国立感染症研究所の感染症発生動向調査週報2023年29週(7/17〜23)によると、RSウイルス感染症の患者の定点あたり報告数は2.59。先週の3.16と比較し、およそ18%減少しています。都道府県別にみると、徳島(7.26)・大分(6.03)・福岡(4.87)・三重(5.64)など、依然、高い水準の地域もありますが、全国的にはピークアウトの兆候が見られます。
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感染症の専門医は…
感染症の専門医で、大阪府済生会中津病院の安井良則医師は「まだ油断は禁物ですが、RSウイルス感染症について、西日本は減少局面に入ったと思われます。一方、東日本は、流行の始まりが西日本より遅かったこともあり、下がってくるのはこれからです。今しばらく、注意が必要です。一方、気になるのが、大阪府の小児科医の方々と話したところ、ヒトメタニューモウイルス感染症の患者さんが増えていると耳にします。
ヒトメタニューモウイルス感染症は、RSウイルス感染症と似た呼吸困難などの症状を起こし、高熱が4〜5日間続くと言われています。乳幼児、高齢者などは、呼吸困難になることもあり、酸素投与が必要な肺炎となることも珍しくありません。重症化する場合は、高熱が持続し、息がゼイゼイと呼吸が苦しそうになる呼吸器症状が出ます。ヒトメタニューモウイルス感染症については、定点報告などのサーベイランスが無いため正確な流行状況の把握は、困難です。症状が重くなる乳幼児なども多いことから、流行を把握できる態勢づくりを、国にもお願いしたいところです」としています。
特徴
母体からの移行抗体が消失していく生後6か月頃の乳児より感染が始まり、2歳までにおよそ50%、10歳までにはほぼ全員が感染すると考えられています。小児のみでなく成人(特に高齢者)においても重要なウイルスです。1度の感染では十分な免疫を獲得できず、何度も再感染を繰り返していきます。
感染経路
ヒトメタニューモウイルスは、RSウイルスと同様に感染力が強く、感染経路は飛沫感染と接触感染であるといわれています。ウイルスの量は発熱後1~4日で多く、感染者からのウイルスの排泄は1~2週間持続するといわれています。一方、軽症例では軽い咳や鼻汁程度の症状のため,保育所に通常どおり通っている場合が多く、 幼稚園、保育園など乳幼児の集団生活施設等で効果的な感染対策を行うことは困難であると言わざるを得ません。
予防法と治療
ヒトメタニューモウイルス感染症の予防には、飛沫感染対策としての咳エチケット、接触感染対策の基本である手指衛生が重要です。ヒトメタニューモウイルスの抗ウイルス薬はなく、ワクチンも存在しないため、治療はすべて急性期の症状の重症度に応じた対症療法が基本となります。特に、脱水、呼吸困難、細菌の2次感染に注意が必要です。
取材
大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏