再登園の際は、登園届の提出を推奨 再登園の際は、登園届の提出を推奨
国立感染症研究所の2024年第32週(8/5-11)速報データによると、この週の「マイコプラズマ肺炎」定点あたり報告数は1.14。これで6週連続の増加となりました。定点当たり報告数が1を超えるのは2016年以来8年ぶりとなります。

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マイコプラズマ肺炎とは?

マイコプラズマ肺炎は、「肺炎マイコプラズマ」に感染することによって起こる呼吸器感染症です。肺炎マイコプラズマは、自己増殖が可能な最小の微生物で、生物学的には細菌に分類されています。小児や若い人の肺炎の原因としては比較的多いものの一つで、例年患者として報告されるもののうち約80%は14歳以下ですが、成人の報告も見られます。マイコプラズマ肺炎は1年を通じてみられますが、冬にやや増加する傾向があります。

感染症に詳しい医師は…

感染症に詳しい大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室長の安井良則医師は「第32週はお盆が始まる時期のデータなので、他の感染症の報告数は、概ね減少しています。一方、その中でマイコプラズマ肺炎が増加しているというのは、実際には更に大きな流行になっている可能性があります。今年に入り、マイコプラズマ肺炎患者を診察しましたが、初発症状は、発熱、頭痛、倦怠感。次いで、症状発現から3-4日目で咳が出てくると言った傾向がありました。もちろん、症状に個人差はあります。感染力は、それほど強くはなく、比較的近い距離で長時間接しないと感染しないので、感染はゆっくりと拡大していきます。しかし、現在、定点報告数は、着実に、右肩上がりに伸びており、流行は更に拡大し、秋ごろにピークを迎えるのではないかと予測しています」と語っています。

感染経路は?

感染は飛沫感染が多く、患者のせきの飛沫を吸いこんだり、患者と身近で接触したりすることにより感染すると言われています。家庭のほか、学校などの施設内でも感染の伝播がみられます。感染してから発症するまでの潜伏期間は長く、2〜3週間くらいとされています。

症状は?

発熱や全身けん怠感(だるさ)、頭痛、たんを伴わない咳などの症状がみられます。せきは少し遅れて始まることもあります。咳は熱が下がったあとも長期にわたって(3〜4週間)続くのが特徴です。多くの人はマイコプラズマに感染しても気管支炎ですみ、軽い症状が続きますが、一部の人は肺炎となり、重症化することもあります。一般には、小児の方が軽くすむといわれています。

治療には抗菌薬(抗生物質)が有効だが、耐性菌が増えている

治療には抗菌薬が有効ですが、近年マイコプラズマ肺炎に通常使用されている抗菌薬が効かない「耐性菌」が増えてきているとされています。
安井医師は「大阪府の病院レベルでの報告で、公的機関が出したデータではありませんが、耐性菌について、医師も想定しておかなければならない状況が現れています。マイコプラズマ肺炎の治療には、通常、マクロライド系の抗菌薬が用いられますが、それが効かない耐性菌の出現が、一部の病院で報告されています。先日、私の勤務先に入院された10代の方も、かかりつけ医で検査したところ、マイコプラズマ肺炎と分かりました。しかし、投与されていたマクロライド系の抗菌薬でよくならなかったため、私の勤務先に、入院し、耐性菌に効果のある別の薬を投与したところ、快方に向かいました。耐性菌の場合でも他の抗菌薬で治療が可能ですので、早めに医療機関で診断を受けて、適切な治療を受けることが重要です」と語っています。

合併症の可能性も

さらには合併症としては、中耳炎、無菌性髄膜炎、農園、肝炎、膵炎、溶血性貧血、心筋炎、関節炎、ギラン・バレー症候群、スティーブンス・ジョンソン症候群などが挙げられます。

予防法は?

飛沫感染はインフルエンザや新型コロナなどでも起きるので、同じ感染対策が有効です。普段からの手洗い、そして部屋の換気。患者の咳から感染するので、咳の症状がある場合にはマスクを着用するなど、咳エチケットも重要です。

学校が始まる9月以降、流行はさらに拡大し長引く可能性も

マイコプラズマは感染している人からの飛沫感染や接触感染でうつりますが、濃厚接触が必要と考えられており、地域での感染拡大速度は遅いとされています。短時間での接触では感染しにくいのですが、子供たちでの濃厚接触でうつることが多く、これから学校が始まり、友人たちと遊んでいるうちに感染が拡大していくおそれがあります。病原体の排出は症状が出る2~8日前から始まり、症状が出てから1週間程度は高いレベルで排出が続きます。さらにそのあと4~6週間以上排出が続くので、流行は比較的長く続く可能性があります。

登校・登園の目安は?

マイコプラズマに感染した場合、学校や幼稚園・保育園にはいつから登校・登園できるでしょうか。子ども家庭庁「保育所における感染症対策ガイドライン」によると、罹患した場合の登園の目安は「発熱や激しい咳がおさまっていること」とされています。登園の際、医師による意見書を提出する必要はありませんが、保護者が医師の診断を記載した登園届を提出するといいでしょう。

引用
国立感染症研究所:IDWR速報データ令和6年第32週(8/5-11)、マイコプラズマ肺炎とは
厚生労働省:マイコプラズマ肺炎に関するQ&A(平成23年12月作成、平成24年10月改訂)
子ども家庭庁:保育所における感染症対策ガイドライン(2018年3月、2023年5月一部改訂)

取材
大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室長 安井良則氏