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毎年「冬」と「春から初夏」にかけて流行するA群溶血性レンサ球菌咽頭炎=溶連菌感染症。2020年の春以降大きな流行はありませんでしたが、これからの季節に流行が心配な感染症です。
溶連菌感染症とは?
溶連菌感染症は温帯地域ではよくある疾患で、いずれの年齢でもかかりますが、学童期の子どもに最も多く、3歳以下や成人では典型的な症状を呈す例は少ないとされています。主な感染経路は飛沫感染及び接触感染で、食品を介して経口感染する場合もあります。通常患者との接触を介して感染するため、家庭や学校などの集団での感染が多いのが特徴です。
溶連菌感染症の症状は?
主な症状としては、扁桃(へんとう)炎、伝染性膿痂疹(のうかしん)【=とびひ】、中耳炎、肺炎、化膿性関節炎、骨髄炎、髄膜炎などがあります。扁桃炎の症状としては、発熱やのどの痛み・腫れ、化膿、リンパ節炎が生じることがあります。舌がイチゴ状に赤く腫れ、全身に鮮紅色の発しんが出ることがあります。また、発しんがおさまった後、指の皮がむけることがあります。
伝染性膿痂疹(とびひ)の症状としては、発症初期には水疱(水ぶくれ)がみられ、化膿したり、かさぶたを作ったりします。
適切に治療すれば後遺症がなく治癒しますが、治療が不十分な場合には、発症数週間後にリウマチ熱、腎炎などを合併することがあります。
予防・治療方法は?
溶連菌感染症のワクチンは開発されていません。飛沫感染や接触感染による感染を防ぐためには、手洗いによる手指衛生など一般的な予防法を実施することが大切です。発症した場合は、抗菌薬によって治療ができます。合併症を予防するためには、症状が治ってからも、決められた期間抗菌薬を飲み続けることが重要です。
感染症の専門医は・・・
感染症の専門医で、大阪府済生会中津病院の安井良則医師は、「溶連菌感染症は、新型コロナウイルス感染症の流行が始まった2020年以来大きな流行はありませんが、今年の4月にはやや患者数が増加しました。今後の予測は難しいですが、流行する可能性もあるのではないかと思っています。ゴールデンウィークが終わり、学校や幼稚園・保育園が再開しました。溶連菌感染症は、子どもたちの間で感染が広がることが多い感染症ですので、引き続き感染対策には留意していただければと思います」としています。劇症型溶血性レンサ球菌感染症
また、溶連菌感染症の原因菌であるA群溶血性レンサ球菌が引き起こす感染症に「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」があります。突然発症し、急速に多臓器不全に進行する感染症で、「人食いバクテリア」などと呼ばれることもあります。日本では毎年数百人の患者が発生し、このうち約30%が死亡するという、致死率の高い感染症です。初期症状としては四肢の疼痛、腫脹、発熱、血圧低下などで、発病から病状の進行が非常に急激かつ劇的で、発病後数十時間以内には軟部組織壊死、急性腎不全、成人型呼吸窮迫症候群(ARDS)、播種性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全(MOF)を引き起こし、ショック状態から死に至ることも多いとされています。
安井医師は、「私たち臨床医の中では、足などの筋膜にレンサ球菌が入り込むことによって急激に組織が壊死する『壊死性筋膜炎』がよく知られています。筋膜は通常無菌である部位ですが、調べてみるとレンサ球菌が検出されて、劇症型溶血性レンサ球菌感染症であったということがわかるということがあります。壊死した部分は切除しないと命に関わるので、治療は急を要します。足であることが多いため、ケガなどから菌が入ったことが原因であると想像されますが、さまざまなケースが考えられます。溶連菌感染症の流行と劇症型溶血性レンサ球菌感染症には相関関係があるわけではありませんが、感染した部位によってはこんなに危険な感染症になるということを知っておいてほしいと思います」としています。
引用
国立感染症研究所:IDWR速報データ2023年第18週、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは、劇症型溶血性レンサ球菌感染症とは
厚生労働省 保育所における感染症対策ガイドライン(2018年改訂版)
取材
大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏
国立感染症研究所:IDWR速報データ2023年第18週、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは、劇症型溶血性レンサ球菌感染症とは
厚生労働省 保育所における感染症対策ガイドライン(2018年改訂版)
取材
大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏