国立感染症研究所の感染症発生動向調査週報2023年11週(3/13〜19)によると、RSウイルス感染症の患者の定点あたりの報告数は0.39。前週よりも0.04ポイント増加しました。都道府県別では、北海道の2.11をはじめ、佐賀、熊本、鹿児島で1を超えています。
感染症の専門医は・・・
感染症の専門医で、大阪府済生会中津病院の安井良則医師は、「データを見ると、大阪をはじめ、京都、兵庫でもRSウイルス感染症の報告数が増加していて、九州と近畿から全国へと流行が広がっていくのではないかと懸念しています。大阪市内では、RSウイルス感染症で、2歳以下のお子さんがする入院する例も耳にしています。まだ本格的な流行というわけではありませんが、すでに流行期に入っていると言っていいと思います。乳幼児にとっては命に関わる感染症ですので、小さなお子さんがいらっしゃるご家庭は注意が必要です」としています。
RSウイルス感染症とは?
RSウイルス感染症は、RS(Respiratory syncytial)ウイルスによる呼吸器の感染症です。RSウイルスは地理的あるいは気候的な偏りはなく、世界中に存在しています。日本ではかつては冬(11〜1月)に流行のピークがありましたが、近年は夏(7〜8月)に患者数が多くなっています。一昨年(2021年)も7月をピークとする大きな流行がありました。症状としては軽い風邪のような症状から重い肺炎まで様々です。
乳幼児、特に生後6か月以内の赤ちゃんの重症化リスクが高い
しかし乳幼児にとってはインパクトの大きな感染症です。新生児は普通、母親から移行抗体をもらうため、感染症にかかりにくいとされていますが、RSウイルスは抗体があるにもかかわらず、感染防御ができずに感染してしまいます。生後6か月以内で最も重症化するとされていて、この時期に感染すると、細気管支炎、肺炎といった重篤な症状を引き起こすことがあります。また、生後1か月未満の赤ちゃんがRSウイルスに感染した場合は、症状がわかりにくく診断が困難で、突然死につながる無呼吸発作を起こすことがあります。
高齢者施設での集団発生例も
またRSウイルス感染症は、心肺系に基礎疾患がある方や免疫不全のある方にとっては、重症化リスクが高いとされています。
安井医師は、「RSウイルス感染症のデータは主に小児科での患者報告数が元になっているので数字としては現れにくいですが、大人や高齢者が感染していないわけではありません。RSウイルスは高齢者にとってもリスクが高い感染症で、これまでにも高齢者施設で呼吸器症状の疾患が集団発生して、調べてみるとRSウイルスに集団感染していたという事例が複数報告されています」と語っています。
高齢者においては、RSウイルスの感染はインフルエンザと同等の致命率を示すことがあり、集中治療室への入室が必要な肺炎症例など、重症化例が多いとされています。また慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、慢性心疾患、重度の免疫不全状態の方などは、重症化の可能性が高いとされています。
軽いかぜのような症状や、無症状の大人から感染が広がることも
RSウイルスは生後1歳までに半数が、2歳までにほぼ100%の子どもが少なくとも1度は感染するとされています。その後も生涯にわたって感染しますが、通常は風邪のような症状で、軽いことがほとんどです。
安井医師は、「RSウイルスは咳やくしゃみ、あるいは会話の際に飛び散るしぶきなどで、感染が広がります。そして出張や旅行などでの人の移動が、RSウイルスを運んでいきます。例えば、感染したお父さんが新幹線や飛行機で出張したとすると、その出張先で会った人たちにRSウイルスをうつして広がっていくというケースが考えられます。RSウイルスは予防が難しい感染症ですが、風邪のような症状があるときにはマスクをして、ほかの人にうつさないようにする。そして手洗いなどの手指衛生を心がける。これは、新型コロナウイルス感染症などの予防にも共通するものですので、ぜひ実践していただきたいと思います」としています。
引用
国立感染症研究所:感染症発生動向調査週報2023年11週(3/13〜19)、IASR「介護老人保健施設におけるヒトRSウイルスの集団感染事例(2018年)」
厚生労働省HP:RSウイルス感染症Q&A
取材
大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏