国立感染症研究所の第40週(10/2-8)速報データによると、咽頭結膜熱の全国の定点あたりの報告数は1.87。前週からは0.05ポイントの微増となりましたが、過去10年で最多を継続中です。咽頭結膜熱は、1週間で1定点あたりの患者報告数が3人を超えると警報レベルとなりますが、福岡をはじめ、沖縄、佐賀、奈良、大阪、京都で3を超えています。また、東京都は警報レベルにある保健所の管内人口の合計が都全体の人口の30%超となり、都全体で都が定める警報基準に達しました。患者報告数が都全体としての警報基準に達するのは、感染症法が施行された1999年以来初めてのことです。
【2023年】10月に注意してほしい感染症!専門医が予測「インフルエンザ流行加速 コロナは減少するか見極め必要 季節外れの流行のアデノウイルス感染症も…」 要注意は梅毒
咽頭結膜熱とは?
咽頭結膜熱とは、アデノウイルスが原因の感染症です。症状としては、38~39度の発熱、ノドの痛み、結膜炎があります。5〜7日の潜伏期間の後に発症。まず発熱があり、頭痛、食欲不振、全体倦怠感とともに、咽頭炎による咽頭痛、結膜炎に伴う結膜充血、眼痛などがあり、3〜5日程度持続します。特に治療法はなく、対症療法が中心となります。子どもに多い感染症で、罹患年齢は5歳以下が約6割を占めているというデータもあります。生後14日以内の新生児に感染した場合は、全身性感染を起こしやすく、重症化する場合があることが報告されています。
感染症に詳しい医師は…
感染症に詳しい、大阪府済生会中津病院の安井良則医師は、
「これまで咽頭結膜熱は、夏場に多い感染症でした。プール熱という名前の方が一般的に知られるようになり、プールに入ったら感染してしまうなどというイメージを持っている方もいらっしゃいますが、残留塩素濃度の基準を満たしているプールの水を介して感染することはほとんどありません。しかし、感染力は強く、タオルの共有などで感染が広がることがあります。例年であれば10月は夏の流行が終わり、感染者が少ない時期なので、なぜこの時期に患者数が多いのか、はっきりした理由がわからないのが現状です。他の多くの感染症にも言えることですが、新型コロナウイルス感染症が流行している間はあまり大きな流行が起こらず、免疫が不十分なお子さんが多いことが、流行拡大につながっているのではないかと考えています。咽頭結膜熱の原因であるアデノウイルスは感染力が強いので予防は難しく、これから先の流行の予測も難しい状況です」と語っています。
咽頭結膜熱(アデノウイルス)感染経路と感染予防のポイント
・アデノウイルスはウイルスが含まれた咳やくしゃみを吸い込んだり、手についたウイルスが口に入ったりすることで感染します。
・アデノウイルスにはアルコール消毒が効きにくいため、流水や石けんでこまめな手洗い、咳やくしゃみをするときには口と鼻をティッシュなどで覆うなど、咳エチケットを心がけましょう。
・咳などの症状がある場合は、登園・登校を見合わせるなど、無理をさせないように配慮しましょう。
・症状がおさまった後も、患者さんの便の中にはウイルスが含まれますので、トイレのあとやオムツ交換のあと、食事の前には手洗いを心がけましょう。
・集団生活ではタオルの共用は避けましょう。
・先天性心疾患、慢性肺疾患などを持つ場合は、かかりつけ医に相談し、感染予防や病気にかかった場合の対応について助言を受けておきましょう。
ほかにもアデノウイルスが原因の感染症が
アデノウイルスには51種類の血清型および、52型以降の遺伝型があり、型によって呼吸器感染症、流行性角結膜炎、出血性膀胱炎、胃腸炎など、さまざまな病気を引き起こします。
安井医師は、「国立感染症研究所のデータでは咽頭結膜熱や流行性角結膜炎の流行状況しかわかりませんが、他のアデノウイルスによる感染症もおそらく流行しているのではないかと考えています。医療機関では新型コロナやインフルエンザの検査は行っても、アデノウイルスの検査は行われない場合があるようで、実は数字以上の流行が進んでいる可能性もあります。子どもから大人へ、家族間の感染も大いにあると思いますので、これからも引き続き感染予防に留意していただければと思います」としています。
引用
国立感染症研究所:「IDWR速報データ2023年第40週」「咽頭結膜熱とは」「アデノウイルスの種類と病気」「保育所における感染症対策ガイドライン(2018年改定版)」
厚生労働省:咽頭結膜熱について
東京都医療保健局:「咽頭結膜熱(プール熱)が流行、都内で警報基準に達する(2023年10月12日)」
取材
大阪府済生会中津病院感染管理室室長 安井良則氏