやすくなります。保育所や幼稚園などでは、咳やくしゃみなどの症状がある場合、登園を控え、まわりにうつさないようにすることが重要です。
・接触感染
感染源に直接触れること(握手、だっこ、キスなど)や、汚染されたもの(ドアノブ、手すり、遊具など)に触れることでアデノウイルスが手に付着し、その手で口や鼻、眼などを触ることでも感染します。感染者が使用したタオルなどを共用することで感染することもあります。小さいお子さんではおもちゃをなめたりすることもあり感染を防ぐことは難しいですが、接触感染に最も重要な対策は手洗いなどにより手指を清潔に保つことです。小さな子どもは大人が手伝ってあげて、正しい手洗いの仕方でウイルスを除去することが重要です。
症状がなくなっても約1か月にわたってウイルスを排出
咽頭結膜熱は症状がなくなっても、約1か月にわたって尿や便の中にウイルスを排出するといわれています。トイレやおむつ交換等で衛生に気をつけないと、感染を広げる原因となります。また、感染しても発病しない場合もあるので、保育園、幼稚園、小学校などでは流行時期には集団感染に気をつける必要があります。
引用
国立感染症研究所:「IDWR速報データ2023年第40週」「咽頭結膜熱とは」「アデノウイルスの種類と病気」
厚生労働省:咽頭結膜熱について
取材
大阪府済生会中津病院感染管理室室長 安井良則氏