厚生労働省が7月7日に発表した令和5年第26週(6/26〜7/2)の「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況等について」によると、全国の定点当たり報告数は7.24。前週より約20パーセント増加しています。5月8日から感染症法上の位置付けが5類感染症になり、発生動向の発表方法が変わりましたが、変更後初めて定点当たり報告数が発表された第19週(5/8〜14)以来、7週連続して増加しています。特に沖縄では、第25週の定点当たり報告数は48.39。この1週間に、一つの医療機関から50人近くの新型コロナウイルス感染症の患者が出たことになります。
感染症に詳しい医師は・・・
感染症に詳しい、大阪府済生会中津病院の安井良則医師は、「現在流行しているXBB.系統の変異株の特徴は、感染やワクチンによって免疫を獲得していても、それをすり抜けて感染する能力が高いということです。以前に新型コロナウイルス感染症に感染したことがあっても、またワクチンを接種していても感染する可能性があるということが、感染拡大の一因になっているのではないかとみています。梅雨があけると、気温が高く、湿気が少なくなり、新型コロナウイルスが広がりやすい環境になるので、ますます新型コロナの感染者が増えていくのではないかと予測しています」と語っています。
院内感染も発生
安井医師は、現在勤務している病院の状況をこう語っています。
「当院でも新型コロナの入院患者は増加していて、毎日新たに入院する方がいらっしゃる状況です。多くは高齢の方ですが、基礎疾患がある40〜60歳代の方もいます。また、小児科では院内感染が発生し、看護師が相次いで感染しました。5類感染症になってマスクをする方が少なくなったり、行動制限がなくなったり、海外からの旅行客が増えたり、新型コロナの感染が拡大する要素は増しています。感染者が増え、院内感染などクラスターが発生すると、医療機関の負担が増大し、医療崩壊など様々な影響が出るのではないかと懸念しています」
医療崩壊とは・・・
「医療崩壊」とは明確な定義はありませんが、救急医療や手術を始めとする「本来あるべき医療ができない」「本来受けられるべき医療が受けられない」状況を指します。新型コロナウイルス感染症の患者の入院が増えれば、ベッド数が不足し、治療が必要な他の病気の方の入院や手術ができなくなるかもしれません。また、病院内で院内感染が起き、医師や医療スタッフなどにクラスターが発生すれば、医療の提供自体が難しくなります。新型コロナの流行拡大は、医療全体に影響を及ぼす可能性があるのです。
医療関係者にも気の緩み?
安井医師は、「新型コロナが流行して以来、病院ではマスクや手指衛生の徹底、面会者を断るなど、厳しい感染対策をしてきましたが、5類感染症になってから、その体制が少し緩んでいるのではないかと思っています。院内感染にしても、実は患者さんからではなく、付き添いや面会者から感染が広がるケースもあります。今後、院内のクラスター発生の可能性を少しでも減らし、患者や医療従事者をウイルスから守り、医療崩壊を招かないためにも、今一度、医療機関での感染対策を徹底させる必要があると思います」としています。
医療機関での感染対策は?
安井医師は従事している病院内では、スタッフに対して次のルールを設けています。
1.病院内においては必ずマスクを装着し、マスクを外して食事をする際には黙って食事をする。
2.N95マスクを活用し、入院病棟・外来等においては以下の場面においては積極的に着用する。
・エアロゾルが発生する処置(吸引、気管内挿管・抜管、ネブライザー、HFNC、内視鏡検査など)
・患者のマスクを外す処置(食事や内服の介助、口腔ケア等)
・マスク装着の協力が得られない患者への対応
・面談室等の狭い密閉空間での患者や家族への説明
・双方マスク装着下であっても、15分以上の処置や継続的な会話が行われる場合(スタッフ同士も含めて)
去年は7月に第7波が発生し、急激に患者が増加しました。今年もその可能性が懸念される中、医療崩壊を招かないためにも、感染対策を今一度徹底必要があります。
引用
厚生労働省:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況等について(2023年7月7日)
取材
大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏