手足口病は、口腔粘膜及び手や足にあらわれる水疱性の発疹を特徴とした急性のウイルス性感染症です。
ヘルパンギーナと合わせ、乳幼児を中心に夏季に流行する、「夏かぜ」の代表的疾患です。
手足口病の原因となるウイルスはエンテロウイルス属と呼ばれているウイルスの仲間であり、その中でもコクサッキーA16(CA16)、エンテロウイルス71(EV71)が主に手足口病を引き起こすウイルスとしてよく知られていますが、他にCA9やCA10なども原因ウイルスとなります。加えて、以前は主にヘルパンギーナの原因ウイルスとして認識されていたCA6による手足口病が近年は目立つようになってきており、日本では2009年に最初の報告例があり、その後しばしば大きな流行を起こすようになっています。基本的に予後は良好な疾患ですが、急性髄膜炎の合併が時に見られ、稀ではありますが急性脳炎を生ずることもあり、なかでもEV71は中枢神経系合併症の発生率が他のウイルスより高いことが知られています。
主に、乳幼児の感染が多いとされていますが、看病にあたった方が感染してしまうケースもあります。
今回は、「感染症・予防接種ナビ」にも、2歳の双子の娘さんが感染し、それぞれ手足口病・ヘルパンギーナと診断された、東京都・32歳あんずさんから寄せられた経験談をご紹介します。
娘が発症 看病していた私も…
1日目
保育園に通う双子の娘(まもなく2歳)が、38度の熱を出し早退。
病院に行き、1人はヘルパンギーナ、もう1人は発疹があるため手足口病と診断される。
その日、娘2人の嘔吐を浴びてしまう。
2日目
娘たちの嘔吐は治るも、夜になると発熱、夜中。
また、ヘルパンギーナに罹った方は喉か口が痛いようで水分もままならず。
3日目
娘たちの熱が治まる。
私自身、夕方から喉が痛くなる。
そして寒気、倦怠感、頭痛、発熱(38.1度)。
カロナールを飲んで就寝。しかし、喉の痛みと熱で時々起きる。
4日目
朝から倦怠感、食欲不振、喉の痛み。
カロナール飲んで就寝。
たっぷり汗をかき、薬が効いている間にヨーグルトを食べる。
午後も、カロナールを飲んで就寝。
同じく汗をかき、薬が効いている間におかゆを少し食べる。
寝る前にカロナールを飲むも、喉が痛くて何度も夜中起きる。
5日目
朝から喉が絶好調に痛い。
トローチを舐めたり、カロナールでなんとかしようとするも、痛すぎてうがいもできず、痰を吐き出すことしかできない。
また、鼻の穴が痛く、見たら真っ赤になっていた。
そして、娘も相変わらず飲食ができないため、保育園を休まざるをえず、私も仕事を休まないと…と思いながら経験談を投稿してみた。
感染症の専門医は…
感染症の専門医で大阪府済生会中津病院の安井良則医師は、「ヘルパンギーナはエンテロ属のウイルスですが、手足口病を引き起こすウイルスとして知られるコクサッキーA6は、元々はヘルパンギーナのウイルスとしても知られています。症状の出かたなどで、手足口病なのか、ヘルパンギーナなのか、診断が異なることもあります。今回の親御さんへの感染経路は、定かではありませんが、手足口病の感染経路としては飛沫感染、接触感染、糞口感染があげられます。感染予防は手洗いの励行が基本となります。しかし、症状が回復した後も比較的長期間に渡ってお子さんの便などからウイルスが排泄されることがあり、排泄物の適正な処理が必要です。また、大人であっても、じゅうぶんな免疫がない場合は、発症し、高熱や発疹が出てしまうこともあります。」
まとめ
手足口病・ヘルパンギーナの原因とされるエンテロウイルスやコクサッキーウイルスは、アルコール消毒が効きにくいため、手洗いは、流水とせっけんを用いて行ってください。
また、おむつ交換時はマスクや手袋・エプロン等を着用して処理するようにしてください。
タオルの共用はしないでください。
症状
従来のCA16およびEV71による手足口では、3~5日間の潜伏期間の後に、口腔粘膜、手掌、足底や足背などの四肢末端に2~3mmの水疱性発疹が出現してきます。発熱は約3分の1に認められますが軽度であり、高熱が続くことは通常はありません。通常は3~7日の経過で軽快し、水疱の跡が痂皮(かさぶた)となることもありません。このように手足口病は基本的には数日間の内に治癒する予後良好の疾患ですが、まれではあるものの髄膜炎を合併することがあり、非常に少ない例ですが、他に小脳失調症、脳炎などの中枢神経系の合併症などのほか、心筋炎、急性弛緩性麻痺などの多彩な臨床症状を呈することもあります。特にEV71に感染した場合は、中枢神経系の合併症を引き起こす割合が高いことが明らかとなってきていますので注意が必要です。
一方、近年みられるようになったCA6による手足口病では、水疱が5mm程度と大きく、四肢末端に限局せずに前腕部から上腕部、大腿部から殿部と広範囲に認められ、発熱も39℃を上回ることも珍しくなく、水痘との鑑別が困難な例もあります。また、手足口病を発症して治癒した後に、数週間を経て上下肢の爪が脱落する爪甲脱落症を来す場合があり、CA6を原因とする手足口病の特徴となっています。
治療
特異的な治療法はなく、抗菌薬の投与は意味がありません。発疹に痒み(そう痒感)などを伴うことは稀であり、抗ヒスタミン薬の塗布を行うことはありますが、通常は外用薬としての副腎皮質ステロイド剤は用いられません。口腔内病変を伴いますので、乳幼児の場合は刺激にならないように柔らかめで薄味の食べ物が奨められますが、水分が不足しないように、経口補液などで水分を少量頻回に与えることのほうがより重要です。時には脱水を防ぐために経静脈補液が必要となる場合もあります。発熱に対しては、通常は解熱剤なしで経過観察が可能です。しかし、元気がない(ぐったりしている)、頭痛、嘔吐、高熱、2日以上続く発熱などの場合には髄膜炎、脳炎など中枢神経系の病変の合併に注意する必要があります。ステロイド剤の多用が症状を悪化させることが示唆されています。
感染経路
手足口病の感染経路としては飛沫感染、接触感染、糞口感染があげられます。保育園や幼稚園などの乳幼児施設においての流行時の感染予防は手洗いの励行と排泄物の適正な処理が基本となります。しかし、本疾患は主要症状が回復した後も比較的長期間に渡って児の便などからウイルスが排泄されることがあり、加えて流行時には無症状病原体保有者も相当数存在していると考えられるため、発症者のみを隔離したとしても、効果的な感染拡大防止策となるとは考え難いです。基本的には軽症疾患であることを踏まえ、回復した児に対して長期間の欠席を求めることも得策ではありません。
引用
厚生労働省 手足口病Q&A
国立感染症研究所 手足口病とは
取材
大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏