国立感染症研究所の感染症発生動向調査週報2023年20週(5/15〜21)によると、RSウイルス感染症の患者の定点あたり報告数は1.56。前週と比較すると約1.5倍に急増。都道府県別では、和歌山の6.13を筆頭に、北海道、新潟、福井、滋賀、大阪、兵庫、奈良、広島、山口、佐賀、宮崎、鹿児島で2を超えています。
感染症の専門医は・・・
感染症の専門医で、大阪府済生会中津病院の安井良則医師は、「RSウイルス感染症は、一昨年に大きな流行がありましたが、今年は一昨年の状況とよく似ており、ゴールデンウィーク明けから報告数が急増しています。今までは近畿地方や九州地方に患者が多かったのですが、その間に位置する中国地方にも流行が広がってきました。これから首都圏や東日本にも流行が拡大する可能性もあります。一昨年のピークは7月上旬にありましたので、これからもしばらく患者数は増えるのではないかと予測しています。RSウイルス感染症は乳児にインパクトが大きく、生まれて間もないお子さんでも感染する可能性があります。特に流行している地域では、気をつけていただきたいです」と語っています。
RSウイルス感染症とは?
RSウイルス感染症は、RS(respiratory syncytial)ウイルスを病原体とする、乳幼児に多く認められる急性呼吸器感染症です。生後1歳までに50%以上、2歳までにほぼ100%の人が感染するとされています。初感染の場合、発熱や鼻汁、咳などの上気道症状が出現し、うち約20〜30%で気管支炎や肺炎などの下気道症状が出現するとされています。
主な感染経路は、患者の咳やくしゃみなどによる飛沫感染と、ウイルスの付着した手指や物品等を介した接触感染です。
乳児や基礎疾患のある子どもの感染に要注意!
RSウイルスは生まれて間もない乳児も感染のおそれがあり、生後1か月未満の乳児が感染した場合は診断が困難な場合があり、突然死につながる無呼吸発作を起こすことがあります。
また、低出生体重児や、心臓や肺に基礎疾患があったり、神経や筋肉の疾患があったり、免疫不全が存在する場合には重症化のリスクが高まります。重篤な合併症としては無呼吸発作や急性脳症などがあります。
大人や年長のきょうだいから感染の可能性が
RSウイルスには生涯で何度も感染しますが、何度も感染した子どもや大人の症状は軽く、風邪や気管支炎などの症状が出るか、あるいは無症状のこともあります。知らないうちにRSウイルス感染症にかかっていて、症状が重くなる可能性のある乳児にうつしてしまう可能性があるのです。
RSウイルスにはワクチンはなく、予防には飛沫感染と接触感染への対策が必要です。特に0歳児や1歳児にうつさないためには、咳などの呼吸器症状があるときはなるべく接触を避ける、どうしても接触する必要があるときはマスクをつける。また、手洗いやアルコール製剤による手指衛生も重要です。子どもたちが日常的に触れる場所やおもちゃなどは、アルコールや塩素系の消毒剤でこまめに消毒してください。
ヒューヒュー・ゼイゼイがあるときは早めに医療機関を受診!
安井医師は、「特に生後間もないお子さんは症状が分かりにくく、しかもRSウイルス感染症は急激に症状が悪化することがあります。呼吸が少しおかしい、ヒューヒュー・ゼイゼイといった喘鳴がある、あるいは機嫌が悪い、母乳やミルクの飲みが落ちるなど、いつもと違う様子があれば、早めにかかりつけ医などを受診していただければと思います」としています。
他にもさまざまな感染症が増加!
他にも感染性胃腸炎、溶連菌感染症、咽頭結膜熱、ヘルパンギーナなど、さまざまな感染症の定点当たり報告数が増えています。感染対策に気をつけて、健康な毎日を過ごしましょう!
引用
国立感染症研究所:感染症発生動向調査週報2023年20週(5/15〜21)、感染症発生動向調査から見る2018年〜2021年の我が国のRSウイルス感染症の状況
厚生労働省HP:RSウイルス感染症Q&A
取材
大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏