国立感染症研究所の感染症発生動向調査週報2023年13週(3/27〜4/2)によると、RSウイルス感染症の患者の定点あたりの報告数は0.48。前週よりも0.06ポイント増加しました。都道府県別では、北海道、富山、大阪、佐賀、長崎、宮崎、鹿児島で1を超えています。
感染症の専門医は・・・
感染症の専門医で、大阪府済生会中津病院の安井良則医師は、「RSウイルス感染症の流行は依然として拡大傾向で、要注意だと思っています。気になるのは九州地方と近畿地方で、特に人口の多い大阪、京都、兵庫で患者数が増えています。また、九州と近畿に挟まれた広島と岡山の患者数はともに前週の2倍となっており、流行の始まった地域から、その他の地域への拡大が懸念されます。RSウイルス感染症は生涯に何度も感染しますが、感染経験の少ない乳幼児ほど症状が重くなります。一昨年(2021年)に大きな流行がありましたが、今年の患者数の上昇の仕方は一昨年とよく似ています。RSウイルス感染症の流行は急に拡大するということはありませんが、これから夏に向けて徐々に増えていくのでないかと予測しています」と語っています。
RSウイルス感染症とは?
RSウイルス感染症の症状は、軽い風邪のような症状から、重症の細気管支炎や肺炎など様々です。RSウイルスは世界中に存在するウイルスで、生まれてから1年以内に50〜70%が罹患し、3歳までにすべての子どもが抗体を獲得します。それからも何度も感染しますが、重症になることは少ないとされています。
潜伏期は2〜8日、典型的には4〜6日とされていて、発熱、鼻汁などの上気道炎症状が続き、その後下気道(気管、気管支、肺など)に症状が現れます。また、38〜39℃の発熱が起こることもあります。肺炎や細気管支炎など症状が重くなるのはほとんどの場合は3歳以下で、入院事例のピークは生後2〜5か月とされています。
家族から感染?感染経路は・・・
RSウイルス感染症は感染している人の咳やくしゃみ、または会話した際に飛散る飛沫を浴びて吸い込む飛沫感染や、感染している人との直接の濃厚接触、ウイルスが付いている手指や物品(ドアノブ、手すり、スイッチ、机、椅子、おもちゃ、コップなど)を触ったりなめたりすることによる間接的な接触感染で感染します。
RSウイルスは特に家族内で感染することが知られており、乳幼児と、より年長の小児のいる家族の場合には、流行期間中に家族の44%が感染したとする報告もあります。保育園や幼稚園、小学校などに通っている年長の子どもが感染し、乳幼児にうつしてしまう。また、親や家族が外出先で感染し、無症状のまま乳幼児にうつしてしまうということがあります。RSウイルス感染症が流行している地域に住んでいる、あるいは出張や旅行などで流行している地域に行く場合には、感染のリスクがあるということを認識しておく必要があります。
予防はむずかしいけれど・・・
現在、RSウイルス感染症を予防するワクチンはありません。また特効薬もなく、基本的には症状を和らげる対症療法が行われます。ですので、日々の生活の中での感染対策が重要になります。特に、重症化するおそれのある乳幼児、高齢者、免疫不全など基礎疾患のある方などが近くにいる場合は、徹底した感染対策が必要です。
咳やくしゃみなど少しでもかぜのような症状がある場合は、可能な限り0歳児、1歳児との接触を避けることが、感染予防になります。どうしても接触しなければならない場合は、マスクの着用を心がけてください。また、接触感染対策としては、子どもたちが日常に触れるもの、場所などをこまめにアルコールや塩素系の消毒剤等で消毒し、流水・石鹸による手洗いか、アルコール製剤による手指衛生を行ってください。
RSウイルスは、乳幼児の突然死の原因にも!
安井医師は、「RSウイルス感染症がこわいのは、乳幼児の命に関わる感染症だからです。RSウイルス感染症は急激に症状が悪化することがあるので、少しでもゼイゼイ・ヒューヒューという喘鳴があるのならば、かかりつけの病院を受診し、その後も医師の指示に従い目を離さないようにしてください。突然死につながる無呼吸発作が起こることもありますので、保護者の方は軽く考えないで、お子さんに向き合っていただければと思います」としています。
引用
国立感染症研究所:感染症発生動向調査週報2023年13週(3/27〜4/2)、RSウイルス感染症とは
厚生労働省HP:RSウイルス感染症Q&A
取材
大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏