流行地域は注意 流行地域は注意
2024年8月に注意してほしい感染症について、大阪府済生会中津病院の安井良則医師に予測を伺いました。流行の傾向と感染対策を見ていきましょう。

【2024年】8月に注意してほしい感染症!新型コロナ8月末に向け増加の予測 医師「患者の受け入れ態勢限界迎えつつある」 RSウイルス感染症・インフルエンザの動向要注視

【No.1】新型コロナウイルス感染症

最も、注意して頂きたい感染症に、新型コロナウイルス感染症をあげました。2024年5月の大型連休明けから、増加の一途をたどっています。7月末時点のデータで、昨年同週の全国定点報告数を上回るペースとなり始めました。8月は、例年高い流行水準となることから注意が必要です。大阪府では、以前と比べ、新型コロナ入院を受け付ける病院が減っているため、入院治療ができない方も出てくると予測されています。私の勤務先のコロナ病棟も満床状態です。現在、KP.3と呼ばれる新たな株が流行をみせていますが、KP.3はオミクロン株の一種で、以前に流行したBA2.86から派生した株です。ワクチンや感染による中和抗体による免疫からの逃避の可能性が高く、感染しやすいというBA2.86の特徴はそのまま引き継いでいるものと思われます。また、発症しても症状には大きな違いはないと考えられます。2023年5月から、5類に移行し、一年余りが経過しました。現在、入院される方は少なくなったものの、症状が悪化され搬送されてくるのは、ワクチン未接種の方が多い印象です。これから気温が高くなる季節を迎えますが、室内の換気など、基本的な感染対策を続けるなど決して油断しないでください。体調不良の場合や医療機関・高齢者施設を訪問の際はマスクの着用は必須です。2024年6月末時点で、沖縄県ではピークアウトの兆候がみられますが、全国的には、徐々に増えつつあります。例年通りであれば、梅雨明け頃から増加し、夏の流行を迎えると予測しています。KP.3の関連株が夏の流行の中心になると考えられます。流行の規模などは、予測できませんが、注意が必要と考えています。

【No.2】RSウイルス感染症

RSウイルス感染症が、徐々に増え始めています。春の流行後に、落ち着くかに思えましたが、下げ止まらず一定の流行を維持している状態です。大きな流行ではありませんが、気がかりな動きです。RSウイルス感染症は、流行期間に地域差があるため、何とも言えないのですが、九州各県や中四国など西日本で、高い値を示している地域もあり、今後の動向に注視が必要です。乳幼児には、インパクトの強い感染症なので、注意してください。RSウイルス感染症は、病原体であるRSウイルスによっておこる呼吸器感染症です。潜伏期間は2~8日、一般的には4~6日で発症します。特徴的な症状である熱や咳は、新型コロナウイルス感染症と似ており、見分けがつきにくいです。多くの場合は軽い症状ですみますが、重い場合には咳がひどくなり、呼吸が苦しくなるなどの症状が出ることがあります。RSウイルス感染症は、乳幼児に注意してほしい感染症で、特に1歳未満の乳児が感染すると重症化しやすいです。お子さんに発熱や呼吸器症状がみられる場合は、かかりつけ医に相談してください。感染経路は、飛沫感染や接触感染です。お子さん向けのワクチンはまだ実用化されていないため、手洗い、うがい、マスクの着用を徹底しましょう。家族以外にも保育士など、乳幼児と接する機会がある人は特に注意が必要です。

【No.3】マイコプラズマ肺炎

別名、オリンピック病と呼ばれ、4年に一度、オリンピックの年に流行すると言われています。しかし、前回の東京オリンピック開催予定年であった2020年は、コロナ禍で流行することはありませんでした。2024年に入り、徐々に患者数の報告が増えており、今年は流行すると予測しています。7年間ほど流行していなかったため、流行すると入院される方も増加します。2024年7月末時点のデータをみると、年初から、大きく増加。秋口あたりから、本格的な流行に移行する恐れもあり、注意が必要です。マイコプラズマ肺炎とは、肺炎マイコプラズマを病原体とする呼吸器感染症です。飛沫感染による経気道感染や接触感染によって伝播すると言われています。感染には濃厚接触が必要と考えられており、保育施設、幼稚園、学校などの閉鎖施設内や家庭などでの感染伝播はみられますが、短時間の曝露による感染拡大の可能性はそれほど高くはありません。潜伏期間は、2~3週間とインフルエンザやRSウイルス感染症等の他の小児を中心に大きく流行する呼吸器疾患と比べて長いです。初期症状として、発熱、全身倦怠、頭痛などが現れた後、特徴的な症状である咳が出現します。初発症状発現後3~5日から始まることが多く、乾いた咳が経過に従って徐々に増強し、解熱後も長期にわたって(3~4週間)持続します。抗菌薬投与による原因療法が基本ですが、「肺炎マイコプラズマ」は細胞壁を持たないために、β-ラクタム系抗菌薬であるペニシリン系やセファロスポリン系の抗生物質には感受性はありません。蛋白合成阻害薬であるマクロライド系(エリスロマイシン、クラリスロマイシン等)が第1選択薬とされてきましたが、以前よりマクロライド系抗菌薬に耐性を有する耐性株が存在することが明らかとなっています。近年その耐性株の割合が増加しつつあるとの指摘もあります。最初に処方された薬を服用しても症状に改善がみられない場合は、もう一度医療機関を受診していただくことをお勧めします。

【No.4】手足口病・ヘルパンギーナ

手足口病は、エンテロウイルスなどを病原体とする感染症で、流行は夏に集中しています。2024年6月頃から大きく増え始め7月末時点で、大きな流行をみせています。間もなくピークを迎えると考えられますが、患者報告数の動向は、見極めが必要であり、8月に入っても引き続き、注意が必要です。手足口病の症状の経過については、3日から5日の潜伏期間の後に発症し、口の粘膜・手のひら・足の甲や裏などに、2~3ミリの水疱性の発疹が現れます。手足口病の感染経路としては飛沫感染、接触感染、糞口感染があげられます。保育園や幼稚園などの乳幼児施設における流行時の感染予防は、手洗いの励行と排泄物の適正な処理が基本となります。喉からウイルスが排出されるため、咳をしたときのしぶきにより感染します。感染者との密接な接触を避けることや、流行時にうがいや流水石けんでの手指衛生を励行することが大切です。同じウイルス属のヘルパンギーナも、例年、5月頃より増え始め、7月頃にピークを迎えます。喉からウイルスが排出されるため、咳をしたときのしぶきにより感染します。感染者との密接な接触を避けることや、流行時にうがいや手指の消毒を励行することが大切です。一方で、手足口病・ヘルパンギーナともに個人差はあるものの疾患のインパクトについては、そこまで大きくならないケースが多いです。しかし、口腔内の水疱が破れ痛みを伴うため、食事の摂取や水分補給ができないお子さんもいらっしゃいます。気温の高さもあるため、脱水症状などにはじゅうぶん注意してください。

【要注意①】腸管出血性大腸菌感染症

腸管出血性大腸菌は、ウシ、ヤギ、ヒツジなどのひづめが二つに分かれているもの(偶蹄目)の腸管にすんでいる菌です。感染力が強いので、接触感染する可能性もあります。感染すると3~5日間の潜伏期間を経て、激しい腹痛を伴う頻回の水様性の下痢が起こり、その後、血便が出るケースもあります(出血性大腸炎)。また、発病者の6~9%では、下痢などの最初の症状が出てから5~13日後に溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症などの重篤な合併症をきたすことが知られています。主な感染経路は飲食物を介した経口感染であり、菌に汚染された飲食物を摂取することや、患者の糞便に含まれる大腸菌が直接または間接的に口から入ることによって感染します。腸管出血性大腸菌は、中心部まで75℃で1分間以上加熱することで死滅するので、食事の際はしっかりと加熱することが基本です。肉の生食や、生焼けで食べることは避けましょう。またバーベキューや焼肉などでは、生肉を扱った箸やトングなどは生食用のものと使い分けましょう。また、意外なところでは、ふれあい動物園などで、ヤギやヒツジから感染するケースもあります。動物と触れ合ったり、餌やりをした後は、必ず手を洗うようにしましょう。

【要注意②】梅毒

梅毒は、性的な接触(他人の粘膜や皮膚と直接接触すること)などによってうつる感染症です。原因は梅毒トレポネーマという病原菌で、病名は症状にみられる赤い発疹が楊梅(ヤマモモ)に似ていることに由来します。感染すると全身に様々な症状が出ます。性別関係なく、患者報告数が増えており、特に女性では、梅毒に感染したと気づかないまま妊娠して、先天梅毒の赤ちゃんが生まれる可能性があるので注意が必要です。妊娠中でも治療は可能です。ほとんどの産婦人科で、妊婦健診の際に血液検査をしてもらえます。妊娠したら必ず梅毒の検査を受けましょう。早期の投薬治療などで完治が可能です。検査や治療が遅れたり、治療せずに放置したりすると、長期間の経過で脳や心臓に重大な合併症を起こすことがあります。時に無症状になりながら進行するため、治ったことを確認しないで途中で治療をやめてしまわないようにすることが重要です。また患者本人が完治しても、パートナーも治療を行うなど、適切な予防策を取らなければ、感染を繰り返すことがあるため、注意が必要です。

感染症に詳しい医師は…

大阪府済生会中津病院の安井良則医師は「8月に最も注意してほしい感染症は、新型コロナウイルス感染症を挙げました。2023年の流行のピークは、8月末であり、2024年も同様の動きになるのではないかと予測しています。流行規模の予測は、困難ですが、8月は、特に注意が必要です。九州地方では、7月末時点でも、大きく上昇しています。沖縄県の保健師さんのお話では、勤務先の病院も、受け入れ態勢が取れない状況になっているとのことでした。また2024年第28週(7/8-14)の鹿児島県の定点報告数は30を超えており、医療機関に負担がかかっていることが推測されます。私の勤務先でも、満床状態が続いており、受け入れは限界を迎えつつあります。8月は、忍耐の一か月となりそうです。また、低調ではありますが、インフルエンザの定点報告数の動向も気がかりです。夏休みに入るため、学校・保育園等での感染は、減少すると考えられますが、2023年同様、ダラダラとした流行が続くことも考えられます。こちらも注意してください。更にマイコプラズマ肺炎の患者報告数が、着実に伸びています。発熱・咳・肺炎症状と、罹患すると大人でも辛い症状が出ます。注意してください」としています。

監修・取材
大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長 安井良則氏