梅毒は、性的な接触(他人の粘膜や皮膚と直接接触すること)などによってうつる感染症です。
原因は梅毒トレポネーマという病原菌で、感染すると全身に様々な症状が出ます。特徴的なバラ疹と呼ばれる発疹が出ますが、アレルギーやじんましんと間違えたり、放っておくと、病態が進行します。
梅毒について、感染症専門医の大阪府済生会中津病院の安井良則医師に、お話を伺いました。
20代の若い女性に梅毒の患者が増えている
(安井医師)これまで梅毒は、海外からの持ち込みが感染経路とみられていましたが、コロナ禍で海外からの観光客が減少した後も、国内で患者報告数が増えています。中でも、20代を中心とした若い女性に多く、注意が必要です。
別の病気で入院する際の血液検査で、梅毒感染が判明
一般的に、入院時には血液のスクリーニング検査を行います。別の病気で入院した若い女性に、梅毒の感染が判明しました。梅毒の菌が体内に残っている状態でしたが、別の病気と並行して治療を開始し、無事に完治して帰宅されました。
若い女性が梅毒に感染した場合に心配なのが、本人の体をむしばむだけでなく、お腹の中の赤ちゃんにも影響を及ぼすことです。
梅毒に感染したことに気づかず妊娠して、妊婦健診など未受診のまま出産し、その結果、子どもが先天梅毒にかかっていたということもあります。
「先天梅毒」については、水疱性発疹や全身性リンパ節腫脹などの症状が子どもに現れます。
お子さんへの影響も考えると、バラ疹と呼ばれる特徴的な赤い発疹などが現れたことがある方は、医療機関などで早めの検査を心掛けてください。
今は、適切な治療により梅毒は治る感染症です。早めの検査と治療をおすすめします。
梅毒の主な症状
感染したあと、経過した期間によって、症状の出現する場所や内容が異なります。
<第Ⅰ期:感染後約3週間>
初期には、感染がおきた部位(主に陰部、口唇部、口腔内、肛門等)にしこりができることがあります。また、股の付け根の部分(鼠径部)のリンパ節が腫れることもあります。痛みがないことも多く、治療をしなくても症状は自然に軽快します。
しかし、体内から病原体がいなくなったわけではなく、他の人にうつす可能性もあります。感染した可能性がある場合には、この時期に梅毒の検査が勧められます。
<第Ⅱ期:感染後数か月>
治療をしないで3か月以上を経過すると、病原体が血液によって全身に運ばれ、手のひら、足の裏、体全体にうっすらと赤い発疹が出ることがあります。小さなバラの花に似ていることから「バラ疹(ばらしん)」とよばれています。
発疹は治療をしなくても数週間以内に消える場合があり、また、再発を繰り返すこともあります。しかし、抗菌薬で治療しない限り、病原菌である梅毒トレポネーマは体内に残っており、梅毒が治ったわけではありません。
アレルギー、風しん、麻しん等に間違えられることもあります。この時期に適切な治療を受けられなかった場合、数年後に複数の臓器の障害につながることがあります。
<晩期顕性梅毒(感染後数年)>
感染後、数年を経過すると、皮膚や筋肉、骨などにゴムのような腫瘍(ゴム腫)が発生することがあります。また、心臓、血管、脳などの複数の臓器に病変が生じ、場合によっては死亡に至ることもあります。
現在では、比較的早期から治療を開始する例が多く、抗菌薬が有効であることなどから、晩期顕性梅毒に進行することはほとんどありません。
また、妊娠している人が梅毒に感染すると、胎盤を通して胎児に感染し、死産、早産、新生児死亡、奇形が起こることがあります(先天梅毒)。
引用:国立感染症研究所「梅毒とは」
取材:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏