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循環式浴槽や超音波加湿器で菌が増殖する可能性も! 循環式浴槽や超音波加湿器で菌が増殖する可能性も!
 千葉県市川市で、2022年8月5日、医療機関に入院中の91歳男性が、レジオネラ肺炎により亡くなりました。千葉県健康福祉部によると、男性は5月30日に発熱、4日後に呼吸苦の症状があったため救急搬送され、そのまま入院。医療機関の検査で「レジオネラ症」と診断されました。市川保健所では調査を実施しましたが、詳しい感染経路などは分からないとことです。

レジオネラ症とは…

 レジオネラ症は、レジオネラ・ニューモフィラを代表とするレジオネラ属菌による細菌感染症です。主な病型として、重症の肺炎を引き起こす「レジオネラ肺炎」と一過性の「ポンティアック熱」が知られています。

 レジオネラ属菌は、自然界(河川、湖水、温泉や土壌)に普通に存在する菌ですが、ジャグジーや加湿器、噴水、ビルの屋上に立つ冷却塔、そして循環水を利用した風呂などの人工環境で増殖する可能性があります。

 人から人へ感染することはありませんが、エアロゾル感染することが知られており、上記の場所や装置から発生する、菌を含む細かい水しぶきなどを吸い込むことで感染します。また、汚染された風呂の水などを誤嚥、レジオネラ属菌に汚染された腐葉土の粉じんを吸い込むことでも感染する可能性があります。

 国立感染症研究所の感染症発生動向調査によると、発生件数は去年は約2000件、今年もすでに1000件以上発生しており、全都道府県にわたっています。

レジオネラ症の症状は?

 レジオネラ肺炎は、潜伏期間が2~10日です(複数の集団感染の記録でも最大16日以内)。症状は、発熱、食欲不振、頭痛、倦怠感や無気力などで始まります。一部の患者は、筋肉痛、下痢、昏迷を起こします。通常、感染初期に起こす咳は軽度ですが、約半数の患者は痰を伴います。約3分の1の患者では、血液混じりの痰や血痰が現れます。疾患の重症度には、軽度の咳から急速で致命症に至る肺炎まで幅があります。呼吸不全や多臓器不全をともなう進行性の肺炎を起こすことで、死に至ることもあります。

 特に感染のリスクが高いのは、肺炎を起こす危険性が通常より高い高齢者や新生児です。また、免疫機能が低下している人、重喫煙者、透析、移植、糖尿病等の患者などもレジオネラ肺炎のリスクが高いとされています。

 一方、ポンティアック熱については、症状は軽く、発熱、悪寒、筋肉痛で始まるが、一過性で治癒するとされています。

治療方法は?

 治療には抗菌薬が有効ですが、注意が必要です。感染症の専門医で、大阪府済生会中津病院の安井良則医師は、「レジオネラ肺炎には全ての抗菌薬に効果があるわけではなく、特定の抗菌薬(マクロライド系、ニューキノロン系、リファンピシン等)のみに効果があります。早期に投与すれば効果がある薬なので、早期に診断し、正しい治療を行うことが重要です」と話しています。

レジオネラ症を防ぐために

 家庭では、追い焚き機能付きの循環式浴槽や加湿器などで、レジオネラ菌が繁殖する可能性があります。

 循環式浴槽では、浴槽内に汚れやぬめり(バイオフィルム=細菌で形成される生物膜)が生じないように定期的に洗浄等を行うなど、取扱説明書に従って維持管理することが重要です。

 加湿器は、水を加熱して蒸気を発生させるタイプの加湿器は感染源になる可能性は低い(レジオネラ属菌は60℃では5分間で殺菌される)とされていますが、超音波振動などの加湿器を使用する場合は、毎日水を入れ替えて容器を洗浄しましょう。取扱説明書には必ず記されていますが、菌の繁殖を抑えるために、ミネラルウォーターや浄水器の水などは使用せず、水道水を使用しましょう。

 また、過去には温泉や公衆浴場、スポーツクラブ、高齢者福祉施設などにある入浴設備などが感染源となる集団感染が発生し、死亡者が出たこともあります。入浴施設においては、消毒や清掃など適切な維持管理を普段から徹底し、レジオネラ属菌の発生を防ぐことが重要です。


引用
国立感染症研究所:IDWR速報データ2022年第30・31週
千葉県健康福祉部疾病対策課 2022年8月15日「感染症予防のための情報提供について」
厚生労働省検疫所 レジオネラ症 ファクトシート

取材
大阪府済生会中津病院感染管理室室長 国立感染症研究所感染症疫学センター客員研究員 安井良則氏