経験談のご協力をお願いします。
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エボラ出血熱(EVD)とは

 エボラウイルスによる感染症です。必ずしも発病者の大半が出血症状を伴うわけではないことなどから、最近ではエボラウイルス病(Ebola virus disease: 以降 EVD)と呼称されています。

症状

 EVDの一般的な症状は、突然の発熱、強い脱力感、筋肉痛、頭痛、喉の痛みなどに始まり、その後、嘔吐、下痢、発疹が出現します。肝機能および腎機能の異常も伴います。さらに症状が悪化すると出血傾向や意識障害が出現します。

 結膜充血などの急性眼症状は発熱などの他の徴候と併せて特定された場合、EVDの早期診断に寄与する可能性があります。検査所見としては白血球数や血小板数の減少、および肝酵素値の上昇が認められます。

 潜伏期間は2日から最長3週間といわれており、汚染注射器を通した感染では短く、接触感染では長くなる傾向があります。

 致命率が90%に達することがあります。2000年のウガンダでの流行では上記症状に加えて、衰弱のほか下痢等の消化器症状が目立ち、出血症状が認められたのは約10%でした。

 肝臓でのウイルス増殖による肝腫脹により、右季肋部の圧痛や叩打痛が特徴的です。

治療

 現時点で承認されたワクチンや治療薬はありませんが、コンゴ民主共和国における集団発生を受けて、研究段階にあるいくつかの薬剤がヒトへ投与されています。

 ワクチンはFDA未承認のrVSV-ZEBOVを感染拡大予防のために使用されます。
 治療薬はZmapp、Remdesivir、REGN、mAb114、Favipiravirが使用されています。

 現時点では、科学的に治療効果が証明されている薬剤はなく対症療法が基本となり、特に輸液管理が重要です。

感染経路

 発症前のEVD感染者は感染源になることはほとんどありません。
 EVD患者またはエボラウイルス感染動物の血液などの体液と直接接触した場合に感染します。

【動物→ヒトへの感染】
〇アフリカでは熱帯雨林の中で発見された、感染して発症または死亡した野生動物(チンパンジー、ゴリラ、オオコウモリ、サル、レイヨウ、ヤマアラシなど)をヒトが触れたことによると示唆される事例が報告されています。

【ヒト→ヒト感染】
〇発症した患者の体液(血液、唾液、分泌物等)に、直接的接触、またはそのような体液で汚染された環境への間接的接触で、創傷のある皮膚や粘膜を介してヒト-ヒト感染が起こります。

〇(免疫応答や炎症反応などが起こりにくい)精巣、眼球内部、中枢神経系において、EVDの回復後にもウイルスが存在し続けることがあります。

 発症3か月後の男性精液からエボラウイルスが検出された事例があります。 EVD感染後の性行為は発症後12か月まで又はRT-PCR法で2回陰性の結果が得られるまで、コンドームを装着することが推奨されています。

〇EVD治療9か月後にエボラウイルスが原因で遅発性の急性脳髄膜炎を発症した症例も報告されています。

〇EVD流行では地域で行われていた葬式の風習も(会葬者が遺体に直接触ること)、EVDの地域伝播に寄与します。

〇接触感染予防対策が適切になされないこと、適切に実施できない環境にあることが、医療従事者のエボラウイルス感染リスクとなります。

予防

〇流行地域に行かない(そのための情報をあらかじめ収集する)
〇野生動物に直接触れない
〇野生動物の肉を生で食さない
〇流行地では、患者(感染者)の体液(排泄物を含む)や、患者が触れた可能性のある物品に触れないようにする

消毒について

○エボラウイルスはエンベロープを有するウイルスであるため、ノロウイルスやアデノウイルスと は異なってウイルスに効果のある多くの消毒薬で消毒が可能です。
○感染発症後の致死率が高い疾患であるため厳重な消毒が必要です。
○消毒の際には手袋(二重が望ましい)、ガウン(上下つなぎが望ましい)、長靴、シューズカバー、マスク(患者がいない場所であれば N95 である必要はない)、ゴーグル(またはフェイスシ ールド)を装着します。
○使用可能な消毒剤には「消毒用アルコール」、「次亜塩素酸ナトリウム製剤(ミルトン、ピュー ラックス、デキサント等」、「グルタラール(ステリハイド、サイデックスプラス、ステリスコー プ等)」があります。

感染症法における取り扱い(2019年3月現在)

 全数報告対象(1類感染症)であり、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければなりません。

〇エボラ出血熱(エボラウイルス病)の国内初症例が発生した場合の情報の公表基準について(厚生労働省)
 2019年3月6日に開催された「第5回一類感染症に関する検討会」において国内でEVD患者の初発例が発生した場合の公表基準について検討が行われました。 (https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03840.html)

学校保健安全法における取り扱い(2019年3月現在)

 第1種の感染症に定められており、治癒するまで出席停止とされています。

 また、以下の場合も出席停止期間となります。

・患者のある家に居住する者又はかかっている疑いがある者については、予防処置の施行その他の事情により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで。
・発生した地域から通学する者については、その発生状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間
・流行地を旅行した者については、その状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間

参考資料として
・国立感染症研究所ホームページ 「エボラ出血熱とは(2019年03月27日改訂)


監修:大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏
更新:2020/06/19