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新潟県の現場医師を取材 新潟県の現場医師を取材
 国内の各地から、呼吸器ウイルス感染症である「ヒトメタニューモウイルス感染症」の発生を耳にするようになりました。

 全国的な統計データは無いものの、2022年の4〜5月に、沖縄県の小児基幹病院では7か月から6歳6か月までの7人の子ども(そのうちの5人は基礎疾患を有す)が入院。

 いずれも呼吸に障害があり、うちの2人は人工呼吸器を必要とするほどの症状でした。

 また、大阪府の小児科では7月以降抗原検査の陽性数が急増したほか、新潟県では複数の地域の保育園で感染が広がっていることが確認されています。

ヒトメタニューモウイルス感染症の症状は?

 ヒトメタニューモウイルス感染症の主な症状は、鼻炎、咽頭炎、副鼻腔炎などの上気道炎から、気管支炎、細気管支炎、肺炎などの下気道炎まで引き起こします。

 大部分は症状が出ないか、軽い咳や鼻汁程度のいわゆる「かぜ」の症状で済みますが、乳幼児や高齢者などでは呼吸困難になることもあり、酸素投与が必要な肺炎になることもあります。

 重症化する場合は高熱が持続し、ゼイゼイと呼吸が苦しくなる呼吸器症状が出ます。予防をするためのワクチンはなく、抗ウイルス薬もありません。治療は症状を和らげる対症療法になります。

現場の小児科医は・・・

 新潟県柏崎市の小児科医・村井力四郎医師は8月半ばから毎週ヒトメタニューモウイルス感染症の発症者を報告しています。

 「現在、検査キットが不足しており全員の患者を調べているわけではないのですが、ヒトメタニューモウイルス感染症の疑いがある子どもに対して検査をしており、毎週発症者が出ている状態です。保育所によってはクラスの半分が欠席、全体で100人近くが発熱や咳などの症状で休んでいるというケースもあり、ヒトメタニューモウイルス感染症が疑われます。生後6か月ぐらいから発症しており、熱が長く続き、強い咳が出るという症状の子どもが多くなっています」

感染経路は?

 ヒトメタニューモウイルスの感染経路は、主には飛沫感染と接触感染です。生後6か月頃から感染が始まり、2歳までに約50%、10歳までにほぼ全員が感染すると考えられています。

 1度での感染では十分な免疫を獲得できず、何度も再感染を繰り返します。大人になっても感染し、特に高齢者、基礎疾患がある方は注意が必要な感染症です。

感染症の専門医は・・・

 感染症の専門医で、大阪府済生会中津病院の安井良則医師も、大阪府でもヒトメタニューモウイルス感染症の報告を耳にすることが増えているといます。

 「ヒトメタニューモウイルスは、RSウイルス感染症と似た呼吸困難などの症状を起こしますが、高熱が4〜5日間続くと言われています。保育所などで子どもたちの間で感染が広がることも心配ですが、高齢者施設など集団感染が起きた事例が、過去に何度もあります。2001年に発見されたウイルスなので、まだ十分にわかっていないこともあります。あらゆる年代で、気にかけていただきたい感染症です」

2016年には特別養護老人ホームで集団感染の疑いがある事例も

 2016年には、特別養護老人ホームで発熱・咳・喘鳴(ぜんめい・・・ゼイゼイする)を訴える入所者が28人出て、うち9人が入院しました。発症者の1人からヒトメタニューモウイルスが検出され、集団感染が疑われる事例となりました。

 安井医師は「ヒトメタニューモウイルスは迅速検査キットがありますが、主に子どもの感染症と思われているので、大人に対してはあまり普及していないのではないかと思います。また、ヒトメタニューモウイルス感染症の発生は全国的な統計が取られていないので、実際にどの程度流行しているのか、正確に分からないのが現状です。この感染症の認知が高まり、対策が十分に取られることを望んでいます」としています。

ヒトメタニューモ感染症の予防方法は?

 ヒトメタニューモウイルス感染症の予防には、他の飛沫感染や接触感染で広がる感染症と同様の対策が有効です。

 飛沫感染対策としての咳エチケット、接触感染対策としての手洗いや消毒。そして新型コロナウイルス感染症と同様に3密を避け、部屋の換気をすることなども予防につながります。

引用
国立感染症研究所「COVID-19流行下の小児基幹病院における当院に入院した重症ヒトメタニューモウイルス感染症の状況」(IASR Vol. 43 p188-189: 2022年8月号)
「高齢者施設におけるヒトメタニューモウイルス感染症集団発生疑い事例」
(IASR Vol. 38 p248-250: 2017年12月号)

取材
大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏
新潟県柏崎市 村井こどもクリニック 村井力四郎氏