エボラ出血熱・医療機関の感染対策事例
安井良則氏が大阪府済生会中津病院感染管理室室長をしている医療機関での事例を紹介します。
尚、大阪府済生会中津病院は、感染症指定医療機関ではありません。

▼「感染症指定医療機関の指定状況」厚生労働省ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou15/02-02.html

【1】大阪府済生会中津病院でのEVD に関連した患者の受診について
 予め EVD の発症が疑われる場合、あるいはその可能性があるとわかっている患者が大阪府済生会中津病院(以降、当院)に搬送されてくる可能性ないし、もしそのような依頼があった場合はお断りして大阪府内の感染症指定医療機関(大阪市立総合医療センター、りんくう総合医療センター)に行っていただくべきである。

 一方、米国テキサス州の例のように、当該国への渡航歴があっても、発症後に病院を受診するまで はその事実が伝えられなかった例のように、来院後の問診や診察によって、EVD 発症の可能性が初め て考慮されるケースも出てくる可能性は否定できない。現在西アフリカでみられている EVD の流行 が、その収束の気配を見せずにさらに拡大していくならば、いずれ日本国内にも EVD 患者の発生が みられることを考慮すべきであり、当院においても万が一 EVD 発症の疑いがある患者が来院した場 合の対応策を予め準備しておく必要がある。以下に、EVD 発症の可能性が否定できない患者が当院を 来院した場合の対応について記述する。

【2】EVD 疑い例の症例定義
 済生会中津病院において、EVD 発症を疑う症例定義は以下の通りとする。

済生会中津病院におけるEVD疑い例の症例定義
@38℃以上の発熱があるかまたは24時間以内にあった
A頭痛、関節痛、筋肉痛、胸痛、腹痛等の疼痛症状がある(病状が進行すると嘔吐・下痢等の消化器症状や吐血・下血等の出血症状がみられることがある)
Bインフルエンザ等の他の感染症が否定的である
C発症前3週間以内にEVDの流行地域(現時点では西アフリカのギニア、シェラレオネ、リベリア)への渡航歴や居住歴、滞在歴がある
D発症前3週間以内にEVD発生地域《ギニア、シェラレオネ、リベリア、ウガンダ、スーダン、ガボン、コンゴ民主共和国(元ザイール)、コンゴ共和国》由来のコウモリ、ヒト以外の霊長類に直接素手で触る等の接触歴がある
E発症前3週間以内にEVD発症者(疑い患者も含まれる)の体液(血液、唾液、尿等)や分泌液、排泄物(便、嘔吐物)との適切な防護措置なしでの直接の接触歴がある(滞在国は問わない)
◎上記@〜Bを満たし、かつC、D、Eのいずれかを満たすものをEVD疑い
例とする。出血症状の有無は問わない
済生会中津病院ICT

※1.上記症例定義は厚生労働省ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/ebola.html を参照して作成したものであり、今後新たな情報に基づいて随時改訂する予定である。

【3】EVD 疑い例が来院した場合の対応について
(1)外来対応
・日勤帯の受診例は一般内科外来で、夜間等の当直帯の受診例は救急外来の別室で対応する
・日勤帯に EVD 疑い例が来院した場合は直ちに ICT に連絡する
・夜間等の当直対に EVD 疑い例が来院した場合は、可能であれば ICT に連絡を入れて対応を協議するべきであるが、不可能である場合には採血や胸部 X 線等の必要最小限の検査を行った上で東7階病棟の陰圧室に入院させる
・ICTの医師が EVD 発症の可能性があると判断した場合は保健所に連絡を入れて患者の検査、入院、搬送等について協議を行う
・行政検査として保健所に搬入すべき検体は血液、咽頭拭い液、尿となる
・保健所と協議した結果、EVD 発症の可能性が疑わしければ患者は感染症指定医療機関への転送となる(患者の搬送は行政機関が行う)が、まだどの段階で転送となるかの基準は現段階では示されていない
・EVD 疑い例に診察、処置、看護、治療等対応する者や、患者検体を取扱う者は全員が後述する予防衣(PPE)を装着する
・患者由来検体を採取した場合、検体の入ったスピッツの外側をアルコールで消毒した上でビニー ル袋で2重に密閉し、外側のビニールもアルコールで消毒した上で輸送する

(2)入院対応
・EVD の診断のために採取された患者由来検体は、大阪市保健所を経由して東京都武蔵村山市にある国立感染症研究所村山庁舎に搬入されて検査・分析される
・大阪から検体を送付しても、検査結果が出るまでには 24 時間以上を要する可能性が高い
・症例によっては、検査の結果が出るまでは当院において入院となる可能性があり、その場合は東7階病棟の陰圧個室で対応する(検査の結果否定された場合は感染隔離の対応は解除される)
・EVD は患者の体液に触れることによる接触感染が主な感染経路であり、空気感染は否定されているが、当院での患者隔離の観点からは陰圧個室への収容が最も望ましいと判断された
・患者の診察、治療は ICT の医師が中心となって行う
・EVD 疑い例に診察、処置、看護、治療等対応する者や、患者検体を取扱う者は全員が後述する予防衣(PPE)を装着する
・EVD 発症と判定された場合は感染症指定医療機関への搬送(患者の搬送は行政機関が行う)となる

【4】EVD発症が疑われる患者に診察、処置、看護等で直接接触するかもしくは患者由来検体を取り扱う際に対応すべき予防策について
(1)EVDの感染伝播力
EVDの感染伝播力は非常に強いというものではないが、その重症化率、死亡率の高さを鑑み、EVD発症が疑われる患者に対しては、標準予防策、接触感染予防策、飛沫感染予防策を最新の注意を払って厳重に実施することが望ましい。

(2)EVD疑い例対応予防衣(Personal Protective Equipment:以降 PPE)
EVD 疑い例(届け出基準でいうところの疑似症ではない)への診察、処置、治療、介助、介護、搬送、移送、収容されているもしくはされていた病室・診察室の掃除、環境消毒等に携わる病院職員は全て当院の定めるPPE を着用する。PPE はア)手袋、イ)防護服(水分を通さない長袖の上下繋ぎ、ない場合は手術用のアンダーウエア−を着用した上で手術衣と帽子)、ウ)マスク(現時点では N95 マスク)、エ)ゴーグル又はフェイスシールド、オ)シューズ、カ)シューズカバー(防水ビニール)、キ)ビニールエプロンとする。

@手袋について:
・手袋は手首を完全に覆う長さのもので、水を通さない材質のものでなければならない
・手指に良くフィットし、細かい作業(字を書く、紙をめくる、ひもを結ぶ、はさみを使う等)が可 能なものを選択するべきである
・EVD を疑う患者に対応する場合、手袋は2重に着用する

Aガウンについて:
・水を通さない材質のものであり、ディスポーザブルであるものが望ましい
・患者由来の体液(血液、分泌液、唾液等)が直接皮膚に付着することを防ぐために、上下繋ぎの長 袖長ズボンタイプのガウンが望ましい
・繋ぎのガウンがない場合は、手術用のアンダーウエア−を装着した上で手術着を着用する
・ガウンは滅菌である必要はない

Bマスクについて:
・EVD は空気感染が否定されているが、水を通さず立体的なマスクとして N95 マスクを使用するこ とを原則とする
・サージカルマスクを使用する場合は材質が水を通さず、かつ形状がしっかりとしていて崩れないも のが望ましい

Cゴーグルまたはフェイスシールド:
・患者由来の液体が目やその周辺に付着しないように防御する目的で使用する

Dエプロンについて:
・体の前面を保護するものである
・防水性であり、材質はビニール等でよい
・必要に応じて安全に破り捨てられるものがより推奨される

Eシューズカバーについて:
・ガウンとシューズの繋ぎ目およびシューズを保護するためのものである
・ビニール製等で水を通さない材質のものが望ましい

Fヘッドカバーもしくは帽子について
・繋ぎのガウンを着用する場合には不要である
・手術用ガウンを着用する場合は必要となる。材質は不織布性で水を通さず、また耳を完全に覆うも のが望ましい


監修:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏
更新:2014/10

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