国立感染症研究所の感染症発生動向調査週報2023年19週(5/8〜14) 速報データによると、この1週間の梅毒の感染者報告数は全国で218人。今年の累積報告数は5164人となりました。去年のこの時期(2022年19週)の累積報告数と比較すると、約1.42倍に増加しており、流行の拡大傾向は続いています。年齢別では男性が20〜50代、女性では20代が多くを占めています。
報告数の多い都道府県は?
また、今年の累積報告数の多い都道府県は、東京都1332人、大阪府699人、北海道305人、愛知県291人、福岡県257人、神奈川県229人と大都市圏が多く、埼玉、千葉、静岡、兵庫、広島でも100人を超えています。
梅毒とはどのような感染症?
梅毒とは、梅毒トレポネーマという病原体により引き起こされる感染症で、主にセックスなどの性的接触により、口や性器などの粘膜や皮膚から感染します。オーラルセックス(口腔性交)やアナルセックス(肛門性交)などでも感染します。また、一度治っても再び感染することがあります。
梅毒に感染すると?
梅毒に感染すると数週間後に、主に口の中や肛門、性器などにしこりや潰瘍ができることがあります。これらの症状は痛みが伴わないことが多く、治療しなくても自然に治ります。しかし、その間にも病気が進行する場合があります。
感染から3か月程度すると、今度は手のひら、足の裏、体幹部などに淡い赤色の発しんがでます。小さなバラの花に似ていることから「バラ疹(しん)」とも呼ばれますが、この時にはすでに梅毒の原因である梅毒トレポネーマが全身に広がっています。しかしこの症状も数週間以内に自然に消えますが、治ったわけではありません。他にも肝臓や腎臓など、全身の臓器にさまざまな症状を呈することがあります。
そして、感染後数年後には、ゴム腫と呼ばれるゴムのような腫瘤が皮膚や、筋肉、骨などに出現し、周囲の組織を破壊してしまうことがあります。また、大動脈瘤などが生じる心血管梅毒や、精神症状・認知機能の低下などを伴う進行麻痺、歩行障害などを伴う脊髄癆(せきずいろう)がみられることもあります。
感染症の専門医は・・・
感染症の専門医で、大阪府済生会中津病院の安井良則医師は、「梅毒の感染者は去年(2022年)ついに報告数が1万人を超えましたが、今年はさらに上回るペースで増えています。梅毒は症状がない時期があるので、症状がおさまると治ったと思われる方もいると思います。しかし、治療をしなければ、症状は更に重くなります。梅毒はペニシリン系などの抗菌薬が有効ですし、早期であれば1回の注射で治療できる薬もありますので、心配な方はまず保健所等で相談、検査をしていただければと思います」と語っています。
妊娠中に梅毒に感染すると、おなかの赤ちゃんにも感染し、先天梅毒になる可能性も!
妊娠中の女性が梅毒に感染すると、胎盤を介して胎児が梅毒トレポネーマに感染し、流産、死産、先天梅毒を起こす可能性があります。先天梅毒には、生後まもなく皮膚病変、肝脾腫、骨軟骨炎などを認める早期先天梅毒と、乳幼児期は症状を示さず、学童期以降に実質性角膜炎、感音性難聴、ハッチンソン歯などを呈する晩期先天梅毒があります。
先天梅毒を防ぐためには、早期発見・早期治療が重要
妊娠をすると妊婦健診がありますが、血液検査には、梅毒の検査が含まれます。妊娠早期に梅毒の感染がわかった場合、治療により母体の健康とともに、おなかの赤ちゃんが先天梅毒になることを予防することができます。
安井医師は、「妊婦健診を受けていただければ、妊婦さんが梅毒に感染しているかどうかわかるのですが、様々な事情で受けていない方もいらっしゃいます。流産や死産、そして先天梅毒を防ぐためにも、早めに検診を受けてほしいと思います」と語っています。
引用
国立感染症研究所 感染症発生動向調査週報 2023年19週(5月8日〜14日) 、IDWR2022年第42号〈注意すべき感染症〉梅毒、妊娠梅毒の治療
厚生労働省HP:梅毒、梅毒に関するQ&A
取材
大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏