経験談のご協力をお願いします。
※皆様からご投稿いただきました感染症経験談は、研究活動の研究報告として提出予定です。
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概要

 感染性胃腸炎とは多種多様の原因によるものを包含する症候群名です。全国約3,000カ所の小児科定点からの患者発生報告数が増加するのは冬季です。その大半はノロウイルスやロタウイルス等のウイルス感染を原因とするものであると推測されています。また、患者発生のピークは例年12月中となることが多く、同時期の感染性胃腸炎の、特に集団発生例の原因の多くはノロウイルスによるものであると考えられてきました。

症状

 主な症状は、はき気、おう吐及び下痢です。通常は便に血液は混じりません。あまり高い熱とならないことが多いです。小児ではおう吐が多く、おう吐・下痢は一日数回からひどい時には 10 回以上の時もあります。感染してから発病するまでの「潜伏期間(せんぷくきかん)」は 1~2 日と他の感染症と比較して短い方であり、症状の持続する期間も数時間~数日(平均 1~2 日)と比較的短期間です。

 既に他の病気があったり、大きく体力が低下している等がなければ、重症化して長い間入院しなければならないことはまずありませんが、ごくまれにおう吐した物を喉に詰めて窒息(ちっそく)することがありますので注意してください。

治療法

 特効薬はありません。症状の持続する期間は短いですから、その間に脱水にならないように、できる限り水分の補給をすること(場合によっては病院で点滴をしてもらって)が一番大切です。

 抗菌薬は効果がありません。下痢の期間を遷延させることがあるので、ノロウイルス感染症に対しては通常は使用しません。
 その他は吐き気止めや整腸剤などの薬を使用する対症療法が一般的です。下痢が長びく場合には下痢止めの薬を投与することもありますが、最初から用いるべきではありません。

ノロウイルスの感染経路

 以前は、食中毒としての経口感染がよく知られていましたが、患者や無症状病原体保有者との直接もしくは間接的接触による接触感染や、患者の嘔吐物や下痢便を介した飛沫感染等のヒト-ヒト感染があります。その感染力は非常に強いものです。乳幼児の集団生活施設である保育所や幼稚園、小児の集団生活施設である小学校等においては、これら接触感染や飛沫感染等により、集団発生が繰り返されてきているものと推察されます。また、2006年12月の東京都豊島区のホテルにおいて発生した集団感染事例のように、「吐物や下痢便の処理が適切に行われなかったために残存したウイルスを含む小粒子が、掃除などの物理的刺激によって舞い上がり、それを間近とは限らない場所で吸引し、経食道的に嚥下して消化管へ至る感染経路」である「塵埃感染」が発生する場合があります。

予防方法

 ノロウイルスにはワクチンもなく、その感染を防ぐことは簡単ではありません。そして特に子ども達や高齢者には簡単に感染して発病します。最も重要で、効果的な予防方法は「流水・石けんによる手洗い」ですが、他にも様々な注意すべきことがあります。

 以下に、一般的な予防方法をあげてみました。しかし、今後も日本国内ではノロウイルス感染症の流行は続くでしょうし、子ども達は何度もその洗礼を浴びていくことでしょう。流行期には感染の機会はいたるところにありますし、また症状を持ったまま保育園、幼稚園、学校などに登園(登校)させることによって、その子どもが感染源となって周囲の子ども達に感染が広がっていき、それがまた各家庭に広がり、地域内で広がっていく事は理解しておいてください。

【1】調理と配膳に関して
人によっては感染しても発病せずに(不顕性感染と呼びます)、ノロウイルスを便から排出し続けている場合があります。保護者などの大人の方が知らないうちに子どもにノロウイルスを感染させてしまう可能性は低くはありません。以下の注意点を守ってください。

・調理の前と後で流水・石けん(液体石けんが推奨されます)による手洗いをしっかりと行うこと。
・貝類をその内臓を含んだままで加熱調理する際には十分に加熱して調理し、貝類を調理したまな板や包丁はすぐに熱湯消毒すること。
・食事を配膳する際にも手洗いをすることが勧められる。特に自分が下痢や吐き気がある場合は必ず行うこと。

【2】おう吐物・下痢便の処理
ノロウイルス感染症の場合、そのおう吐物や下痢便には、ノロウイルスが大量に含まれています。そしてわずかな量のウイルスが体の中に入っただけで、容易に感染します。また、ノロウイルスは塩素系の消毒剤(商品名:ピューラックス、ミルトンなど)や家庭用漂白剤(商品名:ハイター、ブリーチなど)でなければ効果的な消毒はできません。取り扱いには注意が必要です。

・処理:おう吐物や下痢便の処理をする前に、まず処理にあたる人以外の方を遠ざけてください。処理の際に吸い込むと感染してしまうおそれのある飛沫(ひまつ)が発生します。少なくとも他の人は 3m は遠ざかってください。また、放っておくと感染が広がりますので、早く処理する必要があります。以下、処理の手順についての方法を記しておきます。

・方法:マスク・手袋(この場合の手袋は清潔である必要はなく、丈夫であることが必要です)をしっかりと着用し(処理をする方の防御のためです)、雑巾・タオル等で吐物・下痢便をしっかりとふき取ってください。眼鏡をしていない場合は、ゴーグルなどで目の防御をすることをお勧めします。ふき取った雑巾・タオルは、ビニール袋に入れて密封し、捨てることをお勧めします。ふき取りの際に飛沫(ひまつ)が発生しますので、無防備な方々は絶対に近づけないでください。その後うすめた塩素系消毒剤(200~1000 ppm:塩素系消毒剤の原液を 50~200 倍程度に薄める)でおう吐物や下痢便のあった場所を中心に広めに消毒してください。
※消毒剤の希釈の際も素手で行わずに手袋を用いましょう。

・汚れた衣類など:おう吐物や下痢便などで汚れた衣類は大きな感染源です。そのまま洗濯機で他の衣類と一緒に洗うと、洗濯槽内にノロウイルスが付着するだけではなく、他の衣類にもウイルスが付着してしまいます。おう吐物や下痢便で汚れた衣類は、マスクと手袋をした上でバケツやたらいなどでまず水洗いし、更に塩素系消毒剤(200~1000 ppm)で消毒することをお勧めします。もちろん、水洗いした箇所も塩素系消毒剤で消毒してください。

家庭における注意点

 学校、職場、施設内でノロウイルス感染によるおう吐・下痢症が発生しても、その最初の発端は家庭内での感染による場合が多いです。特に子どもや高齢者は健康な成人よりもずっとノロウイルスに感染し、発病しやすいですから、家庭内での注意が大切です。
①最も重要な予防方法は手洗いです。帰宅時、食事前には、家族の方々全員が流水・石けんによる手洗いを行うようにしてください。
②貝類の内臓を含んだ生食は時にノロウイルス感染の原因となることを知っておいてください。高齢者や乳幼児は避ける方が無難です。
③調理や配膳は、充分に流水・石けんで手を洗ってからおこなってください。④衣服や物品、おう吐物を洗い流した場所の消毒は次亜塩素酸系消毒剤(濃度は 200~1000 ppm、家庭用漂白剤の場合は約 50~200 倍程度に薄めて)を使用してください。
※次亜塩素酸系消毒剤を使って、手指等の体の消毒をすることは絶対にやめてください。

感染症法における取り扱い(2012年7月更新
 「感染性胃腸炎」は定点報告対象(5類感染症)です。指定届出機関(全国約3,000カ所の小児科定点医療機関)は週毎に保健所に届け出なければなりません。

食品衛生法での取り扱い
 食中毒が疑われる場合は、24時間以内に最寄りの保健所に届け出ます。

参考資料として
・国立感染症研究所ホームページ「感染性胃腸炎とは」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/383-intestinal-intro.html
「ノロウイルス感染症とは」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/452-norovirus-intro.html
監修:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏
更新:2014/11/14