RSウイルス感染症の感染拡大傾向が止まりません。国立感染症研究所の第26週(6/27-7/3)速報データによると、RSウイルス感染症の定点当たりの報告数が、前週と比べて全国で約1.6倍と、急激に増えています。
都道府県別に見ると、三重、愛知、島根、大阪、岐阜の定点あたりの報告数が多く、かつ前週から数字を伸ばしています。大阪府感染症情報センターによると、「第26週は前週との比較で約2倍の報告数がありました。流行は府全体で増加しているので、今後の動向に注意が必要」としています。
感染症の専門医は・・・
感染症の専門医で、大阪府済生会中津病院の安井良則医師は、「この感染拡大傾向は、これからも続くと予想されます。現在流行中の府県から近隣の県に広がり、最終的には全国でRSウイルス感染症の流行が見られるようになると思います。RSウイルスは、生涯で何度も感染します。大人は繰り返し感染することで免疫ができるので、感染したとしても軽い風邪のような症状や、発症しないことも多いですが、乳幼児や、特に初めてかかった新生児は重症化することがあります。時に子どもの命に関わることもあるので、RSウイルス感染症の流行は、とても心配です」と話しています。
RSウイルス感染症とは?
RSウイルス感染症は、病原体であるRSウイルスが引き起こす、呼吸器の感染症です。RSウイルスは、日本を含め世界中に分布しているので、どこでも感染の可能性があります。
RSウイルスは、ウイルスに感染している人の咳やくしゃみ、会話の際に飛び散る飛沫、さらにはウイルスがついている手指やドアノブ、手すり、コップ、おもちゃなどから感染します。
RSウイルス感染症の症状は?
RSウイルスには、生後1歳までに半数以上が、2歳までにほぼ100%の子どもが少なくとも1度は感染するとされています。RSウイルス感染症の症状としては、発熱、鼻汁などで、数日続きますが、多くは軽症で済みます。
ただし、あまり感染の経験のない乳幼児や、感染した子どもを看護しウイルスを大量に浴びた保護者や医療スタッフ、免疫力の低下した高齢者などは、咳がひどくなる、喘鳴が出る、呼吸困難などの症状が出る場合があり、細気管支炎、肺炎などに進展していく可能性があります。
初感染の乳幼児は、突然死につながることも!
最も注意しなければならないのは、初感染の乳幼児です。感染すると、約7割は鼻汁などの上気道炎症状のみで数日のうちに良くなりますが、残りの約3割では、咳が悪化し、「ヒューヒュー・ゼイゼイ」といった喘鳴(ぜんめい)、呼吸困難の症状が現れます。
また、生後1ヶ月未満の赤ちゃんが感染した場合は、症状がはっきりせず診断が困難な場合があり、突然死につながる無呼吸発作を起こすことがあります。
低出生体重児や、心臓に肺に基礎疾患があったり、神経や筋肉の疾患があったり、免疫不全が存在する場合には、重症化のリスクが高まります。
高齢者施設での集団感染の可能性も
一方、安井良則医師は、「RSウイルスは、高齢者が感染すると重症化することもあるので、介護施設などで集団感染が発生しないようにすることも重要です」と話しています。
RSウイルスは、高齢者にとってはインフルエンザウイルスと同等の致命率を引き起こすとされ、合併しやすい基礎疾患の重症化にも関与している可能性があるとの報告があります。RSウイルス感染症の流行は、赤ちゃんやお年寄りにとって、憂慮すべき事態なのです。
ちょっとでも咳が出たら、赤ちゃんに近づかないで!
RSウイルス感染症の予防には、マスクの着用、流水・石鹸による手洗いかアルコール製剤による手指の衛生が有効です。また、おもちゃ・手すりなど、子どもたちが手を触れそうなもの・場所は、こまめにアルコールや塩素系の消毒剤で消毒しましょう。
そして、大人の軽い風邪が、RSウイルス感染症の場合があります。少しでも咳や鼻水が出たら、大人も子どもも、赤ちゃんに近づかないよう心がけましょう。
引用
国立感染症研究所:IDWR速報データ2022年第26週、
成人・高齢者におけるRSウイルス感染症の重要性
大阪府感染症情報センター:大阪府感染症発生動向調査週報2022第26週
厚生労働省:RSウイルス感染症Q&A
取材
大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏