国立感染症研究所 感染症疫学センターは、2019年1月29日「風疹急増に関する緊急情報:2019年1月23日現在」を公開しました。その全文を掲載します。
風疹流行に関する緊急情報:2019年1月23日現在
国立感染症研究所感染症疫学センター
2019年第1~3週の風疹累積患者報告数は207人となり(図1)、第2週の報告数139人から68人増加した(図2-1、2-2)。なお、第3週(1月14日~1月20日)に診断されていても、2019年1月24日以降に遅れて届出のあった報告は含まれないため、直近の報告数の解釈には注意が必要である。
2008年の全数届出開始以降の風疹ならびに先天性風疹症候群の報告数を示す(図3)。過去には2012年に2,386人、2013年に14,344人の風疹患者が報告され、この流行に関連した先天性風疹症候群が45人確認されたが、2019年1月23日現在、2018年の流行による先天性風疹症候群の報告はない(図3)。
「風しんに関する特定感染症予防指針(厚生労働省告示第百二十二号:平成26年3月28日)」では、「早期に先天性風疹症候群の発生をなくすとともに、平成32年度までに風疹の排除を達成すること」を目標としている。先天性風疹症候群の発生を防ぐためには、妊婦への感染を防止することが重要であり、妊娠出産年齢の女性及び妊婦の周囲の者のうち感受性者を減少させる必要がある。また、現在の風疹の感染拡大を防止するためには、30~50代の男性に蓄積した感受性者を早急に減少させる必要がある。このため、厚生労働省は2019年~2021年度末の約3年間にかけて、これまで風疹の定期接種を受ける機会がなかった昭和37年4月2日~昭和54年4月1日生まれの男性(現在39歳9か月~56歳9か月)を対象に、風疹の抗体検査を前置した上で、定期接種(A類)を行うことを発表した。
2013年(14,344人)の流行以降、2014年319人、2015年163人、2016年126人、2017年93人と減少傾向であったが(図2-1,2-2,3)、2018年は第42週(10月15日~10月21日)の218人をピークとして、2,917人が報告された(図3)。
地域別には東京都(53人:第2週から15人増加)、神奈川県(31人:第2週から12人増加)、千葉県(24人:第2週から8人増加)、福岡県(17人:第2週から4人増加)、大阪府(16人:第2週から9人増加)、埼玉県(15人:第2週から6人増加)からの報告が10人以上と多く(図4、7)、第3週は兵庫県(4人)、京都府(2人)からも複数報告された(図5)。人口100万人あたりの患者報告数は全国で1.6人であり、佐賀県が6.0人で最も多く、次いで東京都、千葉県の3.9人、神奈川県の3.4人、福岡県の3.3人が続いた(図6)。関東地方からの報告数が128人で最も多いが、近畿地方から30人、九州地方から26人、中部地方から14人、中国・四国地方から8人、北海道・東北地方から3人が報告された(図4,7)。
報告された風疹患者の症状(重複あり)は、多い順に発疹206人(99.5%)、発熱176人(85%)、リンパ節腫脹115人(56%)、結膜充血94人(45%)、関節痛・関節炎56人(27%)、咳52人(25%)、鼻汁47人(23%)、血小板減少性紫斑病0人(0%)、脳炎0人(0%)であった。その他として、咽頭痛6人、頭痛5人、悪寒2人、倦怠感2人、血小板減少1人、咽頭違和感1人、下痢1人、胸部痛1人、眼脂1人(重複有)等が報告された。発熱、発疹、リンパ節腫脹の3主徴すべてがそろって報告されたのは99人(48%)であった。また、発熱初発日と発疹初発日が報告された170人のうち、発熱と発疹が同日に出現した人が57人(34%)、発熱より発疹が先に出現した人が20人(12%)、発疹より発熱が先に出現した人が93人(55%)であった。
検査診断の方法(重複あり)は、ウイルス分離1人(0.5%)、PCR法によるウイルス遺伝子の検出88人(43%)、この内7人については遺伝子型の記載があり、1Eであった。血清IgM抗体の検出は107人(52%)で、ペア血清による風疹抗体有意上昇は3人(1%)であった。
推定感染源は、207人中、特に記載がなかった者が158人(76%)と最も多く、不明・情報なしと記載された者が22人(11%)であった。また、何らかの記載があった27人(13%)中、職場の同僚・職場で流行等、「職場」と記載があった者が16人で最多であった。その他、家族5人(父1人、兄1人、姉1人、子1人、従兄弟1人)、友人・知人1人、ライブ1人、旅行2人、学校1人、通勤途中1人の記載があった。
2018年1月から届出票に追加された職業記載欄では、会社員と記載されていた人が88人と最も多いが、特に配慮が必要な職種として保育士が2人、医療関係者が1人報告された。
報告患者の93%(192人)が成人で、男性が女性の2.6倍多い(男性150人、女性57人)(図8,9,10)。男性患者の年齢中央値は39歳(3~63歳)で、特に30~40代の男性に多く(男性全体の59%)(図8)、女性患者の年齢中央値は31歳(8~69歳)で、特に妊娠出産年齢である20~30代に多い(女性全体の65%)(図9)。
予防接種歴は、なし(53人:26%)あるいは不明(140人:68%)が94%を占める(図8,9)。また、接種歴有り(14人:7%)と報告された者のうち、接種年月日、ロット番号ともに報告されたのは1人、接種年月日のみが報告されたのは4人、接種年月日・ロット番号ともに不明が9人であった。
国外での感染が推定された症例は4人(2%)と少ない(図11)。
風疹はワクチンによって予防可能な疾患である。今回報告を受けている風疹患者の中心は、過去にワクチンを受けておらず、風疹ウイルスに感染したことがない抗体を保有していない集団である。予防接種法に基づいて、約5,000人規模で毎年調査が行われている感染症流行予測調査の2017年度の結果を見ると、成人男性は30代後半(抗体保有率(HI抗体価1:8以上):84%)、40代(同:77~82%)、50代前半(同:76%)で抗体保有率が特に低い(図12,13,14-1)。2018年の風疹患者報告の中心もこの年齢層の成人男性であることから(図15)、この集団に対する対策が必要である。一方、妊娠出産年齢の女性の抗体保有率(HI抗体価1:8以上)は概ね95%以上で高く維持されていたが、妊婦健診で低いと指摘される抗体価(HI抗体価<1:8,1:8,1:16)の割合は20代前半で20%、20代後半で24%、30代前半で16%、30代後半で12%、40代前半で16%、40代後半で19%存在することから(図14-2)、特に妊娠20週頃までの妊婦の風疹ウイルス感染には注意が必要である。
日本において風疹ワクチンは、1977年8月~1995年3月までは中学生の女子のみが定期接種の対象であった(図16)。1989年4月~1993年4月までは、麻疹ワクチンの定期接種の際に、麻疹おたふくかぜ風疹混合(MMR)ワクチンを選択しても良いことになった。当時の定期接種対象年齢は生後12か月以上72か月未満の男女であった。1995年4月からは生後12か月以上90か月未満の男女(標準は生後12か月~36か月以下)に変更になり、経過措置として12歳以上~16歳未満の中学生男女についても定期接種の対象とされた。2001年11月7日~2003年9月30日までの期間に限って、1979年4月2日~1987年10月1日生まれの男女はいつでも定期接種(経過措置分)として受けられる制度に変更になったが、接種率上昇には繋がらなかった。2006年度から麻疹風疹混合(MR)ワクチンが定期接種に導入され、1歳と小学校入学前1年間の幼児(6歳になる年度)の2回接種となり、2008~2012年度の時限措置として、中学1年生(13歳になる年度)および高校3年生相当年齢(18歳になる年度)の者を対象に、2回目の定期接種が原則MRワクチンで行われた。
これらのワクチン政策の結果、近年の風疹患者の中心は小児から成人へと変化している。妊娠20週頃までの女性が風疹ウイルスに感染すると、胎児にも風疹ウイルスが感染して、眼、耳、心臓に障害をもつ先天性風疹症候群の児が生まれる可能性がある。妊娠中は風疹含有ワクチンの接種は受けられず、受けた後は2か月間妊娠を避ける必要があることから、女性は妊娠前に2回の風疹含有ワクチンを受けておくこと、妊婦の周囲の者に対するワクチン接種を行うことが重要である。
また、2013年の流行時には64人の血小板減少性紫斑病と11人の脳炎合併が報告されたが、2018年は13人の血小板減少性紫斑病と1人の脳炎合併が報告された。30~50代の男性で風疹に罹ったことがなく、風疹含有ワクチンを受けていないか、あるいは接種歴が不明の場合は、早めにMRワクチンを受けておくことが奨められる。風疹の抗体検査、風疹含有ワクチン接種に対する費用助成をしている自治体が増加している。居住地の自治体のホームページ等を確認して、対象者に該当する場合は、風疹の抗体検査、風疹含有ワクチンの接種を積極的に受ける事が望ましい。風疹はワクチンで予防可能な感染症である。