手足口病・西日本を中心に11府県で本格的な流行 定点当たりの報告数は前週と比較し増加
情報元:IDWR2015年第25週(2015年6月15日~2015年6月21日)監修:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏
情報元:IDWR2015年第25週(2015年6月15日~2015年6月21日)監修:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏

手足口病(hand, foot and mouth disease:HFMD)とは

 口腔粘膜および手や足などに現れる水疱性の発疹を主症状とした急性のウイルス性感染症であり、乳幼児を中心に主に夏季に流行します。この感染症の原因となるウイルスはエンテロウイルス属と呼ばれているウイルスの仲間であり、その中でもコクサッキーA16(CA16)、エンテロウイルス 71(EV71)が主に手足口病を引き起こすウイルスとしてよく知られていますが、他に CA9 や CA10 なども原因ウイルスとなります。加えて、以前は主にヘルパンギーナの原因ウイルスとして認識されていた CA6 による手足口病が近年は目立つようになってきており、日本では 2009 年に最初の報告例があり、その後しばしば大きな流行を起こすようになっています。基本的に予後は良好な疾患ですが、急性髄膜炎の合併が時に見られ、稀ではありますが急性脳炎を生ずることもあり、なかでも EV71 は中枢神経系合併症の発生率が他のウイルスより高いことが知られています。

 手足口病は主に夏季に流行する感染症であり、例年 7 月頃に流行のピークを迎えています。年齢別にみると 5 歳以下が流行の中心であり、感染症発生動向調査の小児科定点医療機関からの報告によると、2 歳以下からの報告数が全体の約半数を占めています。2000 年以降では、EV71 が「2000 年、2003 年、2006 年、2010 年に流行し、CA16 は2002 年、2008 年、2011 年に流行しました。一方、2011 年と 2013 年には CA6 による手足口病の流行が全国に拡大し、大規模な流行となり、成人での発症例も少なからずみられました。

地域別情報

 手足口病が本格的な流行となっている都道府県は、徳島県、香川県、山口県、兵庫県、福岡県、鹿児島県、京都府、奈良県、佐賀県、鳥取県、熊本県です。

※感染症アラート 2015年6月15日〜2015年6月21日 過去5年間の全国47都道府県の定点あたり報告数(厚生労働省・国立感染症研究所IDWR週報)の値の95%に相当するパーセンタイル点を超える値を本格的な流行としています。

治療

 特異的な治療法はなく、抗菌薬の投与は意味がありません。発疹に痒み(そう痒感)などを伴うことは稀であり、抗ヒスタミン薬の塗布を行うことはありますが、通常は外用薬としての副腎皮質ステロイド剤は用いられません。口腔内病変を伴いますので、乳幼児の場合は刺激にならないように柔らかめで薄味の食べ物が奨められますが、水分が不足しないように、経口補液などで水分を少量頻回に与えることのほうがより重要です。時には脱水を防ぐために経静脈補液が必要となる場合もあります。発熱に対しては、通常は解熱剤なしで経過観察が可能です。しかし、元気がない(ぐったりしている)、頭痛、嘔吐、高熱、2 日以上続く発熱などの場合には髄膜炎、脳炎など中枢神経系の病変の合併に注意する必要があります。 ステロイド剤の多用が症状を悪化させることが示唆されています。

感染経路

 手足口病の感染経路としては飛沫感染、接触感染、糞口感染があげられます。保育園や幼稚園などの乳幼児施設においての流行時の感染予防は手洗いの励行と排泄物の適正な処理が基本となります。しかし、本疾患は主要症状が回復した後も比較的長期間に渡って児の便などからウイルスが排泄されることがあり、加えて流行時には無症状病眼帯保有者も相当数存在しているとかんがえられるため、発症者のみを隔離したとしても、効果的な感染拡大防止策となるとは考え難いです。基本的には軽症疾患であることを踏まえ、回復した児に対して長期間の欠席を求めることも得策ではありません。
 
監修:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏
更新:2015/7/2

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