新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)。
大半のケースは、時間の経過とともに改善すると考えられています。
一方、罹患後症状が長期間にわたって続くことにより、社会生活に大きな影響を及ぼすことがあります。
シリーズ2回目となる今回、コロナ後遺症の診察にあたる広島市立広島市民病院の松村俊二総合診療科部長に、現場について語っていただきました。
つらいのは周りの無理解
Q診察現場で印象に残っていることはなんですか?
A患者さんを見ていて一番つらいのは、後遺症のせいで仕事に出られず職を失い、何とか元気になってまた働けるようになりたいという方が来られた時です。
後遺症の症状として37〜38℃の微熱が続いたり、倦怠感で起き上がれなくなったりして、職場や学校に行けなくなる患者さんがいます。でも、後遺症というのは、見た目は健康な時と変わらないし、CT検査や血液検査をしても異常が見つからないことが多いので、周囲の人にはとても分かりにくいんです。「気のせいじゃないの」とか「サボっているんじゃないか」など心ないことを言われることもあり、周囲の無理解は当人にとって厳しいものです。
学生さんだったら、当然、熱があれば授業には出られませんし、強い倦怠感のため学校を早退したり休んだりしなければならないこともあります。紹介で当院を受診した高校生の患者さんの中には、早退・欠席が続くため、学校側から退学を勧められたケースがありました。「後遺症で発熱が続いている」ということを明記した診断書を出し、何とか退学は免れましたが、悪いことをしたわけでもない学生が退学させられるなんて、あってはならないことです。
給食が「ガソリンの味」
小学生の場合だと味覚・嗅覚障害で給食が食べられなくなることがあるんです。「何を食べてもガソリンの味がする」というような症状が出て、みんなと一緒の給食が食べられない。それで先生に怒られるんです。
本人が果物だったら食べられる、と訴えても「特別扱いはできない」と言われてしまい、その児童は授業が始まっても、一人だけずっと食べさせられるんです。これは小学生にとってかなりつらいことです。もし果物とか、お母さんのおにぎりとか、食べられるものがあったら持っていけるように、校長先生にお願いの手紙を書いたりします。
イジメも起こります。後遺症による体調不良でクラブ活動を休んでいたら「治っているはずなのにサボっている」といじめが起こった例もありました。後遺症の患者さんは体もつらいけれど、心もかなりつらい状態になられます。
労災の相談に乗ることも
Q社会人の方はどうですか?
A職場内で、明らかに仕事中にコロナにかかったのであれば労災が認められるんですが、職場の担当者が、その制度を知らないこともあります。「労災を申請したら職場に迷惑がかかりませんか」と心配する方には「当然の権利ですから大丈夫ですよ」と説明します。
また、非正規雇用の方では、職場の規定にもよりますが、傷病手当も支給されないケースが多いです。職を失ったらたちまち生活に困ります。元の職場からハローワークの利用の仕方や、自己都合退職と会社都合退職の差など、退職にかかわる制度について説明を受けていない方も多く見られます。
私はそういう患者さんが来られたら制度や手続きについて調べ、患者さんの代わりに「こういう方がいるので電話をかけさせていいですか」と労働基準監督署に連絡もすることもあります。そこまで医者の仕事なのかと言われるかもしれませんが、私たちがやらないとたちまち患者さんやその家族が困りますから。
まとめ
コロナ後遺症は、労働問題・教育問題・家庭での生活などにも影響を及ぼしています。
松村医師は、医療的ケアのみならず、社会的なケアも行っている状況です。
厚生労働省によると、罹患後症状(後遺症)の代表例として、疲労感・倦怠感、関節痛、筋肉痛、咳、喀痰、息切れ、胸痛、脱毛、記憶障害、集中力低下、頭痛、抑うつ、嗅覚障害、味覚障害、動悸、下痢、腹痛、睡眠障害、筋力低下などが挙げられています。
しかし、未だ不明な点も多くあります。
大切なのは、後遺症とみられる症状で長期にわたり苦しんでいる方がいると言う現実を周囲が正しく理解することではないでしょうか。
「感染症・予防接種ナビ」では、医師との研究活動の一環として、コロナ後遺症の経験談を募集しています。
また、コロナ後遺症について詳しく知りたい方は、広島県医師会が2022年9月に発行した「救急小冊子 知っておきたい新型コロナウイルス感染症の後遺症」をご覧下さい。
取材:広島市立広島市民病院 松村俊二総合診療科部長
参照:救急小冊子 知っておきたい新型コロナウイルス感染症の後遺症(広島県医師会)