【感染症予報】8月に注意してほしい感染症 No1・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、No2・腸管出血性大腸菌感染症、No3・A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)、No4・RSウイルス感染症
8月に注意してほしい感染症
【No1】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)…国内の患者発生数は増加が続いており、1日当たりの患者発生数は過去最多を更新しています。新型コロナウイルス感染症の今後の発生動向には警戒が必要です。
【No2】腸管出血性大腸菌感染症…5月以降、患者数の増加傾向が続いています。8~9月は、患者発生のピークを迎える時期であり、腸管出血性大腸菌感染症の患者発生動向には注意が必要です。
【No3】A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)…例年と比べて患者発生の水準はかなり低くなっていますが、5月以降は緩やかながら患者発生数の増加傾向が続いています。8月は例年であれば患者数は減少が見られる時期ですが、今後の動向には注意が必要です。
【No4】RSウイルス感染症…例年と比べて患者発生数が非常に少ない状態が続いています。一方、近年は、RSウイルス感染症の流行の立ち上がりが早まり、8月は本格的な流行時期となっています。2020年は患者数の増加はまだ見られていませんが、8月に入ると増加してくる可能性があり、注意が必要です。
感染症ごとに、更に詳しくみていきましょう。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)
発熱・鼻水・のどの痛み・咳などといった、風邪のような症状から始まります。また、頭痛や強い倦怠感などが良く見られる症状です。下痢や味覚・嗅覚障害を伴うことも少なくはありません。症状の続く長さ(期間)については、風邪やインフルエンザと比べて長いという特徴があるようです。中国のデータによると、患者の8割は軽症で治癒するようです。一方、2割弱の患者では、肺炎の症状が強くなり、入院して酸素投与などの治療が必要になることがあります。重症化する場合は、発症から1週間前後で発熱や呼吸困難などの症状が悪化し、場合によっては人工呼吸器による管理が必要となる例も見られています。特に発症から10日間前後は、病勢が進行していく場合が多いですから、最初は軽症であると思っても、慎重な経過観察が必要です。
新型コロナウイルス感染症で重症化しやすいのは、高齢者と基礎疾患のある方と言われています。中国CDCのデータによると、高齢者ほど致死率が高くなることが示されています。厚生労働省が示している「新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安」にあるように、こういった方は一般の方よりも早めに、帰国者・接触者相談センターに相談しましょう。
コロナウイルスの感染経路は、飛沫感染と接触感染です。原則として空気感染はありません。最も重要な対策は、咳エチケットと手洗い・アルコール消毒など手指衛生を徹底することです。手洗いが大切な理由は、ドアノブや電車のつり革など様々なものに触れることにより、自分の手にもウイルスが付着している可能性があるからです。外出先からの帰宅時や調理の前後、食事前などこまめに手を洗いましょう。また、感染拡大を防ぐため、人と人との距離を保つことが重要です。専門家会議によると、これまで集団感染が確認された場所に共通するのは、
(1)換気の悪い密閉空間
(2)多くの人が密集していた
(3)近距離(互いに手を伸ばしたら届く距離)での会話や発声が行われた
という3つの条件(3つの密)が同時に重なった場所です。こうした場所ではより多くの人が感染していたと考えられます。これらの3つの条件が同時に揃う場所や場面をできるだけ予測し、避ける行動をとりましょう。また、これら3つの条件がすべて重ならないまでも、1つまたは2つの条件があれば、なにかのきっかけで3つの条件が揃うことがあります。3つの条件ができるだけ同時に重ならないようにすることが対策となります。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)
腸管出血性大腸菌感染症
腸管出血性大腸菌感染症は、感染後3~5日間の潜伏期間を経て、激しい腹痛を伴う頻回の水様性の下痢が起こり、その後で血便となります(出血性大腸炎)。発熱は軽度です。血便は、初期段階では、少量の血液の混入で始まりますが、次第に血液の量が増加し、典型例では血液そのもののような状態となります。発病者の6~9%では、下痢などの最初の症状が出てから5~13日後に溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症などの重篤な合併症をきたすことが知られています。HUSを合併した場合の致死率は3~5%といわれています。
<感染経路と対策1>
主な感染経路は、腸管出血性大腸菌によって汚染された食材や水分を経口摂取することによる経口感染です。例年、腸管出血性大腸菌の感染者の報告数は、0~4歳児が最多です。5~9歳がこれに次いで多い状況です。感染後の発症率も9歳以下は80%前後と高くなっています。牛の生肉や生レバーなどの内臓は、腸管出血性大腸菌の感染の可能性があるので食べるべきではありませんが、特に保育所に通っている年齢群の乳幼児では厳禁です。高齢者や乳幼児と日常的に接触する職業や立場の人(家庭も含めて)、あるいは免疫力の低下した人と接触する職業・立場の人は厳に慎むべきです。
<感染経路と対策2>
腸管出血性大腸菌は75℃で1分間加熱で死滅するので、乳幼児への食事はしっかりと加熱したものを供することが基本です。また焼肉などでは、生肉を扱った箸やトングなどは生食用のものと必ず使い分けましょう。過去の事例として野菜類(生野菜はもとより浅漬けなど)やそれ以外の加工食品(最近ではお団子の食中毒)での集団発生がありました。
腸管出血性大腸菌感染症
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)
溶連菌感染症の症状が疑われる場合は、速やかにかかりつけ医を受診しましょう。溶連菌感染症と診断され、抗菌薬が処方された場合は、医師の指示に従うことが重要です。途中で抗菌薬をやめた場合、病気の再燃や糸球体腎炎などの合併症を来すことが知られています。
溶連菌感染症は、学童期の小児に最も多く、3歳以下や成人では典型的な症状が現れることは少ないといわれています。症状としては2~5日の潜伏期間を経て、38度以上の発熱と全身倦怠感、のどの痛みによって発症し、しばしばおう吐を伴います。
また、舌にイチゴのようなぶつぶつができる「イチゴ舌」の症状が現れます。まれに重症化し、全身に赤い発しんが広がる「猩紅熱(しょうこうねつ)」になることがあります。また、十分な抗菌薬の投与による治療をおこなわないと、リウマチ熱や急性糸球体腎炎などを引き起こすことが知られています。
主な感染経路は、発症者もしくは保菌者(特に鼻咽頭部に保菌している者)由来の飛沫による飛沫感染と濃厚な直接接触による接触感染です。物品を介した間接接触による感染は稀とされていますが、患者もしくは保菌者由来の口腔もしくは鼻腔由来の体液が明らかに付着している物品では注意が必要です。発症者に対しては、適切な抗菌薬による治療が開始されてから48時間が経過するまでは学校、幼稚園、保育園での集団生活は許可すべきではないとされています。
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)
RSウイルス感染症
RSウイルス感染症は、病原体であるRSウイルスが伝播することによっておこる呼吸器感染症です。潜伏期間は2~8日、一般的には4~6日で発症します。多くの場合は軽い症状ですみますが、重い場合には咳がひどくなったり、呼吸が苦しくなるなどの症状が出ることがあります。
特に気をつけなければならないのが、生後数週間から数か月の赤ちゃんがRSウイルスに感染することです。感染すると、気管支炎、肺炎などを起こすことがあり、1~3%が重症化すると言われています。RSウイルス感染症の感染経路はインフルエンザと同様、飛沫感染や接触感染です。RSウイルス感染症のワクチンはまだ実用化されていません。予防法は、手洗い、咳エチケットなどが有効です。RSウイルス感染症には特効薬はありません。治療は症状を和らげる対症療法になります。
RSウイルス感染症
監修:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏