食肉はじゅうぶんな加熱を 食肉はじゅうぶんな加熱を
厚生労働省によると、日本における細菌性食中毒の中で近年、もっとも多く報告されているのが、カンピロバクターによる食中毒です。カンピロバクター食中毒の主な原因と推定される食品、または感染源として、生の状態や加熱不足の鶏肉、調理中の取り扱い不備による二次汚染などがあげられています。症状は、下痢、腹痛、発熱、悪心、嘔気、嘔吐、頭痛、悪寒、倦怠感などで、多くの患者は1週間ほどで治癒します。

今回は、カンピロバクターによる感染症で、入院が必要になったケースをご紹介します。

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【カンピロバクター経験談】31歳 群馬県

10/3 焼肉屋で友人が鳥刺しを頼む。鶏肉を食べれないにも関わらず、生なら行けるかもと変な気を起こし食べる。非常に美味しかった。のちにこの時の自分を恨むことになるとは思いもせず…
10/4 夜中におへその右側の激痛で起きるが、眠かったのでそのまま就寝。
10/5 夜中の腹痛は治っていたが便秘気味。おへそ周りがカチカチに固くなっていて、水分不足で便が溜まっていると思っていた。
10/6 お昼過ぎあたりから倦怠感。だんだん関節も痛くなってきてコロナ疑う。お腹は快便で異常無し。夜に37.7℃。
10/7 みぞおちからおへそ下にかけて耐え難い腹痛。便は泥状、午前中2回トイレ。腹痛よりも辛かったのが関節痛と悪寒。寝返りするのも辛いくらいの関節痛と極暖+パーカー+フリース来て毛布をかけて30℃で暖房かけても間に合わないくらいの悪寒。病院に行き、確実に鳥刺しと診断受けて点滴してもらう。点滴中も腹痛で悶える…。午後になり水下痢、途中で下血。相変わらず関節痛と悪寒で苦しむ。カロナール飲んでも楽になるのは2〜3時間ほど。
10/8 熱は下がり、腹痛も少しましになったが、昨日よりもトイレに駆け込む回数が増えた。終始水下痢、たまに血混じり。お腹がとにかく張っている。新たな症状としてゲップが止まらない(今ここ)。
皆さんの体験談に励まされ、私もここにしたためさせていただいた次第です。初めて食べた鳥刺しとっても美味しかったですが二度と食べないと誓いました。もはや鶏という文字を見るだけで吐き気が…。早く回復することを祈るばかりです。

感染症に詳しい医師は…

感染症に詳しい大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長の安井良則医師は「カンピロバクター感染症の主な原因とされる鶏肉を生や半生、加熱不足の状態で食べるのは、感染のおそれがあるため、危険です。もう食べてしまったものは仕方ないですが、下痢・発熱などで大変な思いをされたことでしょう。しかし、こう言った症状よりも気がかりなのは、症状が回復した後、しばらくして『ギラン・バレー症候群』を発症することです。ギラン・バレー症候群にかかると、手足のしびれや麻痺が起こります。ある日、脚からしびれ、突然、立てなくなるケースがあり、再発の可能性もあります。ほとんどの方は、ギラン・バレー症候群を発症することはありませんが、重症例では、呼吸するための筋肉が麻痺することで、呼吸ができなくなり、命に関わるケースもあります。また、男性の方が、ギラン・バレー症候群発症率がやや高いとのデータもあります。カンピロバクター感染症の症状回復後に、身体に何らかの違和感を感じた場合は、医療機関を直ちに受診してください」としています。

概要

カンピロバクター属は家畜や家禽(鳥類に属する家畜のこと。ニワトリ、ウズラ、七面鳥など)の腸管や生殖器に感染する微生物です。1970年代にヒトの下痢症の原因であることが確認され、感染性腸炎の原因菌として広く認識されるようになりました。現在先進国では、散発性下痢症の原因として最も頻度の高い菌の一つであることがわかってきています。菌は乾燥に弱く室温では長く生きることができませんが、温度が低く湿潤しており酸素にさらされないほど生存日数が長くなります。そのため、冷蔵庫内はカンピロバクターの生存に好ましい環境と考えられます。

症状

主な症状は胃腸炎で、潜伏期間が2~5日間と他の胃腸炎よりやや長いことが特徴です。汚染食品中ではあまり菌が増殖せず、かつ少量の菌数でも発症するため、潜伏期間が長くなるのは摂取菌数の差によると考えられています。症状は下痢、腹痛、発熱、悪心、嘔吐、頭痛、悪寒、倦怠感などであり、他の感染型細菌性食中毒と酷似していますが、カンピロバクターは1日最高便回数が多く、血便を伴う比率も高いことが特徴です。発熱を伴うことが多く、改善病日でみるとカンピロバクターはサルモネラと比較して早く回復します。胃腸炎の局所合併症として胆嚢炎、膵炎腹膜炎などがあります。まれですが腸管外感染として菌血症、髄膜炎などがあります。

予後

一般的な予後は、一部の免疫不全患者を除いて死亡例も無く、良好な経過をとります。しかし、近年感染後1~3週間(中位数:10日間)を経てギラン・バレー症候群(GBS)を発症する事例が知られてきました。GBSの罹患率は諸外国でのデータでは、人口10万人当たり1~2人とされています。日本での発生状況については報告システムがなく実数は不明ですが、年間2,000人前後の患者発生があるものと推定されています。カンピロバクター感染症に後発するGBSはこれまで散発例として確認されてきましたが、1999年12月東京都において、カンピロバクター集団食中毒患者19名中、1名のGBS患者の発生が確認されました。

治療

一部の免疫不全者を除き予後は良好で、軽症例では抗菌薬治療なしでも自然に軽快することも多くあります。急性腹症、他の原因による急性胃腸炎、食中毒などと見分けながら食事療法、脱水の予防・治療などを行います。整腸剤は投与しますが、腸管蠕動(ぜんどう)を抑制するような薬剤は使用しないのが原則です。感染性は下痢急性期に高く、2~3週間排菌が持続しますが、有効な抗菌薬が投与されると排菌期間が短縮され、2~3日で感染性が失われます。

予防

 カンピロバクターは、低温環境下で、より長時間生存できるため、冷蔵庫を過信してはいけません。加熱には弱いので、食品の正しい加熱調理に努めるとともに、調理などの過程で他の生鮮食品や調理器具の汚染に注意しましょう。鶏肉などを取り扱う場合は調理する人の手洗い、まな板などの調理器具を清潔に保ちましょう。特に乳幼児には鶏刺し、砂ずり刺し、牛レバー刺しなどの生食はさせないようにすることが重要です。
食中毒が疑われる場合には、24時間以内に最寄りの保健所に届け出ましょう。


まとめ

カンピロバクターは牛や豚、鶏、猫や犬などの腸の中にいる細菌で、この細菌が付着した肉を生で食べたり、加熱不十分の状態で食べることによって、食中毒を発症します。家庭で調理する時はもちろん、飲食店で提供されるからといって安心してはいけません。特に鶏肉の生焼けや生食は避け、じゅうぶんに加熱されたものを食べましょう。市販の鶏肉からも、カンピロバクターが高い割合(厚生労働省によると20~100%)で検出されることがわかっています。家庭で調理する際は、中心部を75℃で1分以上加熱することを目安に、表面だけでなく、中心まで完全に白くなっていることを確認してから食べるようにしましょう。一部分でも赤みが残っている場合は、必ず再加熱し、そのまま食べるようなことは決してしないでください。また、調理前は必ず手を洗い、サラダなど生で食べる食材とは別に調理するなど、二次汚染を防止しましょう。

引用
国立感染症研究所ホームページ「カンピロバクター感染症とは」

取材
大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長 安井良則氏