梅毒の患者数の伸びが止まりません。
国立感染症研究所の2022年第22週(5/30~6/5)IDWR速報データによると、全国で4,471人の患者が報告されています。
都道府県別にみると、東京・大阪・愛知など、大都市を抱えるエリアだけでなく、北海道・福岡でも患者報告数が増えています。
広島での患者数は、昨年のおよそ3倍になっています。
2022年第22週(5/30~6/5)は、1年の折り返しとなる週ですが、このペースで患者報告が続けば、今世紀最大の患者数が報告された、2021年を上回ることが予測されます。
専門家は…
感染症の専門医で大阪府済生会中津病院の安井良則医師は、「夏は開放的になったり、国内での移動が増える時期になります。それに伴い、梅毒の患者数も増加することが予測されます。20代をはじめとする若い男女間で流行が広がりをみせていますが、『梅毒』についての知識がないため、流行を更に広げている可能性があります。若い女性が感染を知らずに、妊娠・出産した場合は、先天梅毒にお子さんがなる可能性があります。
性産業に従事する方や、サービスを受けた方が、気づかないうちに、周囲に感染を拡大させている可能性があります。心当たりのある方で、主に陰部、口唇部、口腔内、肛門等にしこりなどの症状がある場合は、皮膚科に相談してください」としています。
広島市は…
広島市健康福祉局は「梅毒の患者数が増えているので注意してほしい。梅毒は、過去の病気ではなく、現在も流行しています。不安があれば、無料・匿名のHIV検査と併せて『梅毒』の検査も行っています。また、症状に心当たりがある方は、医療機関を受診し適切な治療に繋げてほしい」としています。
症状
感染したあと、経過した期間によって、症状の出現する場所や内容が異なります。
<第Ⅰ期:感染後約3週間>
初期には、感染がおきた部位(主に陰部、口唇部、口腔内、肛門等)にしこりができることがあります。また、股の付け根の部分(鼠径部)のリンパ節が腫れることもあります。痛みがないことも多く、治療をしなくても症状は自然に軽快します。
しかし、体内から病原体がいなくなったわけではなく、他の人にうつす可能性もあります。感染した可能性がある場合には、この時期に梅毒の検査が勧められます。
<第Ⅱ期:感染後数か月>
治療をしないで3か月以上を経過すると、病原体が血液によって全身に運ばれ、手のひら、足の裏、体全体にうっすらと赤い発疹が出ることがあります。小さなバラの花に似ていることから「バラ疹(ばらしん)」とよばれています。
発疹は治療をしなくても数週間以内に消える場合があり、また、再発を繰り返すこともあります。しかし、抗菌薬で治療しない限り、病原菌である梅毒トレポネーマは体内に残っており、梅毒が治ったわけではありません。
アレルギー、風しん、麻しん等に間違えられることもあります。この時期に適切な治療を受けられなかった場合、数年後に複数の臓器の障害につながることがあります。
<晩期顕性梅毒(感染後数年)>
感染後、数年を経過すると、皮膚や筋肉、骨などにゴムのような腫瘍(ゴム腫)が発生することがあります。また、心臓、血管、脳などの複数の臓器に病変が生じ、場合によっては死亡に至ることもあります。
現在では、比較的早期から治療を開始する例が多く、抗菌薬が有効であることなどから、晩期顕性梅毒に進行することはほとんどありません。また、妊娠している人が梅毒に感染すると、胎盤を通して胎児に感染し、死産、早産、新生児死亡、奇形が起こることがあります(先天梅毒)。
治療
一般的には、外来で処方された抗菌薬を内服することで治療します。内服期間等は病期により異なり、医師が判断します。病変の部位によっては入院のうえ、点滴で抗菌薬の治療を行うこともあります。医師が治療を終了とするまでは、処方された薬は確実に飲みましょう。性交渉等の感染拡大につながる行為は、医師が安全と判断するまでは控えてください。
また、周囲で感染の可能性がある方(パートナー等)と一緒に検査を行い、必要に応じて、一緒に治療を行うことが重要です。
まとめ
広島市のようにHIV検査と合わせて、無料・匿名で梅毒の検査を行っている自治体もあります。
不安な方は、お住まいの自治体にお問い合わせてみてはいかがでしょうか。
また、男女ともに性風俗産業の従事歴や利用歴がなくても梅毒に感染しています。自分だけではなく、パートナーを含め、梅毒に関しての正しい知識をもつことが大切です。
引用:国立感染症研究所「梅毒とは」
取材:広島市健康福祉局
大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏