国立感染症研究所の感染症発生動向調査週報2023年27週(7/3〜9)によると、全国の腸管出血性大腸菌感染症の報告数は132。2週連続で100人を超えました。1年を通じて患者は発生していますが、特に初夏から初秋に多く見られます。様々な感染症が新型コロナの流行に伴い減少しましたが、腸管出血性大腸菌感染症はその影響を受けず、毎年患者が発生しています。
腸管出血性大腸菌感染症とは?
大腸菌は家畜やヒトの腸内にも存在しますが、ほとんどのものは無害です。しかし、ヒトに下痢等の消化器症状や合併症を起こす「病原大腸菌」が存在します。その中でも、毒素を生み出し、出血を伴う腸炎や溶血性尿毒症症候群を引き起こす大腸菌は「腸管出血性大腸菌」と呼ばれています。代表的なものとしてO157、O26、O111などがあります。症状としては、全く症状がないものから軽い腹痛や下痢のみで終わるもの、さらには頻回の水様便、激しい腹痛、著しい血便とともに重篤な合併症を起こし、時には死に至るものまで様々ですが、多くの場合はおおよそ3〜8日の潜伏期をおいて頻回の水様便で発病。さらに激しい腹痛を伴い、まもなく著しい血便となることがあります。これが出血性大腸炎です。発熱はあっても一過性です。
重症化の可能性も・・・
しかし、重症化する可能性もあります。上記の症状がある方の6〜7%が、下痢等の初発症状の数日から2週間以内(多くは5〜7日後)に溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症等の重症合併症を発症すると言われています。激しい腹痛と血便がある場合には、特に注意が必要です。
感染症に詳しい医師は・・・
感染症の専門医で、大阪府済生会中津病院の安井良則医師は、「腸管出血性大腸菌感染症は、いわゆる食中毒で、病原大腸菌が繁殖した食品を食べることなどで感染します。初夏から初秋にかけて流行するのは、細菌が増えるのに適した気温であることが主な要因です。食中毒は飲食店でも家庭でも起こる可能性があるので、食品の管理などに注意していただきたいと思います。また意外ですが、ふれあい動物園で、ヒツジ・牛などから感染することもあります。動物を触ったあとは、手指衛生をこころがけてください」としています。
腸管出血性大腸菌はどこからうつるの?
腸管出血性大腸菌O157の感染事例の原因食品等と特定あるいは推定されたものは、国内では井戸水、牛肉、牛レバー刺し、ハンバーグ、牛角切りステーキ、牛タタキ、ローストビーフ、シカ肉、サラダ、貝割れ大根、キャベツ、メロン、白菜漬け、日本そば、シーフードソースなどです。腸管出血性大腸菌は様々な食品や食材から見つかっているので、食品の洗浄や加熱等、衛生的な取り扱いが大切です。
家庭での予防法は?
腸管出血性大腸菌は、加熱や消毒薬により死滅します。通常の食中毒対策を確実に実施することで十分に予防が可能です。家庭での予防の主な注意点は次の通りです。
・肉、魚、野菜等の生鮮食品は新鮮なものを購入する。
・冷蔵や冷凍の必要な食品は、持ち帰ったらすぐに冷蔵庫や冷凍庫に入れる。
・冷蔵庫は10℃以下に、冷凍庫はマイナス15℃以下に。
・食品を取り扱う時は、その前後に必ず手を洗う。
・調理前の食品は室温に長く放置しない。
・加熱して調理する食品は十分に加熱する。目安は中心部の温度が75℃で1分以上加熱。
・残った食品はきれいな器具、皿を使って保存。
・温め直す時も十分に加熱する。目安は75℃以上。味噌汁やスープは沸騰させる。
・ちょっとでも怪しいと思ったら、食べずに捨てる。決して口に入れない。
乳幼児や高齢者の腸管出血性大腸菌感染症は症状が重くなりやすく、死亡率も高いので、これらの年齢層の方々には、加熱が十分でない食肉などを食べさせないようにした方が安全です。もし、お腹が痛くなったり、下痢をしたり、気持ち悪くなったりしたら、早めに医療機関に相談しましょう。
引用
国立感染症研究所:感染症発生動向調査週報2023年27週(7/3〜9)、
厚生労働省:腸管出血性大腸菌Q&A
取材
大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏