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増加傾向 増加傾向
 国立感染症研究所の第35週(8/28-9/3)の速報データによると、咽頭結膜熱の全国の定点あたりの報告数は0.97。前週の0.68から約54%の増加となりました。減少していくかに見えた咽頭結膜熱ですが、大阪府は全国で最も高い3.22。周辺の兵庫県(2.22)・京都府(1.25)でも全国比で高い値となっています。大阪府では、定点辺りの報告数が1を上回った、第28週(7/10-7/16)から、増加傾向が続いていました。第35週(8/28-9/3)には、大阪府内における咽頭結膜熱の定点患者報告数は「3.22」となり、警報レベルの「3」を超え、大きな流行となっています。今後の動向に注意してください。

【2023年】9月に注意してほしい感染症! 専門医「コロナ減少傾向に入るか見極め必要」 季節外れの流行の感染症も… 要注意は梅毒・腸管出血性大腸菌感染症

咽頭結膜熱とは?

 咽頭結膜熱とは、アデノウイルスが原因の感染症です。例年7〜8月に感染のピークがあり、子どもの感染者が多く、プールでの接触やタオルの共用などにより感染することがあるので、「プール熱」としても知られている感染症です。症状としては、38~39度の発熱、ノドの痛み、結膜炎があります。5〜7日の潜伏期間の後に発症。まず発熱があり、頭痛、食欲不振、全体倦怠感とともに、咽頭炎による咽頭痛、結膜炎に伴う結膜充血、眼痛などがあり、3〜5日程度持続します。特に治療法はなく、対症療法が中心となります。子どもに多い感染症で、罹患年齢は5歳以下が約6割を占めているというデータもあります。生後14日以内の新生児に感染した場合は、全身性感染を起こしやすく、重症化する場合があることが報告されています。

感染症の専門医は…

 感染症の専門医で、大阪府済生会中津病院の安井良則医師は「大阪府の咽頭結膜熱の第35週(8/28-9/3)定点データは、警報基準の3を超える『3.22』となりました。大阪府は、上がり方も大きく、注意が必要です。また、全国的にも増えていますので注意してください。咽頭結膜熱は、アデノウイルスを原因とする感染症です。アデノウイルスが原因の感染症は、様々な症状を引き起こします。発熱・咽頭痛など、新型コロナウイルス感染症と似た症状も出ますし、中には症状が重くなる方もいらっしゃるので要注意です。『9月に注意してほしい感染症』で咽頭結膜熱を取り上げましたが、季節外れの流行で、ここまで増えてくるのは意外でした。3年間、大きな流行が無く、感受性者が増えていることも原因と考えられます。現在の増え方から、予測すると過去最高の水準に迫る勢いもあります。今後の動向には、じゅうぶん注意が必要でしょう」としています。

感染対策

 皆がよく手を触れるものを中心に消毒を行う場合、消毒薬としては次亜塩素酸ナトリウム(市販されているものではミルトンやピューラックス、家庭用漂白剤としてはハイターやブリーチ等)を 500~1000ppm 程度に薄めて使用することが推奨されます。ただし、次亜塩素酸ナトリウムの消毒液は、人体に用いてはいけません。アルコールは、効果はあるのですが、効力を発揮するのに 10分以上の時間を要するため、使用しづらいという難点があります。接触感染対策として最も重要なことは手指衛生です。手指衛生は、流水・石鹸による手洗いが最も効果的です。咽頭結膜熱は症状消失後も約 1 か月間に渡って尿・便中にウイルスが排出されるといわれています。更に、感染しても症状のない無症候病原体保有者や、明確に主な3つの症状があらわれないことも少なからずあると考えられています。これらのことから、医療機関を受診して咽頭結膜熱と診断された者だけを隔離等の感染対策の対象としても、効果的な対策に繋がることは期待できません。これがこの感染症の感染対策を困難にしていると思われます。特に感染経験の乏しい小児の集団生活施設である保育園、幼稚園、小学校等では流行時期になると集団発生がみられることも珍しくはありません。

アデノウイルスが起こす感染症

 咽頭結膜熱以外にも、アデノウイルスが原因の感染症は次のものがあります。

・呼吸器感染症
 主に3、7型によるもので、7型は重症の肺炎を引き起こすことがあります。乳幼児がかかることが多く、髄膜炎、脳炎、心筋炎などを併発することもあります。発熱や咳が長引き、呼吸障害など重症になることもあります。

・流行性角結膜炎
 8、19、37型および53、54、56型などによるもので、目が充血し、目やにが出ます。結膜炎経過後に点状表層角膜炎を作ることが多く、幼小児では偽膜性結膜炎になることもあります。

・出血性膀胱炎
 主に11型によるもので、排尿時痛があり、真っ赤な血尿が出ます。排尿時の痛みと肉眼的血尿が特徴で、これらの膀胱炎症状は2~3日で良くなります。

・胃腸炎
 主に31、40、41型によるもので、乳幼児期に多く、腹痛、嘔吐、下痢などを伴います。

アデノウイルス感染症の治療・予防

 咽頭結膜熱などアデノウイルスが原因の感染症を総称して「アデノウイルス感染症」と呼ぶこともあります。アデノウイルス感染症には抗ウイルス薬はありません。ほとんどは自然に治りますが、高熱が比較的長く(5日前後)続くことがあり、吐き気や頭痛が強い、咳が激しい時は早めに医療機関に相談してください。予防について、ワクチンはなく、接触感染・飛沫感染対策として流水や石けんによる手洗いなど手指衛生が重要です。夏場はプールなどで感染することも多く、プールから上がった時はシャワーを浴び、うがいをする。またタオルなどは共用せず、別々に使うことが感染防止につながります。


引用
国立感染症研究所:「IDWR速報データ2023年第35週」「咽頭結膜熱とは」「アデノウイルスの種類と病気」
大阪府感染症情報センター:大阪府感染症発生動向調査週報 (速報)2023年 第35週
厚生労働省:咽頭結膜熱について
取材
大阪府済生会中津病院感染管理室室長 安井良則氏