10月に入り、暑さもやわらぎ、過ごしやすい季節となりました。
しかし、「食中毒」については、引き続き、注意が必要です。
一般に、細菌性の食中毒は、夏に増えますが、10月末まで警報を出して、食中毒への注意を呼び掛けている自治体もあります。
厚生労働省によると、日本における細菌性食中毒の中で近年、もっとも多く報告されているのが、カンピロバクターを原因とする食中毒です。
主な原因と推定される食品、または感染源として、生の状態や加熱不足の鶏肉、調理中の取り扱い不備による二次汚染などがあげられています。
「感染症・予防接種ナビ」にも、カンピロバクター感染症と診断された方から、経験談が寄せられています。
熊本県・30歳・はまみさんの経験談
9/23(金)
居酒屋でささみなど数本とレバー刺食べる。
9/24(土)、25(日)、26(月)
通常通りの日常が送れる。
9/27(火)
深夜、勤務中に突然悪寒が始まる。同時におなかに違和感がある。ここですぐにレバ刺しを食べたことに気づき猛反省するも時すでに遅し。経口補水液がものすごく美味しく感じがぶ飲みしてしまう。それと共に下痢との長い戦いもスタート。トイレに行くたびに経口補水液をがぶ飲みし脱水を防ぎながら菌を洗い流す作戦で応戦。熱に対してはもうこれ以上上がらないってところでアセトアミノフェン400mg内服し難なく解熱。途中コロナ抗原検査行い陰性を確認。朝、自宅に帰ってからもひたすら経口補水液を飲んでトイレに行くを繰り返す。日中にかけて再び38度台まで熱が上がる。自然に解熱するのを耐える。この時は発熱が辛すぎてお腹の痛みなんて気にならなかった。トイレは10回以上行ったと思う。もちろん下痢。
9/28(水)
熱も下がりすっきり起きれる。起き上がった途端頭痛が始まりアセトアミノフェン400mg内服する。昼うどんとご飯を食べる。まだトイレとはお友達状態。夕方出勤し、トイレに行くと血便が出てることに気づく。嘘だと思い1度スルーしたが再びトイレに行った際にもやはり血便。そしてまた悪寒が始まる。体温測り38.2度。アセトアミノフェン400mg内服してやりすごす。
9/29(木)
倦怠感で布団の上から動く気にならない。発熱はなし。昼はうどんとご飯を食べる。血便はおさまりつつあったが前日に血便が出たこともあり、午後胃腸科を受診。血液検査行いCRPが4(正常値は0.3以下)まで上昇。エコーでは腸管の浮腫。食歴通り食あたりで間違いないだろうと。普通の体型、基礎疾患がない方には何も処方はないですとのことで処方はなし。脱水を補う点滴のみしてもらい帰宅。
9/30(金)
発熱はなし。これまでの発熱で全然気にならなかった突き刺すようなお腹の痛みが目立つようになる。1時間に2回ほどの波のある痛みに悶え苦しみ1日を布団で過ごす。昼はオムライスを食べることができた。トイレは5回ほど。血便は改善。
10/1(土)
勤務中も冷や汗が出るほどの突き刺すような腹痛の波があるもののなんとか勤務できる。この日のトイレは1回。
10/2(日)
深夜からの勤務で腹痛はあるものの通常どおり勤務はできる。これまでにトイレ3回。ようやく治りかけている現状に嬉しさ噛み締め働くことに感謝ができるほどにまで回復。
何度かこのような感染性胃腸炎になったことはありますが、原因が特定できるのは初めてで悔しさしかありません。あの日の自分をぶん殴りたいです。そしてもう生の鶏を食べることはないでしょう。
感染症の専門医は…
感染症の専門医で大阪府済生会中津病院の安井良則医師は、「カンピロバクターによる、食中毒の報告例は夏場が多いですが、年間を通して発生しています。診断については、何を食べたかが判断の目安となります。主な原因とされる鶏肉を生や半生、加熱不足の状態で食べるのは、感染のおそれがあるため、危険です。また、症状が回復した後、しばらくして『ギラン・バレー症候群』を発症することもあります。ギラン・バレー症候群にかかると、手足のしびれや麻痺が起こります。ある日、脚からしびれ、突然、立てなくなるケースが多いです。私は、絶対に食べません」としています。
まとめ
今回も、自責の念がこもった経験談でした。
厚生労働省では、飲食店向けにリーフレットを作成し、鶏肉が「新鮮だから安全」ではないことを強調しています。生や半生、加熱不足の鶏肉料理がカンピロバクター食中毒を引き起こすおそれがあるとして、注意するよう呼びかけています。
家庭でも、鶏肉の生食は避け、調理の際は中心部までしっかり加熱するよう、気をつけましょう。
感染経路
食中毒集団発生で原因食品が判明した事例では、肉類が最も多く、大半は鶏肉およびその内臓肉です。一方、牛レバーの生食による例も見られます。しかし実際の食中毒事例では、少数菌でも感染が成立すること、潜伏期間が比較的長いこと、通常大気中では死滅しやすいことなどの理由から感染源の特定は極めて困難です。
その他に、ペットからや、乳幼児収容施設での流行など、ヒト‐ヒト感染、井戸水、湧水および簡易水道水を感染源とした水系感染事例もあります。海外での旅行者下痢症の原因ともなります。
症状
主な症状は胃腸炎で、潜伏期間が2~5日間と他の胃腸炎よりやや長いことが特徴です。汚染食品中ではあまり菌が増殖せず、かつ少量の菌数でも発症するため、潜伏期間が長くなるのは摂取菌数の差によると考えられています。
症状は下痢、腹痛、発熱、悪心、嘔吐、頭痛、悪寒、倦怠感などであり、他の感染型細菌性食中毒と酷似していますが、カンピロバクターは1日最高便回数が多く、血便を伴う比率も高いことが特徴です。発熱を伴うことが多く、改善病日でみるとカンピロバクターはサルモネラと比較して早く回復します。
胃腸炎の局所合併症として胆嚢炎、膵炎腹膜炎などがあります。まれですが腸管外感染として菌血症、髄膜炎などがあります。
予後
一般的な予後は、一部の免疫不全患者を除いて死亡例も無く、良好な経過をとります。しかし、近年感染後1~3週間(中位数:10日間)を経てギラン・バレー症候群(GBS)を発症する事例が知られてきました。GBSの罹患率は諸外国でのデータでは、人口10万人当たり1~2人とされています。日本での発生状況については報告システムがなく実数は不明ですが、年間2,000人前後の患者発生があるものと推定されています。カンピロバクター感染症に後発するGBSはこれまで散発例として確認されてきましたが、1999年12月東京都において、カンピロバクター集団食中毒患者19名中、1名のGBS患者の発生が確認されました。
治療
一部の免疫不全者を除き予後は良好で、軽症例では抗菌薬治療なしでも自然に軽快することも多くあります。急性腹症、他の原因による急性胃腸炎、食中毒などと見分けながら食事療法、脱水の予防・治療などを行います。整腸剤は投与しますが、腸管蠕動(ぜんどう)を抑制するような薬剤は使用しないのが原則です。
感染性は下痢急性期に高く、2~3週間排菌が持続しますが、有効な抗菌薬が投与されると排菌期間が短縮され、2~3日で感染性が失われます。
予防
カンピロバクターは、低温環境下で、より長時間生存できるため、冷蔵庫を過信してはいけません。加熱には弱いので、食品の正しい加熱調理に努めるとともに、調理などの過程で他の生鮮食品や調理器具の汚染に注意しましょう。鶏肉などを取り扱う場合は調理する人の手洗い、まな板などの調理器具を清潔に保ちましょう。特に乳幼児には鶏刺し、砂ずり刺し、牛レバー刺しなどの生食はさせないようにすることが重要です。
食中毒が疑われる場合には、24時間以内に最寄りの保健所に届け出ましょう。
引用:国立感染症研究所ホームページ「カンピロバクター感染症とは」
取材:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏