【感染症ニュース】下痢止めは飲まない方がいい? カンピロバクター感染症で下痢・発熱「飲んでしまったので怖い…」
2022年10月14日更新
半年以上前に更新された記事です。

肉はじゅうぶんな加熱を
肉はじゅうぶんな加熱を
 一般に、細菌性食中毒の発生は、気温と湿度が高くなる夏場に多いとされます。

 一方で、カンピロバクター感染症は、年間を通して、発生が報告されており、注意が必要な感染症です。

 主な感染経路は、食べ物からと考えられており、じゅうぶんな加熱のなされていない肉などを食べることにより感染します。

 また、厚生労働省によると、カンピロバクター感染症による症状は、「下痢」の発生頻度が高いとされています。

 「感染症・予防接種ナビ」にも、カンピロバクター感染症の経験談が寄せられていますが、今回は、長引く「下痢」の辛さからか、「下痢止め」の薬を服用してしまった方からの経験談です。

大阪府・18歳

 生レバ刺しを食べて3日後に発症。

 1日目、倦怠感と発熱38℃、悪寒で1日寝込む。

 2日目、午前から下痢がひどく30分に一回トイレに、熱はなかったが夜になると熱がまた出て38℃あまり寝れなくなる。

 3日目、PCRを受けたが陰性、熱は39.3℃になり、下痢と頭痛がしんどい。

 4日目、朝方下痢が酷すぎて病院に行き、整腸剤をもらいそこから少しずつ下痢が改善、熱はなし。

 5日目、下痢は続くがそれ以外は異常なし。一度『下痢止め』を飲んでしまったので、怖いです。

感染症の専門医は…

 一般に食中毒の場合は、「下痢止め」の薬を服用しない方がいいと耳にします。

 その理由について、感染症の専門医で大阪府済生会中津病院の安井良則医師は「カンピロバクター感染症のほか、ノロウイルス感染症など感染性胃腸炎や腸管出血性大腸菌感染症の場合、下痢症状を伴う事があります。下痢は、腸管内の病原微生物などを、体外に排出しようとする、人間の生理的な運動であるため、下痢止めの服用は、控えたほうがいいでしょう。腸内に、病原微生物がとどまることで、後々、症状が悪化する場合もあります。一方、下痢症状の場合は、体内の水分が減るため、適切な水分補給が大切です。また、細菌やウイルスに感染した場合の発熱症状も、体の防御反応のひとつです、高熱が出た場合は、体力の消耗を防ぐため、解熱剤を服用することは問題無いですが、『熱が出そう』だからとの理由で、事前に服用することは、すすめられません。処方された薬は、適切なタイミングで服用してください」としています。

まとめ

 細菌やウイルスに感染した場合、わたしたちの身体は、様々な防御反応を示します。

 病原微生物を体外に排出する生理的な運動は、できるだけ阻害しないようにした方がいいのかもしれません。

 「感染症・予防接種ナビ」では、皆様からの様々な経験談を募集しています。

感染経路

 食中毒集団発生で原因食品が判明した事例では、肉類が最も多く、大半は鶏肉およびその内臓肉です。一方、牛レバーの生食による例も見られます。しかし実際の食中毒事例では、少数菌でも感染が成立すること、潜伏期間が比較的長いこと、通常大気中では死滅しやすいことなどの理由から感染源の特定は極めて困難です。

 その他に、ペットからや、乳幼児収容施設での流行など、ヒト‐ヒト感染、井戸水、湧水および簡易水道水を感染源とした水系感染事例もあります。海外での旅行者下痢症の原因ともなります。

症状

 主な症状は胃腸炎で、潜伏期間が2~5日間と他の胃腸炎よりやや長いことが特徴です。汚染食品中ではあまり菌が増殖せず、かつ少量の菌数でも発症するため、潜伏期間が長くなるのは摂取菌数の差によると考えられています。

 症状は下痢、腹痛、発熱、悪心、嘔吐、頭痛、悪寒、倦怠感などであり、他の感染型細菌性食中毒と酷似していますが、カンピロバクターは1日最高便回数が多く、血便を伴う比率も高いことが特徴です。発熱を伴うことが多く、改善病日でみるとカンピロバクターはサルモネラと比較して早く回復します。

 胃腸炎の局所合併症として胆嚢炎、膵炎腹膜炎などがあります。まれですが腸管外感染として菌血症、髄膜炎などがあります。

予後

 一般的な予後は、一部の免疫不全患者を除いて死亡例も無く、良好な経過をとります。しかし、近年感染後1~3週間(中位数:10日間)を経てギラン・バレー症候群(GBS)を発症する事例が知られてきました。GBSの罹患率は諸外国でのデータでは、人口10万人当たり1~2人とされています。日本での発生状況については報告システムがなく実数は不明ですが、年間2,000人前後の患者発生があるものと推定されています。カンピロバクター感染症に後発するGBSはこれまで散発例として確認されてきましたが、1999年12月東京都において、カンピロバクター集団食中毒患者19名中、1名のGBS患者の発生が確認されました。

治療

 一部の免疫不全者を除き予後は良好で、軽症例では抗菌薬治療なしでも自然に軽快することも多くあります。急性腹症、他の原因による急性胃腸炎、食中毒などと見分けながら食事療法、脱水の予防・治療などを行います。整腸剤は投与しますが、腸管蠕動(ぜんどう)を抑制するような薬剤は使用しないのが原則です。

 感染性は下痢急性期に高く、2~3週間排菌が持続しますが、有効な抗菌薬が投与されると排菌期間が短縮され、2~3日で感染性が失われます。

予防

 カンピロバクターは、低温環境下で、より長時間生存できるため、冷蔵庫を過信してはいけません。加熱には弱いので、食品の正しい加熱調理に努めるとともに、調理などの過程で他の生鮮食品や調理器具の汚染に注意しましょう。鶏肉などを取り扱う場合は調理する人の手洗い、まな板などの調理器具を清潔に保ちましょう。特に乳幼児には鶏刺し、砂ずり刺し、牛レバー刺しなどの生食はさせないようにすることが重要です。

 食中毒が疑われる場合には、24時間以内に最寄りの保健所に届け出ましょう。

引用:国立感染症研究所「カンピロバクター感染症とは」
取材:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏

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