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ポリオという感染症をご存知でしょうか。ポリオ(急性灰白髄炎)は脊髄性小児麻痺(まひ)とも呼ばれ、ポリオウイルスによって発生する感染症です。世界では1950年代まではしばしば各地で流行し、日本でも1960年には5千人以上の患者が発生しましたが、ワクチンの開発・接種により多くの国で患者の発生が見られなくなりました。しかし今年、アメリカで10年ぶりに患者が発生、イギリスでも下水からポリオウイルスが検出されました。今後世界各地で、そして日本で流行の可能性はあるのでしょうか?
ポリオ(急性灰白髄炎)とはどんな病気?
病原体であるポリオウイルスは、ヒトの口の中に入って、腸の中で増えることで感染します。増えたポリオウイルスは、再び便の中に排泄され、この便を介して他の人に感染します。成人が感染することもありますが、乳幼児がかかることが多い病気です。感染者の90~95%は症状が出ない不顕性に終わりますが、約5%は発熱、頭痛、咽頭痛、悪心、嘔吐などの感冒用症状に終始し、1~2%はこれらの症状に引き続き無菌性髄膜炎(非麻痺型)を起こします。
さらに、感染者の0.1~2%は脊髄にウイルスが入り込むことで、主に手や足に麻痺が起こり一生残ってしまうことがあります。現在、麻痺に関する特効薬などの確実な治療法はありません。
また、死亡に至る可能性もあり、小児で2~5%、成人では15~30%と高くなります。妊婦がかかると重症になる傾向もあり、気をつけなければならない感染症です。
ポリオにはワクチンが有効
日本では1960年にポリオ患者が5千人を超え、かつてない大流行になりました。その事態を救ったのが、ポリオワクチンの導入でした。1961年に一斉に投与することで流行は急速に収束し、1963年からは定期接種となりました。1980年の症例を最後に、野生型ポリオウイルスによる麻痺の症例は見られていません。感染症の専門医で、大阪府済生会中津病院の安井良則医師は、「1961年のポリオワクチン一斉投与は、全国の母親たちによる市民運動が導入のきっかけになったと聞いています。当時は輸入のワクチンでしたが、その後国産のワクチンも開発され、発症の防止に大きな効果をもたらしました。当初は生ワクチンでしたが、現在は不活化ワクチンが導入され、4種混合ワクチンとして、定期接種になっています」と話しています。
4種混合ワクチンとは
4種混合ワクチンとは、ポリオ、ジフテリア、百日せき、破傷風の4つの感染症を予防するワクチンです。標準的なワクチン接種スケジュールは、初回接種については生後3~12か月の期間に20~56日までの間隔をおいて3回行います。さらに追加接種として、3回目の接種を行ってから12~18か月の期間に1回の接種を行います。定期接種となっているので、基本的には誰でも無料で受けられます。ワクチンの接種により99%の方が十分な抗体を獲得できるとされています。副反応については、発熱、発しん、局所の腫れなどが比較的よく見られ、極めてまれにアナフィラキシー、血小板減少性紫斑病などが見られます。
今後の流行の可能性は
アメリカやイギリスの下水で見つかったということは、感染者がいて、その方の排泄物が下水に流れたということが考えられます。今後、日本でも流行の可能性はあるのでしょうか。安井医師は、「日本では定期接種によりワクチンの接種が普及し、免疫を持っている方が多いので、今の時点では流行が広がるということはまず考えられないと思います。ただ、世界に目を向けてみると、アフリカやアジアの国々で、依然としてポリオが流行している地域があります。人の移動によりウイルスも移動して、思いもしないところで感染者が出ないとも限りません」シンガポール、オーストラリアなど、予防接種の接種率が高い国々では、ポリオの流行地からポリオ患者が入国しても、国内でウイルスが広がらなかったことが報告されています。子どもたちが感染しないためにも、そして日本国内での流行を防ぐためにも、予防接種を忘れないようにしましょう。
引用
国立感染症研究所 ポリオ(急性灰白髄炎・小児麻痺)とは
厚生労働省 ポリオについて、ポリオとポリオワクチンの基礎知識
取材
大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏
国立感染症研究所 ポリオ(急性灰白髄炎・小児麻痺)とは
厚生労働省 ポリオについて、ポリオとポリオワクチンの基礎知識
取材
大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏