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11月に注意してほしい感染症 11月に注意してほしい感染症
2023年11月に注意してほしい感染症について、感染症の専門医で大阪府済生会中津病院の安井良則医師に予測を伺いました。流行の傾向と感染対策を見ていきましょう。

【2023年】11月に注意してほしい感染症!専門医「インフルエンザ流行規模は予測不能 溶連菌感染症の動向気がかり 季節外れの流行のアデノウイルス感染症も…」 要注意は梅毒
【No.1】インフルエンザ
10月末に、当院の職員もインフルエンザワクチンの一斉接種が始まりました。ワクチン接種から、抗体ができるまで、約2-4週間かかり、持続期間は半年ほどと言われています。流行のピーク時期の予測は困難で、遅めに接種するとピーク時期に間に合わない可能性もあります。身の回りの流行に不安がある方は、接種を検討してください。インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症で、毎年世界中で流行がみられています。日本でのインフルエンザの流行は、例年11月下旬から12月上旬にかけて始まり、1月下旬から2月上旬にピークを迎え3月頃まで続きます。しかし、今季はシーズン入り前から、一定程度の患者報告数があり、例年の同時期に比べると高い水準でのシーズン入りとなりました。シーズン入りしてからは、首都圏などで、急激な増加をみせました。地域差や増加の幅など流行の動向がつかみにくいため、注意が必要です。主な感染経路は、くしゃみ、咳、会話等で口から発する飛沫による飛沫感染で、他に接触感染もあるといわれています。飛沫感染対策として、咳エチケットや接触感染対策としての手洗いの徹底が重要であると考えられますが、たとえインフルエンザウイルスに感染しても、全く無症状の不顕性感染例や臨床的にはインフルエンザとは診断し難い軽症例が存在します。これらのことから、特にヒト-ヒト間の距離が短く、濃厚な接触機会の多い学校、幼稚園、保育園等の小児の集団生活施設では、インフルエンザの集団発生をコントロールすることは、困難であると思われます。「学校サーベイランス」の情報では、お子さんの間で流行しています。今後、お子さんから、家庭に持ち込まれるケースも考えられるため、身の回りの流行状況に注意し、家庭内感染を広げないことが大切です。

【No.2】A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症) は、学校・幼稚園・保育園などでの流行が多くみられます。新学期が始まり、一定程度、増えることは予測していましたが、余りにも急激に増加しているので、注意が必要です。増え方のスタート地点が高かったため、今後、大きな流行となる可能性もあります。特に、小学校低学年のお子さんや幼稚園・保育園のお子さんは、注意が必要でしょう。溶連菌感染症は、例年、冬季および春から初夏にかけての2つの報告数のピークが認められています。保育所や幼稚園の年長を含め、学童を中心に広がるので、学校などでの集団生活や、きょうだい間での接触を通じて感染が広がるので、注意しましょう。感染すると、2~5日の潜伏期間の後に発症し、突然38度以上の発熱、全身の倦怠感、喉の痛みなどが現れ、しばしば嘔吐を伴います。また、舌にイチゴのようなぶつぶつができる「イチゴ舌」の症状が現れます。まれに重症化し、全身に赤い発疹が広がる「猩紅熱(しょうこうねつ)」になることがあります。発熱や咽頭痛など、新型コロナの症状と似ており区別がつきにくいため、症状が疑われる場合は速やかにかかりつけ医を受診しましょう。主な感染経路は、咳やくしゃみなどによる飛沫感染と、細菌が付着した手で口や鼻に触れることによる接触感染です。感染の予防には手洗い、咳エチケットなどが有効です。

【No.3】咽頭結膜熱
咽頭結膜熱は、例年6月から7月にかけて流行がピークを迎える感染症です。しかし、10月末時点でも、患者報告数が多くみられます。注意が必要です。症状は風邪とよく似ていますが、発熱、咽頭痛、結膜炎です。発熱は5日間ほど続くことがあります。眼の症状は一般的に片方から始まり、その後、他方に症状があらわれます。高熱が続くことから、新型コロナウイルス感染症とも間違えやすい症状です。吐き気、強い頭痛、せきが激しい時は早めに医療機関に相談してください。感染経路は、主に接触感染と飛沫感染です。原因となるアデノウイルスの感染力は強力で、直接接触だけではなくタオル、ドアの取っ手、階段やエスカレーターの手すり、エレベーターのボタン等の不特定多数の人が触る物品を介した間接的な接触でも、感染が広がります。特異的な治療方法はなく、対症療法が中心となります。眼の症状が強い時には、眼科的治療が必要となることもあります。予防方法は、流水・石鹸による手洗いとマスクの着用です。物品を介した間接的な接触でも感染するため、しっかりと手を洗うことを心がけてください。

【No.4】新型コロナウイルス感染症
10月末時点で、全国的に、患者報告数は、いったん落ち着いています。しかし、今後、感染者数がどのように推移するか、引き続き注意が必要です。2023年5月から、5類に移行しましたが、今でも、少ないながら、入院が必要なケースもあります。勤務先の病院に入院する患者さんの中には、肺炎を発症し、人工呼吸が必要なケースもあります。症状が悪化され搬送されてくるのは、ワクチン未接種の方が多い印象です。合併症の恐れがある方は、特に注意が必要です。ワクチンを接種した後も、基本的な感染対策を続けるなど決して油断しないでください。体調不良の場合や医療機関・高齢者施設を訪問の際はマスクの着用は必須です。今後の動向は、不明ですが、例年、12月に向け、患者方向数が上がってくるので、現時点で、警戒を解くわけにはいきません。

【No.5】感染性胃腸炎(ノロウイルス感染症)
感染性胃腸炎の一つである、ノロウイルス感染症は保育所や幼稚園、小学校などの集団生活で多くみられる感染症です。ノロウイルスに感染すると、多い時には10回以上のおう吐や下痢の症状が続きます。そのおう吐物や下痢便には、ウイルスが大量に含まれ、わずかな量のウイルスが体の中に入っただけで、容易に感染します。ノロウイルス感染症は有効とされるワクチンや薬がまだ開発されていないため、対症療法を行います。下痢止めを飲むと、ウイルスが体内に残ってしまうため、飲まないようにしましょう。嘔吐や下痢が続いている時は、脱水症状に注意して下さい。水分を補給する際には、電解質輸液が効果的です。
ウイルスが付着していると考えられる物品の消毒については、次亜塩素酸ナトリウム系(塩素系消毒剤)を用いて行いましょう。使用する濃度は500ppm以上が推奨されます。嘔吐や下痢などの症状が改善しても24時間は、自宅で様子をみるようにしましょう。症状がなくなったからといって、登園もしくは登校させると、集団感染につながるおそれがあります。

【要注意】梅毒
梅毒は、性的な接触(他人の粘膜や皮膚と直接接触すること)などによってうつる感染症です。原因は梅毒トレポネーマという病原菌で、病名は症状にみられる赤い発疹が楊梅(ヤマモモ)に似ていることに由来します。感染すると全身に様々な症状が出ます。
2023年の累積患者数は、1.2万人近いです。このまま増加が続けば、今年は15,000例ほどになることが予測されます。増加のペースは、昨年を上回り、11月中に昨年の患者数を超える可能性もあります。性別関係なく、患者報告数が増えており、特に女性では、梅毒に感染したと気づかないまま妊娠して、先天梅毒の赤ちゃんが生まれる可能性があるので注意が必要です。妊娠中でも治療は可能です。ほとんどの産婦人科では、妊婦健診の際に血液検査してもらえます。妊娠したら必ず梅毒の検査を受けましょう。早期の投薬治療などで完治が可能です。検査や治療が遅れたり、治療せずに放置したりすると、長期間の経過で脳や心臓に重大な合併症を起こすことがあります。時に無症状になりながら進行するため、治ったことを確認しないで途中で治療をやめてしまわないようにすることが重要です。また患者本人が完治しても、パートナーも治療を行うなど、適切な予防策を取らなければ、感染を繰り返すことがあるため、注意が必要です。

感染症の専門医は…

感染症の専門医で、大阪府済生会中津病院の安井良則医師は「最も気がかりなのは、インフルエンザの流行です。全国的には、緩い増加を示していますが、地域差があります。今後も増加が、予測されますが、いつ頃がピークとなるかの予測は困難です。10月にインフルエンザワクチン接種が始まりますが、流行のピークまでに間に合うか、気がかりです。11月下旬頃から寒さが強まりますが、12月に向けて、新型コロナウイルス感染症の患者報告数が増加する可能性も否定できません。10月末までに入手できるデータを基に予測をしていますが、現時点でも、新型コロナウイルス感染症に対する警戒を解くわけにはいかないと考えています。また、咽頭結膜熱に代表されるアデノウイルス感染症や溶連菌感染症の動向も気がかりです」としています。

取材
大阪府済生会中津病院院長補佐感染管理室室長 安井良則氏