帯状疱疹は、水痘-帯状疱疹ウイルスが再活性化することで発症します。水痘とは、「水ぼうそう」のことで、感染したことがある人は、治癒した後も、体内の神経節にウイルスが潜伏した状態が続きます。潜伏したウイルスは、加齢やストレス、疲労等による免疫力の低下で再活発化し、帯状疱疹を引き起こします。また、帯状疱疹の合併症の一つとして帯状疱疹後神経痛があり、発症頻度は年齢や症例定義、報告によって異なりますが、帯状疱疹患者の10-50%で生じるとされています。国内外の疫学調査において、壮年層における帯状疱疹では発症から3ヶ月以上持続する疼痛が10-20%に認められます。帯状疱疹は、特に50歳を境に発症率が急上昇するため注意が必要です。
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今回、「感染症・予防接種ナビ」に寄せられたのは、膠原病で免疫抑制剤を使っていると言う34歳・神奈川県の方の経験談です。
34歳・神奈川県(膠原病でステロイド・免疫抑制剤を使用)
もともと膠原病があり、毎日ステロイドや免疫抑制剤などを飲んでいる。帯状疱疹になる4日前にコロナワクチンを打ち、副反応の倦怠感で3日間寝込む。
7/7(金)顎の右側に赤くなっているところを見つける。痒み痛みなし。
7/8(土) 近所の内科を受診、ヘルペスの疑いで塗り薬をもらう。
土日で顎から右耳にかけて水膨れを伴う赤い発疹が並ぶ。
7/10(月)皮膚科にかかり、帯状疱疹だと言われる。塗り薬と飲み薬2種類もらう。このときは触るとピリピリとした痛みを感じる程度。発疹や赤みが顎と首の右側、右後頭部にぽつぽつと。
7/11~ だんだん発疹が広がる。痛みが徐々に強くなっていく。
7/14(金)痛みが強く、歩くのも辛い。ズキンズキンと痛む。皮膚も痛むが神経を直接刺されているような感覚。痛み止めがないと耐えられない痛み。一日中横になっていた。食欲もなく、ゼリー飲料や野菜ジュースでしのぐ。このあとも日に日に痛みが強くなる。発疹は顎と首の右側、右後頭部、右耳。とくに右耳が痛み、真っ赤に腫れ上がっていた。
7/17(月)やや痛みが軽くなる。痛み止めは必須。右耳が聞こえづらくなる。
7/18(火)皮膚科受診。かなり広がってしまったようで驚かれる。右肩にも広がっていた。痛みは触ったときにピリピリする程度になる。水膨れはほぼなくなり、かさぶたのようになる。夜になると頭痛がするようになる。右耳が聞こえづらいため、大きい病院へ紹介状をもらう。
7/19(水)右耳は帯状疱疹のため、軽度の難聴になっていた。薬を飲んで経過観察となった。また音が正常に聞こえるようになるかは分からない。3分の1の人はもう治らないとのこと。
持病の関係で、今後も帯状疱疹を繰り返す可能性があると医師から言われる。もう二度とかかりたくない。父と母には帯状疱疹の辛さを説明し、ワクチンを勧めた。今後は処方された薬を毎日飲み、右耳の聴力が戻るのを待つ。また自分の子どもたちの元気な声を、今までのように聞けますように。
感染症の専門医は…
感染症の専門医で、大阪府済生会中津病院の安井良則医師は「まずは、今回、経験談をお寄せ頂いた方が回復されるよう、痛みが早く引くことを祈っております。どの薬を飲んでいるかにもよりますが、一般に免疫抑制剤を服用していると、帯状疱疹が出やすくなります。骨髄移植などを受けた患者さんも、免疫抑制剤を服用しますが、帯状疱疹などの発症を防ぐため、少量の抗ウイルス薬を継続して服用されている方もいらっしゃいます。
今回のケース、直接、診察をしたわけではないのですが、かなり重いケースで、入院が必要になるレベルです。帯状疱疹は、早期発見・治療が肝要ですが、首から上に症状が現れた場合は危ないと思ってください。首から上は、神経が通っている場所が多く、失明や難聴となる危険性もあります。そこまで至らない場合でも、長期に渡って痛みが続く、帯状疱疹後神経痛と呼ばれる後遺症が残ることもあります。また、髄膜炎になった場合は、重症化して命に関わるケースもあります。薬の服用が始まってからも発疹がひろがったとのことですが、帯状疱疹の薬は、ウイルス量が少ない段階で服用して押さえ込まないと、効果的ではありません。今後、再発の可能性もじゅうぶん考えられますので、帯状疱疹ワクチンの接種を検討してみてください」としています。
どの世代でも注意
帯状疱疹の症例調査「宮崎スタディ」によると、『発年齢別・性別の患者数については、男女とも10代に小さなピークがあり、20~30代でやや下がるが、50代で急上昇し、60代で最も大きなピークがみられた』との結果が出ています。どの世代であっても、発症の可能性はあるので、年齢に関係なく注意が必要です。日本では、帯状疱疹を予防するワクチンが2種類あります。発症したとしても重症になることを予防できる効果と、発症そのものを予防できる効果もあると考えられています。どちらも50歳以上の方が対象となります。
2016年3月に阪大微研が製造する『乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」』について、「50歳以上の者に対する帯状疱疹の予防」に対する「効果・効能」が追加承認されました。接種回数は1回です。また、2018年3月には、帯状疱疹の予防のみを目的としたワクチン(シングリックスⓇ筋注用)が薬事承認されました。接種回数は2回で、接種間隔は1回目から2か月以上あけて、6か月以内に2回目を接種します。帯状疱疹予防としてのワクチンは、任意接種のワクチンとなりますので、接種費用は基本的に自費となります。しかし、自治体によっては一部助成しているところもありますので、お住まいの自治体へお問い合わせください。
参照:帯状疱疹症例調査「宮崎スタディ」
引用:厚生労働省「帯状疱疹ワクチン ファクトシート 平成29(2017)年2月10日 国立感染症研究所」
取材:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏