国立感染症研究所の第40週(10/2-10/8)速報データによると、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)の全国の定点あたりの報告数は2.01。例年「春から初夏にかけて」と「冬」にかけて流行していましたが、例年よりも高い水準で患者数が増加しています。全国的に患者が発生していますが、報告数では鳥取が5.89、奈良、山口、福岡で3を超えています。この先も大きな流行になるのではないかと心配されています。
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■A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは?
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)とは、溶血性レンサ球菌を病原体とする感染症です。主に感染している人の口から出る飛沫(しぶき)などを浴びることによって感染する「飛沫(ひまつ)感染」や、おもちゃやドアノブなどに付着している病原体に触れた手で口や眼などから感染する「接触感染」、そして食品を介して「経口感染」する場合もあります。
■症状
主な症状としては、扁桃炎(へんとうえん)、伝染性膿痂疹(のうかしん)、中耳炎、肺炎、化膿性関節炎、骨髄炎、髄膜炎など、さまざまな症状を呈します。潜伏期間は2〜5日。突然の発熱と全身倦怠感、ノドの痛みなどが起こり、しばしば嘔吐を伴うことがあります。その後、舌がいちご状に赤く腫れ(苺舌)、全身に鮮紅色の発しんが出る「猩紅熱(しょうこうねつ)」になることがあります。また、発しんがおさまった後、指の皮がむけることがあります。伝染性膿痂疹は「とびひ」とも呼ばれています。発症初期には水疱(水ぶくれ)がみられ、化膿したり、かさぶたを作ったりします。適切な治療をすれば後遺症がなく治りますが、治療が不十分な場合には、発症数週間後にリウマチ熱、腎炎などを合併することがあります。
■感染症に詳しい医師は…
感染症に詳しい、大阪府済生会中津病院の安井良則医師は、「新型コロナウイルス感染症の流行が始まって3年経ちますが、その影響は他の多くの感染症にもあるようで、流行の時期が新型コロナ流行以前と変わっているケースが多く見られ、また流行の規模も大きくなっています。溶連菌感染症は今年の夏にも患者数が増えましたが、それほど大きな流行ではありませんでした。ですので、この先大きな流行になっていくのではないかと懸念しています」としています。
■予防・治療方法は?
溶連菌感染症はワクチンが開発されておらず、飛沫感染や接触感染による感染を防ぐためには、手洗いによる手指衛生など一般的な予防法を実施することが大切です。特に、ヒトとの距離が近い場合に感染しやすいので、きょうだいや幼稚園・保育所などでは予防が重要です。流行の度合いによっては、マスクの着用も有効です。また発症した場合は、抗菌薬によって治療が有効です。
安井医師は、「溶連菌感染症はいずれの年齢でも起こりますが、3歳以下や成人では典型的な臨床例を呈する症例は少なく、学童期の子どもに最も多いとされています。溶連菌感染症の重症化を防ぐためには、早い時期での治療・・・つまり抗菌薬の投与が重要です。溶連菌感染症はノドの痛みや高熱が出ることから始まることが多いので、学童期のお子さんにそのような症状があれば早めに医療機関を受診して、早期に治療することが重要です」としています。
■劇症型溶血性レンサ球菌感染症のおそれも
また、A群溶血性レンサ球菌は「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」の原因菌でもあります。発病から病状の進行が急激かつ劇的で、発病後数十時間以内には軟部組織壊死、急性腎不全、成人型呼吸窮迫症候群、多臓器不全などを引き起こし、ショック状態から死に至ることも多い感染症で、今年はすでに600例以上の報告があります。30歳以上の大人に多いことが特徴とされているので、溶連菌感染症の流行時には注意が必要です。
引用
国立感染症研究所:IDWR速報データ2023年第40週、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは、劇症型溶血性レンサ球菌感染症とは
厚生労働省:保育所における感染症対策ガイドライン(2018年改訂版)
取材
大阪府済生会中津病院感染管理室室長 安井良則氏